1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

2/22・聖域の人、ブニュエル

2013-02-22 | 映画
「ニャンニャンニャン」の2並びから「猫の日」である2月22日は、「遠山に日の当たりたる枯野かな」の句を詠んだ俳人、高浜虚子の誕生日(1874年)だが、映画監督、ルイス・ブニュエルの誕生日でもある。
自分が若いころは、東京の名画座で、よくブニュエルの映画がかかっていた。それで、「ブニュエル2本立て」とかいう新聞広告を見ると、せっせと足を運んではみたものだった。
ずいぶんみてきた気がするのだけれど、作品リストを見てみると、まだブニュエルが撮った半分もみていないし、その代表作のいくつかを見逃しているので、熱心なファンだとはとても言えない。
ブニュエルの作品は、見ると、胸に痛く響くものがあって、なんだか知らない人のような気がしない。シュールレアリズムの作品もそうだし、リアリズムの作品もそうで、なんともいえない、苦い味が、みた後もずっと心のなかに残って、忘れがたい。縁を感じる。
「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」「欲望のあいまいな対象」など、とくに身につまされる。
ほかの人なら、一笑に付しておしまいなのかもしれないけれど、自分にとって、向こうがなぜか自分をよく知っていて、「ほら、ここは感じるだろう?」と、こちらの弱みを針で的確に突いてくる、そういう怖い映画作家なのである。
それで、自分は、いくつかもっているブニュエル作品のDVDをときどき見返しては、また胸が痛むのを楽しむのである。ちょうど、サボテンをさわってみて「痛っ」と手をひっこめた後に、またさわってみようとする少年のように。

ルイス・ブニュエルは、1900年、スペインのアラゴン地方、カラダンで生まれた。17歳で、マドリードに出て、そのころ、詩人のガルシーア・ロルカ、画家のサルバドール・ダリらと友だちになった。
20代半ばのころ、ダリといっしょに話をしているうちに、夢で見た光景の話で盛り上がり、ついに二人で一本の短編映画を撮りあげた。それがシュールレアリズム映画の金字塔「アンダルシアの犬」である。
その後、スペイン、メキシコ、フランスと国を変えながら映画を撮りつづけ、「糧なき土地」「忘れられた人々」「昼顔」「哀しみのトリスターナ」「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」「自由の幻想」「欲望のあいまいな対象」などの作品を発表した後、1983年7月に没した。

以上にあげた映画は、自分が実際にみたなかで、とくに印象深かった作品である。
ダリと共同監督した「アンダルシアの犬」は、冒頭の有名な目をカミソリで切るシーンとか、最後の「春」の風景とか、まったく夢にでてきてうなされそうな印象強い傑作である。
「糧なき土地」や「忘れられた人々」の、ドキュメンタリー・タッチの、荒涼とした救いのない感じにも、しびれた。
「昼顔」と「哀しみのトリスターナ」は、大好きなカトリーヌ・ドヌーヴが主演していて、それだけでもいいのだけれど、二作品のドヌーヴが、まったく異なるタイプの女性を演じているのが興味深かった。
「自由の幻想」は、ブニュエルらしさがもっともよく出た作品なのかもしれない。みんなでひとつテーブルを囲んで下着をおろして便器にすわり楽しく話しながら排泄をして、食事をするときはせまい個室に隠れてひとりこそこそと食べるという有名なシーンが入っているのは、この映画である。「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」や「欲望のあいまいな対象」もそうだけれど、こういう映画をみると、自分はなんだか身を切られるような気がしてくる。

自分がまだみていないなかに、問題作、話題作もすくなくない。
30歳のときに発表した「黄金時代」は、右翼が上映中のスクリーンに爆弾を投げる事件があって、上映禁止になった問題作だという。
53歳のときの「嵐が丘」は、ブロンテ原作の設定をメキシコにおき換えた自信作らしい。
54歳のときの作品「ロビンソン漂流記」は、ブニュエルがどんなものを作ったのか興味津々である。
60歳のころに撮った「ビリディアナ」は、カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したが、内容が過激で上映禁止になった国もあるとか。
このあたりは、なるたけ早くみておきたいと思っている。

自分の心の奥の、ほかの人がまず立ち入らない敏感なところに、ずかずかと入り込んできて、きれいな傷をつけてゆく。ブニュエルはそういう表現者である。
自分は、傷つき、刺激を受けて、自分がどう反応し、変化していくのか、見てみたいのである。
(2013年2月22日)



著書
『12月生まれについて』

『新入社員マナー常識』

『ポエジー劇場 子犬のころ』

『ポエジー劇場 大きな雨』
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