1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

4月16日・団鬼六の懐

2024-04-16 | 文学

4月16日は、喜劇王、チャールズ・チャップリンが生まれた日(1889年)だが、SM官能小説家、団鬼六(だんおにろく)の誕生日でもある。

団鬼六は、1931年、滋賀の彦根で生まれた。本名は、黒岩幸彦。戦争中だった中学時代に大阪へ引っ越して、以後大阪で育った。
大阪の大学を出た後、バーのマスター、中学の英語教師、シナリオライターなど職を転々としながら小説を書き、26歳のとき、小説雑誌の新人賞に入選。はじめ、投機的な先物相場や株式投資を題材にした経済小説を書いていたが、30歳のころ雑誌「奇譚クラブ」に投稿したSM小説『花と蛇』をきっかけとして、サディズムとマゾヒズムを中心に据えた官能小説を書きだし、その分野の第一人者となった。
作家稼業のかたわら、映画制作や雑誌出版を手がけた。
58歳のころ、お金がたまったので、断筆宣言をして豪邸を建て、豪遊しだしたが、バブル崩壊のあおりを受け相場で大損をこしらえ、屋敷を売り払い、山のように背負った借金を返すためにまた原稿を書いた。2011年5月、食道がんのため、東京の入院先で没した。79歳だった。

エログロに偏見がないので、世評高い『花と蛇』ほかの団鬼六作品を崇敬している。ただし、むしろ、ポルノ女優・谷ナオミの話、賭け将棋の小池重明の話など、団鬼六のノンフィクションのほうが好きである。

以前、団鬼六の自伝『蛇のみちは』を読んだ。痛快な人生で、団鬼六の父親の話がまた痛快だった。学校の教師時代、団鬼六は生徒に自習させておいて、教壇の机で小説の原稿を書いていたこともあったらしい。とにかく、性愛を含め、人間存在に関して、ゆったりと構えた、懐が深い人だった。

彼はSM小説の巨匠だけれど、本人は実生活ではSやMのけはまったくなかった。でも、やがてそれでは済まなくなった。
「僕の別れた女房も、SMなんて大嫌いだったんですね。ところが、やがて僕の弟子と関係するようになってしまった。その男は女を縛らないとできない奴なんですよ。でも女房は、それで快感を得ている。それで『俺がSMのことを書いてたら怒ってたくせに、よくそんなことができるな』と言ったら、『愛情があったら、何だってできるわよ』と。(中略)僕も女房が浮気したときに、M的な快感を知りましたね。きわめて淑徳だった女房がジーパンにやられたとき、相手の男に『おまえ、やったのか』と訊いたんですよ、弟子ですから。(中略)あのとき僕は、いちばん精神的にマゾだったと思いますね。えらく興奮しましたですよ。(中略)だから、次のときからは、女房が男に会いに行くとわかると、男に電話して『おい、頑張ってこい』と言いましたね。それで一発終わったら電話しろと言っておく。その電話を待っているあいだが、実にイライラして、楽しいんですよ。」(『山田詠美対談集メンアットワーク』幻冬舎文庫)
まさに、ワイルドの「人生は芸術を模倣する(Life imitates art.)」である。
(2024年4月16日)



●おすすめの電子書籍!

『小説家という生き方(村上春樹から夏目漱石へ)』(金原義明)
人はいかにして小説家になるか、をさぐる画期的な作家論。村上龍、村上春樹から、団鬼六、三島由紀夫、川上宗薫、江戸川乱歩らをへて、鏡花、漱石、鴎外などの文豪まで。新しい角度から大作家たちの生き様、作品を検討。読書体験を次の次元へと誘う文芸評論。


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