4月30日は、天才数学者、ガウスが生まれた日(1777年)だが、経済学者、クズネッツの誕生日でもある。
サイモン・スミス・クズネッツは1901年、当時のロシア帝国ピンスクで生まれた。
ロシア革命が起きたのが、クズネッツが16歳だった1917年。その年の三月革命で皇帝ニコライ二世が退位し、ロシア帝国が終わった。同じ年の十一月革命で、レーニン率いるボリシェヴィキ(労働党の多数派)が社会主義政権を樹立し、皇帝一家は惨殺された。
ソヴィエト連邦が始まり、クズネッツはウクライナの統計局長になった。
動乱の時代を統計学の専門家として生き抜いたクズネッツは、21歳のとき、米国へ亡命。米国へ帰化し、コロンビア大学に入った。
大学で経済学を修め、25歳のとき「小売業と卸売業の周期的な変動」の論文で博士号とり、全米経済研究所(NBER)に入局し、国の経済について研究を進めた。
29歳でペンシルベニア大学の教授に就任。このころ、彼はコンドラチェフ、スルツキーなどロシアの経済学者の理論を精力的に欧米に翻訳、紹介した。
40歳のころに始まった第二次世界大戦中は、米国の生産局、統計局で働いた。
戦後は、合衆国の統計学会会長、経済学会会長などを歴任し、1971年、70歳でノーベル経済学賞を受賞した。ジョンズ・ホプキンズ大学、ハーバード大学でも教鞭をとり、世界経済の論客として活躍した彼は「所得ならびに富研究国際協会」を創設した後、1985年7月、マサチューセッツ州ケンブリッジで没した。84歳だった。
マクロ経済学であるケインズ経済学には、経済の回復期、好況期、後退期、不況期の循環を説明する理論として、いくつかの「景気変動の波」説がある。それらはたとえば、
1 キチン循環…40カ月ほどの景気循環。主に企業の在庫変動に起因。
2 ジュグラー循環…10年ほどの景気循環。企業の設備投資に起因。
3 クズネッツ循環…20年ほどの景気循環。建設需要、人口変化に起因。
4 コンドラチェフ循環…50年ほどの景気循環。技術革新に起因。
この4番目がクズネッツの発見である。彼の名は「クズネッツ曲線」としても残っている。
また、彼は、国内総生産(GDP)の精度をあげて、国の経済状況を示す尺度として使いやすくした功労者でもある。GDP(Gross Domestic Product)は、1年間など一定期間内に国内で産出された付加価値の総額で、サービスや商品などを販売したときの価値から、原材料や流通費用などを差し引いた価値のことである。
長く有力な経済指標として重宝されてきたGDPだが、クズネッツは注意を促している。
まず、GDPが社会の狭い部分を測るために作られた指標であるため、家族によるサービスや、救済、慈善、雑用による収入など、社会生活の重要な部分でありながら、正確に評価しにくいために計算から除外された部分を、無視してしまっている点。
次に、GDPが社会の問題を単純化して見せてしまうため、そこから、GDPが大きくなるからよいのだなどと、人々がしばしば誤った錯覚を起こしてしまう点(またはわざと誤った印象を与えて悪用される可能性)。
あるいは、GDPの増進が自然破壊を助長し、お金にならないサービス(人間関係、愛情、奉仕、きずな、余暇など)を減少させ、かえって人の幸福度を減らしてしまう側面。
クズネッツが鳴らした警鐘は21世紀に入り、いよいよ大きく鳴り響いているようである。
(2024年4月30日)
●おすすめの電子書籍!
『大人のための世界偉人物語2』(金原義明)
人生の深淵に迫る伝記集 第2弾。ニュートン、ゲーテ、モーツァルト、フロイト、マッカートニー、ビル・ゲイツ……などなど、古今東西30人の生きざまを紹介。偉人たちの意外な素顔、実像を描き、人生の真実を解き明かす。人生を一緒に歩む友として座右の書としたい一冊。
●電子書籍は明鏡舎。
https://www.meikyosha.jp
サイモン・スミス・クズネッツは1901年、当時のロシア帝国ピンスクで生まれた。
ロシア革命が起きたのが、クズネッツが16歳だった1917年。その年の三月革命で皇帝ニコライ二世が退位し、ロシア帝国が終わった。同じ年の十一月革命で、レーニン率いるボリシェヴィキ(労働党の多数派)が社会主義政権を樹立し、皇帝一家は惨殺された。
ソヴィエト連邦が始まり、クズネッツはウクライナの統計局長になった。
動乱の時代を統計学の専門家として生き抜いたクズネッツは、21歳のとき、米国へ亡命。米国へ帰化し、コロンビア大学に入った。
大学で経済学を修め、25歳のとき「小売業と卸売業の周期的な変動」の論文で博士号とり、全米経済研究所(NBER)に入局し、国の経済について研究を進めた。
29歳でペンシルベニア大学の教授に就任。このころ、彼はコンドラチェフ、スルツキーなどロシアの経済学者の理論を精力的に欧米に翻訳、紹介した。
40歳のころに始まった第二次世界大戦中は、米国の生産局、統計局で働いた。
戦後は、合衆国の統計学会会長、経済学会会長などを歴任し、1971年、70歳でノーベル経済学賞を受賞した。ジョンズ・ホプキンズ大学、ハーバード大学でも教鞭をとり、世界経済の論客として活躍した彼は「所得ならびに富研究国際協会」を創設した後、1985年7月、マサチューセッツ州ケンブリッジで没した。84歳だった。
マクロ経済学であるケインズ経済学には、経済の回復期、好況期、後退期、不況期の循環を説明する理論として、いくつかの「景気変動の波」説がある。それらはたとえば、
1 キチン循環…40カ月ほどの景気循環。主に企業の在庫変動に起因。
2 ジュグラー循環…10年ほどの景気循環。企業の設備投資に起因。
3 クズネッツ循環…20年ほどの景気循環。建設需要、人口変化に起因。
4 コンドラチェフ循環…50年ほどの景気循環。技術革新に起因。
この4番目がクズネッツの発見である。彼の名は「クズネッツ曲線」としても残っている。
また、彼は、国内総生産(GDP)の精度をあげて、国の経済状況を示す尺度として使いやすくした功労者でもある。GDP(Gross Domestic Product)は、1年間など一定期間内に国内で産出された付加価値の総額で、サービスや商品などを販売したときの価値から、原材料や流通費用などを差し引いた価値のことである。
長く有力な経済指標として重宝されてきたGDPだが、クズネッツは注意を促している。
まず、GDPが社会の狭い部分を測るために作られた指標であるため、家族によるサービスや、救済、慈善、雑用による収入など、社会生活の重要な部分でありながら、正確に評価しにくいために計算から除外された部分を、無視してしまっている点。
次に、GDPが社会の問題を単純化して見せてしまうため、そこから、GDPが大きくなるからよいのだなどと、人々がしばしば誤った錯覚を起こしてしまう点(またはわざと誤った印象を与えて悪用される可能性)。
あるいは、GDPの増進が自然破壊を助長し、お金にならないサービス(人間関係、愛情、奉仕、きずな、余暇など)を減少させ、かえって人の幸福度を減らしてしまう側面。
クズネッツが鳴らした警鐘は21世紀に入り、いよいよ大きく鳴り響いているようである。
(2024年4月30日)
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人生の深淵に迫る伝記集 第2弾。ニュートン、ゲーテ、モーツァルト、フロイト、マッカートニー、ビル・ゲイツ……などなど、古今東西30人の生きざまを紹介。偉人たちの意外な素顔、実像を描き、人生の真実を解き明かす。人生を一緒に歩む友として座右の書としたい一冊。
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