1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

4月12日・クランシーの頭

2020-04-12 | 文学
4月12日は、経済学者のヤン・ティンバーゲンが生まれた日(1903年)だが、ベストセラー作家のトム・クランシーの誕生日でもある。

トーマス・レオ・クランシー・ジュニアは、1947年、米国メリーランド州のボルチモアで生まれた。父親は父親は郵便局に務め、母親はデパートのクレジット部門で働いていた。
18歳でカトリックの私立学校を卒業したトーマスは、地元ボルチモアの大学に入学。大学では英文学を修め、チェスクラブの部長を務めた。
大学を22歳で卒業した後は、軍の予備役訓練兵となったが、分厚いメガネをかけなくてはものが見えない強い近視のため正式採用とはならず、26歳から保険会社に勤めはじめた。クランシーは大学卒業の年に医学部の女子学生と結婚していたが、その妻の祖父が興した保険会社に入れてもらったのだった。
33歳のとき、保険代理店の権利を買い取って独立。以後、保険代理店を営みながら、余暇を利用して小説を書きはじめた。35歳で書きだした小説『レッド・オクトーバーを追え!』を出版社に5000ドルの前渡し金で売った。
『レッド・オクトーバー』は、冷戦時代、ソビエト連邦の大陸弾道弾を積んだ原子力潜水艦「レッド・オクトーバー」の艦長が、母国を出航し、原潜ごと米国へ亡命しようとする物語だった。ソ連軍はこれを撃沈しようと動きだし、KGBは破壊工作を画策する。異常な動きを見せる原潜に、米軍、NATO軍の緊張が高まるなか、CIAの分析官ジャック・ライアンがソ連原潜の艦長の意図に気づくという話である。
この原稿を読んだ出版社の編集者は、一読してベストセラーになるのを確信した。ただし、出版社サイドは、専門的、技術的な説明が多すぎるとして100ページほどの原稿を削除するように要求した。
クランシーは当初、5000部売れてくれれば、と期待していたが、彼が37歳のときに発売されると、たちまち4万5000部を売り上げ、ロナルド・レーガン大統領がこの小説を自分のお気に入りだとコメントすると、ハードカバーで30万部、ペーパーバックで200万部を売るベストセラーに大化けした。ショーン・コネリー主演で映画化されている。
ベストセラー作家となった彼は、ジャック・ライアンが活躍するシリーズ『愛国者のゲーム(映画題・パトリオット・ゲーム)』、『いま、そこにある危機(映画題・今そこにある危機)』などを書いた後、2013年10月、心不全のためボルチモアの入院先で没した。66歳だった。

広く世界を舞台とするスケールの大きな小説を書いたクランシーだが、作者本人は母親の言う通りの地元の学校へ行き、地元の大学を出て、妻のコネで就職し、ずっと地元ボルチモアで暮らした。チェスのほか、コマを使って戦うボードゲームも好きだったらしい。軍事オタク作家とも、想像力で世界を旅した知の旅人だったとも言える。

クランシーの小説『日米開戦』は、日米間の経済摩擦が引き金になり、日本人がジャンボジェット機を米国の国会議事堂に突入させるという話で、2001年9月11日のテロとの相似が話題となった。
クランシーは言っている。
「フィクションと現実のちがい? フィクションはいちおう理屈が通っていなくちゃならないことかな。(The difference between fiction and reality? Fiction has to make sense.)」(Brainy Quote: http://www.brainyquote.com/)
(2020年4月12日)



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