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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

8月18日・マルセル・カルネの方法

2017-08-18 | 映画
8月18日は、映画俳優ロバート・レッドフォードが生まれた日(1936年)だが、映画監督マルセル・カルネの誕生日でもある。

マルセル・カルネは、1906年、仏国パリで生まれた。父親は家具製作をしていて、マルセルの母親は彼が5歳のときに没した。
マルセルは、映画批評から出発して、23歳のころには映画雑誌の編集者となり、25歳のときにははじめての短編映画を監督していた。
第二次世界大戦がはじまり、ナチス・ドイツの侵攻が近づくと、ヨーロッパの映画人はつぎつぎと米国へ亡命したが、マルセル・カルネは残った。
1940年、カルネが34歳になる年にはパリが陥落し、街にドイツ軍の制服があふれた。その政治的にも物資的にもきびしい状況のなかで、彼は映画を作りつづけ、36歳のとき「悪魔が夜来る」を発表。さらに「天井桟敷の人々」を撮り、39歳になる1945年に、解放後のパリで公開した。ドイツ軍占領下で、3年以上の歳月をかけて制作されたこの大作は、フランス国内はもちろん、世界各国で映画の人気投票がおこなわれると、いまなお世界映画のナンバー・ワンに選ばれる、永遠の名作となった。
カルネはその後、「嘆きのテレーズ」「危険な曲がり角」「若い狼たち」といった作品を発表した後、1996年10月、クラマールで没した。90歳だった。

フランスで歴代映画の最高傑作のアンケートをとるといつも一番になる映画「天井桟敷の人々」は、19世紀のパリの芝居小屋が並ぶ街を舞台にした恋の物語である。主人公のパントマイム役者と、芝居小屋の女優が出会い、ひかれあうのだけれど、この世にいる男女は彼らだけではなく、運命のいたずらもあって、二人の仲はそうすんなりとはいかない。そんな恋物語が、パリを活気ある街にしている市井の人々の生活ぶりを背景に、第一部「犯罪大通り」、第二部「白い男」を通して描かれる。タイトルの「天井桟敷の人々」は、芝居小屋のいちばん料金の安い、天井すれすれの立ち見席で芝居を見る人たちのことを指している。この作品は当時占領下にあったパリの庶民に捧げられた作品である。
「圧巻」とはこの映画のためにあることばである。

この映画を観て不思議に思ったのは、第一部と、第二部を通して登場する人物がたくさんいるのだけれど、ある人物が、どうも前半で観たのと感じがちがう人のように見える点だった。後で知れたところ、その役者はレジスタンスの一員で、ナチスに追われる身となり、地下にもぐった。それで、後半はべつの役者が彼の役を引き継いで演じたのだった。

映画「天井桟敷の人々」は全編を通じて、反戦だとか、反ファシズムだとか、抵抗だとかいった要素はみじんも登場しないのだけれど、観終わると、なぜか、マルセル・カルネ監督の、戦争や占領を憎み、自由を求める気持ちが、強烈に観るこちらの胸に迫ってくる。言いたいことを、ひと言も言わず、そのことによって、かえって強烈にそれを訴えかけることができるのだ、と教えてくれた巨匠、それがマルセル・カルネ監督である。
(2017年8月18日)



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