1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

5月28日・中沢新一の行動する知性

2014-05-28 | 思想
5月28日は、007号ジェイムズ・ボンド・シリーズを書いたイアン・フレミングが生まれた日(1908年)だが、宗教学者の中沢新一の誕生日でもある。
中沢新一は自分が若いころに世にでてきた宗教学者だった。俳優かと見まちがう、すらりスマートな二枚目で、なんとかっこいい学者が現れたものだろうと思った。貧弱なからだに大きな頭が載ったガリ勉顔にメガネをかけた浅田彰も同時期に登場し、みごとに好対照だった。
見てくれはともかく、自分はどちらの本もすこし読んだけれど、むずかしくて、よくわからなかった。

中沢新一は、1950年、山梨で生まれた。父親は民族学者の市会議員だった。
東京大学の大学院をへて、中沢は29歳のとき、ネパールへ渡り、チベット仏教の行者に師事し、瞑想の修行をし、チベット密教について学んだ。
帰国し、33歳のとき、チベットでの体験をもとに書いた評論的エッセイ『チベットのモーツァルト』を発表。一躍、新しいアカデミズムの寵児として脚光を浴び、さかんにテレビや雑誌に東条した。
30代後半には、当時マスコミに批判されていた新興宗教団体「オウム真理教」を宗教学の立場から弁護していたが、彼が45歳の年に、オウム真理教が地下鉄サリン事件を起こし、ほかにも同教団による誘拐、拉致、監禁、殺人事件が明るみに出るよおよび、中沢も批判の矢面にさらされた。
2014年現在、私立大学の教授を勤めながら、執筆、言論活動を続けている。
著書に『バルセロナ、秘数3』『森のバロック』『ゲーテの耳』などがある。

『チベットのモーツァルト』の文庫本はずっと以前からもっていて、ときどき開く。この本のなかに、30歳の中沢新一がチベット密教の修行をしたときの体験が書かれていて、そこだけはとても興味をひかれた。
マリワナやLSDなどのドラッグを使わずに、瞑想だけで意識の深層へ入っていこうとする修行で、これを「ポワ」と呼ぶ。
「『ポワ』は『意識を身体の外に送り出し、死の状態をコントロールする』ための激しいテクニックだ。」(中沢新一『チベットのモーツァルト』講談社学術文庫)
オウム真理教の内部では、暗殺指令を下すときに、
「あいつをポワしろ」
などと、隠語として使われていたようだけれど、それはさておき、このポワの修行をしているうちに、中沢の頭のてっぺんの肉がこんもりと盛り上がってきたと書いてあって、驚いた。ああ、やはり、精神的な修行も、いくところまでいくと、その影響を受けて肉体が変化したりするのだ、と。
自分としては、もっと具体的にどのようにしたのか、などの解説をもっと読みたかったのだけれど、もともと著者は修行のインストラクターではなく、思想について語る宗教学者なので、話は自分が望むのとはちがう方向へそれていってしまい、残念だった。
でも、こうやって、自分のからだで体験しながら考える学者というのは、すてきだと思う。
「男は考えるだけではいけない。行動だけでもいけない。考えつつ行動する」(『ジャイアント台風』中のジャイアント馬場のことば)
(2014年5月28日)


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