1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

すでに外堀は埋まっている

2014-05-14 | 日本の未来を憂う
一昨年の衆院選での自民党の圧勝から、時代はどんどん悪くなっているように思われます。ここへきて、
「集団的自衛権の新解釈」
が首相を中心に、取り巻き連中のあいだで取り沙汰され、また一段、ぐんと悪くなる段階へきている気がするので書いておきます。

日本国民としてまず、認識しておくべきは、
「すでに外堀は埋まっている」
という事実です。昨年2013年の12月に公布された秘密保護法によって、もう国民は権力側の支配下に完全に置かれてしまっているわけです。
政府にたてつくような意見を言う市民は、とつぜん逮捕されて、理由も告げられず投獄され社会から姿を消す、国家機密保護をたてに、逮捕理由すら永遠に明かされない、そういう時代にすでに突入しているわけです。これは、これは1925年に通過した治安維持法と同じであり、ナチス・ドイツが反対者を「夜と霧」にまぎれて連れ去り、社会から消し去ったやり口と同じです。
秘密保護法は、1年以内に施行されることになっていますから、今年2014年中には実行に移されます。こんな文章を書いている自分の身も、きわめてあぶないわけです。

そこへきて、今度は「集団的自衛権」の拡大解釈です。
首相は、自分の意見に賛成する元官僚や学者だけを寄り集めて私的な諮問委員会である「安保法制懇談会」を作り、現行の憲法下でも、日本が海外派兵できる理屈をひねりださせました。それによると、
・日本と密接な関係にある外国への攻撃
・日本の安全に重要な影響を及ぼす
・攻撃された国の要請、または同意を得る
おおまかにいって、この条件がそろえば、日本は「自衛隊」を海外派兵できる、ということにしよう、というものです。

これは具体例で言えば、こういうことではないでしょうか。
たとえばアフリカのある国のなかで紛争が起きたとします。
これは、その国の政府が攻撃されたということである。
日本はその国と(ヤシの実かコーヒー豆か知りませんが)貿易関係がある。
これは密接な関係であり、そんな親しい国の政府への攻撃を見過ごすわけにはいかない。
それは世界平和への挑戦であり、ひいては日本の安全をおびやかすことにつながる。
その国の政府は、政府軍を助けてくれるなら、歓迎すると言っている。
日本の軍隊を派遣しろ。
これは命のやりとりになる。
「行きたくない」というやつは、監獄にぶちこめ。
兵隊が足りなければ、徴兵制を敷いて、召集令状のはがき1枚で呼びつければいい。
戦地の最前線に行って誰が、敵の弾の的になるのか?
それはあなただ。あなたは日本の安全保障のために、命を捧げるのだ。

こうなると、首相は、いやな政敵がいたら、手をまわして、その相手宛てに召集令状を出させれば、かたがつくことになります。実際、前の戦争のとき、東條英機首相が何人もの反対者をそうやって戦地へ送り込んだことは周知の事実です。

とにかく。
交戦権を明らかに否定している平和憲法をもちながら、海外派兵がOKならば、もはやその国は法治国家ではない。一党独裁の独裁国家です。
今回の「集団的自衛権の新解釈」問題は、それくらい深刻な問題をはらんでいると思う。
もしもそんな拡大解釈を許すのなら、
「自衛隊を派遣する場合は、弾除けとして、国の3権の代表である首相、衆院議長、最高裁判所長官の3者の子息3名を最前線の部隊3隊に分けて同行、配置させること」
くらいの国家的危機感の共有がほしいと思います。

また、憲法改正のハードルを、
「国会の総議員数の3分の2以上の賛成」から、
「総議員数の過半数」
に、まず下げる改正して、それから変えやすくなった憲法を、あからさまに海外派兵OK な変更しようという2段がまえの計画も、政府与党にはあります。
一部の文化人のあいだでは、これに乗って、市民の側で、新憲法草案をつくろうという動きもあるようだけれど、それは政府の策略に進んではまるような愚行だと思います。
「おや、立派な草案をお持ちで。じゃあ、せっかくお作りになったそれを活かすためにも、まず憲法を変えやすくしましょう。いっしょに力を合わせて改正しましょう」
と政府側はすり寄ってくるでしょう。
そうして、憲法が改正しやすくなったあかつきには、草案を検討するといった約束は反故にされ、政府与党案がすんなり新憲法におさまる、といった寸法です。反対者には、秘密保護法をたてにした「夜と霧」が待っています。

とにかく、すでに外堀は埋まっているわけですから、これ以上のことがないように、内堀まで埋められないように気をつけなくてはなりません。
憲法改正の国民投票の選挙権を18歳以上に与えようというからには、政府与党は、若い連中はいまの社会や近隣国に不満をもっている連中が多いだろうから、彼らは改正に賛成するだろうと踏んでいるものと思われます。その改正が、ゆくゆくは自分たちを戦地の地獄に追いやるともしらずに、と。

とにかく内堀まで埋められないように気をつけて、つぎの選挙のときに、秘密保護法の是非を争点にする市民運動を起こして、これを廃案にする政党を勝利させるところまでもっていかなくてはなりません。
外堀の土をのけなくては、安心して自由に政治を議論することもままなりません。

それにしても、2012年衆院選時の自民党の公約
「『天下り』を根絶します。」
はどうなったのでしょう。
役人が太っていくばかりの国の経済に未来などありません。

自分の考えでは、ただでも少子化、高齢化が進み、産業の国際競争力が衰え、国の経済状況がかんばしくないときに、生産をせず、ひたすら消費のみをする軍隊・軍事費にお金を注ぎ込むのは具の骨頂だし、近隣諸国とケンカするのは、遠くの国々を戦争景気で喜ばせるだけだの自殺行為だと思います。
軍事費などにお金を使わず、官僚の既得権益を開放し、規制撤廃をすすめ、優秀な高級官僚たちにもどんどん社会へ出てベンチャー企業を起こしてもらって、経済再構築をはかるのが、正しい日本の未来を開く道だと自分は信じます。
(2014年5月14日)


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5月14日・ジョン・フィールズの大西洋横断

2014-05-14 | 歴史と人生
5月14日は、社会事業家、ロバート・オーウェンが生まれた日(1771年)だが、数学者、ジョン・フィールズの誕生日でもある。数学のノーベル賞と言われる「フィールズ賞」を作った人である。
フィールズ賞のことは自分がはじめて知ったのは、1970年に広中平祐博士が受賞して話題になったときだった。ああ、そういう賞があるんだ、という感じだった。フィールズはてっきり米国人だとばかり思っていて、じつはカナダの人だったとは、ごく最近まで知らなかった。

ジョン・フィールズは、1863年、カナダのオンタリオ州ハミルトンで生まれた。父親は皮製品店の経営者だった。
21歳でトロント大学を卒業したフィールズは、米国へ行き、メリーランド州ボルチモアのジョンズ・ホプキンス大学で博士号を取得した。彼は同大学で2年間教鞭をとった後、 ペンシルヴェニア州でも教えたが、北米の数学研究の状況に幻滅し、28歳のときにアメリカ大陸を離れ、ヨーロッパへ渡った。ベルリン、ゲッティンゲン、パリを歴訪し、フロベニウス、マックス・プランクなどの大数学者たちと交友をもった。
39歳のとき、乞われて母国カナダのトロント大学へもどったフィールズは、大学で教鞭をりながら、オンタリオ州(州都トロント)に働きかけて、大学への補助金を確保するとともに、研究会議や研究基金の設立をうながした。
晩年には、フィールズはすぐれた研究をした若手数学者を表彰する賞の創設を提唱し、運動していたが、その実現を見る前に、1932年8月、トロントで没した。69歳だった。

フィールズは数学者の賞ためにと遺言し、47000ドル(約470万円)の遺産を賞の基金に寄付した。これを原資として、1936年にフィールズ賞が創設されたが、初回に2人の数学者にメダルを授与した後、しばらくお休みがつづいた。その後、1950年になって、4年に一度の賞としてフィールズ賞は再創設され、40歳以下の2人から4人のすぐれた研究成果をあげた数学者に授与されるようになった。
日本の学者では、小平邦彦(1954年)、広中平祐(1970年)、森重文(1990年)の3人が受賞している。ここ20年以上、日本人の受賞者はない。

虎は死んで皮を残す。フィールズはフィールズ賞を残した。自分は何を残せるか。

若き数学者フィールズが、北米の数学研究の状況を見渡し、がっかりしてヨーロッパへ脱出したというのは、感心する。
日本の若者の海外志向が衰えてきたと言われる昨今、フィールズのように、自分の母国の状況が悲惨ならばもっといいところへ行けばいい、と自由に動く態度はまぶしく感じられる。
もちろん業種にもよるけれど、どこの場所で自分を生かすかでなく、どの分野で自分を生かすかを優先して考えるのは健康的だと思う。ネットが進んだ現代社会では、なおさらにちがいない。
(2014年5月14日)



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