
神戸地裁 小5自転車事故9500万円判決のレポートです
(前回記事分)
7月初旬に新聞、テレビ等で、 「自転車事故起こした当時小学生の母親に対し、約9500万円の賠償命令(神戸地裁)。」との報道がありました。 昨今、自転車事故が増えている中で、裁判所から一つの重要な判断が示されたという事で、判決文の詳細を見に神戸地方裁判所まで足を運びました。 関係者には大変残念な出来事であり、非常に重い現実と向き合われている事になるようです。
(※ 小学生のお母様側は、約9500万円の支払いを命じた神戸地裁の判決を不服として、18日に大阪高裁に控訴されています。)
まず最初に、この事故で現在も療養中であられる女性のご家族にお見舞いを申し上げ、ご回復の光明が差しますことを心よりお祈りいたします。また、このレポートは事故当時の少年側の不適切な走行にふれておりますが、加害少年・お母様側をやり玉に挙げて非難する意図のものではありません。世間にはもっとひどい悪質な自転車走行が横行しているわけで、私たち一人ひとりの身の回りでも起こりうる不幸な事故に対して、注意を呼びかけるためのものとご理解いただければ幸いです。
(※ 少年・お母様側は「判決を不服」となっていますが、既に医療費等の弁済を始めています。大きすぎる賠償額に対して、過失相殺と減額を求めての高裁への控訴と思われます)
以下、しばらくインターネットの記事より転載させていただきます。
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MSN産経ニュースwest【関西の議論】より
母親驚愕 「息子の自転車事故の賠償金9500万円」の“明細”は…
2013/07/14 17:30更新
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当時小学校5年生だった少年(15)が乗った自転車と歩行者との衝突事故をめぐる損害賠償訴訟で、神戸地裁は、少年の母親(40)に約9500万円という高額賠償を命じた。5年近く前に被害に遭った女性(67)は、事故の影響で今も寝たきりで意識が戻らない状態が続いているだけに、専門家は高額賠償を「妥当」と評価する。ただ、子を持つ親にとって、1億円近い賠償を命じた今回の判決は、驚愕でもあり注目を集める。9500万円の内訳はどうなっているのか。一方で、保険加入義務がない自転車の事故をめぐっては、高額な賠償命令が出されるケースも多く、自己破産に至る例も少なくないという。こうした中、自転車の保険制度拡充を目指した動きも出始めている。
母親に賠償責任「監督義務果たしていない」

5年ほど前、この坂道で事故は起きた。(写真1)
小5男児の自転車と女性が衝突し、女性は今も意識が戻らず寝たきりの状態。男児の母親に命じられた賠償金は9500万円に上った =神戸市北区
事故は平成20年9月22日午後6時50分ごろ、神戸市北区の住宅街の坂道で起きた。
当時11歳だった少年は帰宅途中、ライトを点灯しマウンテンバイクで坂を下っていたが、知人と散歩していた女性に気づかず、正面衝突。女性は突き飛ばされる形で転倒し、頭を強打。一命は取り留めたものの意識は戻らず、4年以上が過ぎた今も寝たきりの状態が続いている。
裁判で女性側は、自転車の少年は高速で坂を下るなど交通ルールに反した危険な運転行為で、母親は日常的に監督義務を負っていたと主張し、計約1億590万円の損害賠償を求めた。
一方、母親側は少年が適切にハンドル操作し、母親もライトの点灯やヘルメットの着用を指導していたとして過失の相殺を主張していた。
しかし、判決で田中智子裁判官は、少年が時速20~30キロで走行し、少年の前方不注視が事故の原因と認定。事故時はヘルメット未着用だったことなどを挙げ、「指導や注意が功を奏しておらず、監督義務を果たしていない」として、母親に計約9500万円の賠償を命じた。
なぜ9500万円?
高額な賠償となった9500万円の内訳はどうなっているのか。
(1)将来の介護費約3940万円
(2)事故で得ることのできなかった逸失利益約2190万円
(3)けがの後遺症に対する慰謝料2800万円
などとされている。

自転車事故を起こした当時小学校5年生の少年の母親に9500万円の賠償を命じた神戸地裁 =神戸市中央区(写真2)
田中裁判官は、(1)について、女性の介護費を1日あたり8000円とし、女性の平均余命年数を掛け合わせるなどして算出。(2)は、専業主婦の女性が入院中に家事をできなったとして月額約23万円の基礎収入を平均余命の半分の期間、得られなかったなどとして計算した。
これらに治療費などを加え、母親に対し、女性側へ約3500万円、女性に保険金を払った保険会社へ約6000万円の支払いを命じた。特に女性が意識が戻らぬままとなっていることで、慰謝料などが高額となり、賠償額が跳ね上がった。
交通事故弁護士全国ネットワークの代表を務める古田兼裕弁護士(第二東京弁護士会)は、今回の判決について「高額な賠償額だが、寝たきりで意識が戻っていない状況などを考えると妥当」と評価。ただ、「自転車だから責任が軽くなるとはいえないが、11歳の子供の事故で親がどれほど責任を負うかはもっと議論していく必要がある」と話す。
自転車事故の賠償で自己破産のケースも
自転車事故で高額の賠償が求められたケースは少なくない。
横浜市金沢区で携帯電話を操作しながら、無灯火で自転車を運転していた女子高校生が女性に追突した事故では、女性は歩行困難になり、看護師の職を失った。横浜地裁は17年11月、女子高校生の過失を認め、5000万円の支払いを命じた。
また、大阪地裁が8年10月、夜間に無灯火で自転車を運転していた男性が、短大非常勤講師をはねた事故で、男性に損害賠償2500万円の支払いを命じるなど、自転車事故による高額賠償命令は以前から出されている。
古田弁護士は「自転車でも過失があれば、しっかり賠償しないといけないが、自転車利用者の多くは保険に未加入で、自己破産する例も少なくない」と指摘する。
自転車の普及推進や啓発活動をしている財団法人「日本サイクリング協会」(JCA)によると、全国の自転車の保有台数は7000万~8000万台で、うち約3000万台が日常的に利用されているとみられる。しかし、自転車の保険加入率について、JCAは「統計がないため把握し切れていないが、10%に満たないのではないか」との見解を示す。
自動車の場合、自賠責保険の加入が義務付けられている。「損害保険料率算出機構」の統計では、任意保険の加入率についても、対人賠償保険、対物賠償保険いずれも73.3%と高水準となっている。
一方で、自転車の保険は加入義務がなく、JCAは「自賠責保険のように保険加入を義務付けるなど、制度を整備しないと不幸は繰り返される」と警鐘を鳴らす。
求められる対策と「自転車は危険」との認識
警察庁の統計によると、交通事故発生件数は16年の約95万件をピークに年々減少し、24年は約66万件まで減少した。同じ期間中で、自転車側に過失がある事故は、年間約18万件から約13万件に減った。ただ、自転車と歩行者の事故は年間約2500~約3000件で推移。交通事故全体に占める割合は増加傾向にある。
こうした状況について、JCAは「自転車はエコで手軽といういいイメージが先行しすぎて、教育が行き届いていないことが原因」と分析する。
JCAは、会員に対して特典という形で、事故による賠償命令が出た場合に5000万円を補助している。しかし、自転車事故による高額賠償命令が後を絶たないため、保険活動を主体とする別組織の創設を検討し始めている。JCAは「保険の拡充を検討しているが、ルールやマナー無視をなくすことが最も必要。『自転車は危険なんだ』と認識しないといけない」と訴えている。
(MSN産経ニュースwestより)
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以上、転載させていただきました。ありがとうございました。
ミニレポート
(中島注)は、中島の私見をのべています。
自転車安全教育特別指導員 中島 脩
(坂之上サイクルステイション代表者 TEL099-263-0011)
◆当時小学5年生の少年(以下少年)は、写真1の坂で、写真左側の住宅街側の白線(路側帯)付近を自転車で下っていた。(右側走行をしていた)
※ 現時点で小学生の路側帯走行は認められているが、歩行者に対しては十分な注意を払うべきであり、安全確保のために徐行、または一時停止して、歩行者の通行を妨げてはならない。
※ 右側走行では、路側帯を車道側にはみ出した時点で左側走行の車両と対面する逆走となり、法規違反である。
※ 近く道路交通法が改正されることが決まっており、路側帯内の走行も左側通行に限定されることになる。
※ (中島注)今度の道交法改正でも、歩道上においては自転車の右側通行も規制の対象にならない。ただし、歩道上を無秩序に走行する自転車は大変迷惑で危険でもあり、右側走行の自転車が車の死角になりやすい事実もある。指導の上では歩道上も原則左側走行すべきと案内することが、モラル・マナー・安全の観点からも望ましい。
◆少年は自転車でスイミングスクールに出かけており、帰宅時に周囲は暗くなっていた。
※ 事故当時、あたりは暗くなっていた。少年はライトを点灯していた。
※ 辺りは暗かったが、歩行者が前方にいる事を確認出来ないほどではなかった。
(少年とともに自転車で帰宅中の友達が、少年の進行方向前方に歩行者の存在を認め、事故直前に「危ない!」と発している。)
※ 少年はヘルメットをかぶってスイミングクラブに出かけていたが、帰宅の際、ヘルメットをクラブに置き忘れたまま走行していた。ヘルメットを取りに戻ろうかどうか思案しながら走行していた。
※ 写真1ではガードレール側は障害物は見えないが、事故当時は藪が生い茂っていた。最初友達とともに左側を走行していた少年は、下り坂の上方から右側路側帯に移って走行した。一緒にいた友達はそのまま左側を走行していた。
※ 少年の自転車は、購入後間もないジュニア用のマウンテンバイクスタイルのシティ車であった。ただし、ブレーキはVブレーキタイプの強力なものが付いていた。現場にブレーキ痕は無かった。
※ (中島注)自転車で夜間走行することは、昼間の明るい状況で走行することと全く異なり、非常に危険でリスクが大きい。実際、「周囲が極端に見えにくくなる事」、「路面状況も見えにくくなる事」、「視覚範囲が極端に狭まる事」、「被視認性の確保(ライト・反射板)が必要なこと」、「対向車のライトで目がくらむこと」、「暗闇中に障害物、動物、歩行者、無灯火の自転車等、無数の危険が潜んでいる事」等々と、非常に厳しい条件となる。走行するには高度の状況判断力が必要なことからも、許諾するにあたってのハードルは高く高く上げるべきである。状況判断力が未熟な小学生においては、暗くなってからの自転車利用は極力控えるよう指導することが望ましい。
◆ 「自転車の乗り方を十分指導していた」とする母親側の主張に対して神戸地裁は、「指導や注意が功を奏しておらず、監督義務を果たしていない」との判断を示した。
※ 少年は至って素直であり、生活態度も良好で、事故につながるような粗暴な行いも普段なかったことが母親側から主張されている。
※ (中島注)神戸地裁の判断は、事故当時にヘルメットをかぶっていなかったこと、下り坂での速度が20~30kmと速かったこと、前方の注視が散漫であったこと等を重く見ているようである。
※ (中島注)同時に神戸地裁の判断は、保護者の指導実績にかかわらず、例えば口を酸っぱくして注意し続けていたとしても、実際に子供がルール違反を犯し、結果事故を起こした時には、保護者に監督責任が問われるということを示唆している。
※ 事故は、改正道交法で「小学生のヘルメット着用が保護者の努力義務」とされた平成20年に起こっている。
◆(中島注)子供の分別というものについて
※ 自転車で道路を走る小学校4,5年生にとっては、それまでの歩行者という立場から一転して、秩序や法規に規制される責任ある自律を求められる立場におかれるわけで、十分な認識やマナーある安全走行が身につくまで繰り返し指導されなければならない。小学1~3年生の自転車利用は、一般に各校の内規で制限されており、故に小学4,5年生が交通社会に直面する最初の年齢であり、非常に高いリスクを負って走行していることを留意すべきである。
※ 自転車とは、勢いが付けばペダルを踏まなくても勝手に転がっていくものであり、交差点や一時停止の指示のある場所ごとに、自律的な動作で停止し安全を確認した後、再発進していかければならない。ところが年少者においては、分別や警戒心が未熟であったり、交通ルールの無知や漫然とした運転等で突然飛び出す等、大変危険な走行をしがちである。自転車の利用にあたっては、有効でかつ十二分な指導を行うべきである。
※ 下り坂では、体力のない小学生でも簡単に危険な速度に達することから、分別や警戒心が薄ければ大変重大な事故を招くことになる。分別の未熟な小学生においては、危険走行をさせないための指導には様々な工夫が必要であろう。
◆ (中島注)保険について (まとめ)
※ 万が一の時の保険に加入することは大変重要なことです。被害者保護のためにも、自転車を楽しむ者の責任として、また、子供の保護者の責任としても必ず保険に入っておくべきでしょう。ただし、そのことは問題解決の終着点ではない。大切なのは、日頃から事故の可能性を予見して謙虚な姿勢を保ち続けて走行することであり、また、子供たちにも有効な指導を繰り返し行い、交通社会における「分別」を身につけさせることこそ重要な課題です。
日頃から事故を予見するほどに(それで保険にはいるわけですが。)おのずと事故から遠ざかるはずです。保険に使ったお金は「困った人への寄付」と考え、自分は一生事故を起こさないのであれば、それってありがたい人生じゃないですかね。



当時の事故状況等がわかり大変参考になりました
(ライトは点灯ですし20~30km/hが速いって感覚の問題ですよね、法律的には速度違反ではなかろうと思っていたのですが、右側の路肩走行でしたか)
この事故って、事故内容の詳細はあまり出回らず、ひたすらに金額のみが保険会社の宣伝に使われている
(保険会社は宣伝費としてこの親子に寄付してもよいのではないかと思うほど)
保険に入るのも必要かもしれませんが、まずは事故を起こさないことが最重要ですね
新潟の「自転車乗るな」も事故の詳細等さっぱり不明で市長のエキセントリック発言の報道ばかり
推測するに一時停止違反なのだろうが、だったら交通教育を徹底すべきなのに、いきなり「乗るな」になるのが意味不明です
自転車は扱いが不安定でこれから先もどのように迷走するのか不明ですが、失敗は詳細を明らかにし積み上げていかないとなかなか固まってこないかなと思います
(中島はジャーナリストでもなんでもありませんが、裁判資料を伏字なく閲覧しました。裁判所からは特に情報の扱いに対する注意みたいな話はありませんでしたが、おそらく高度な守秘義務があるであろうとオモンバカルコトニシテ、直接的な表現と判断は自重した記載とさせていただきます。)
この裁判の微妙な点を 箇条書きして整理しましょう
。被害女性は元々傷害保険に加入していたので、加入保険会社が約6000万円を被害者に支払った。
。今回の神戸地裁で、被告少年側が原告の被害女性側に支払うよう判決された賠償金額は約3500万円である。
。3500万円の額だけ見ると、近年見られる自転車重大事故の賠償額としては、特に突出したものではない。
。この裁判では、被害者女性のご家族の他に、傷害保険を既に支払っている保険会社が原告として名を連ねている。
。神戸地裁では、被害女性への賠償額3500万円だけでなく、保険会社がこの小学生母子に請求した6000万円も認められた。
。都合、約9500万円と、1億近い賠償額となったため、ショッキングな数字が先行する形で注目された。
※書けるのはここまでです。お察しください。
記事レイアウトが少々見にくくてすみませんでした。配置を改善しました。
どちら様も事故の無いよう、ご安全にお過ごしくださいませ。