私は再び通風窓から部屋を抜け出た。空へ行こう。朝のときよりもっと高く。地上の俗世は死してなお私を悩ませる悪臭に満ちている。実際には今の私に嗅覚はないのだが、悪臭を目で見、耳で聞かされる思いがする。地上はうんざりである。天と呼ばれる高みまで昇ってみよう。ニュートンも蒼ざめるほどの飛翔力をせっかく手に入れたのだから。私は死んだのだから。いまだ現世に固執するせいか成仏しきれない私であるが、天国に行ってみれば、現世よりずっと住みよく目に映るかも知れない。もちろん天国なんてあってもなくても構わない。そのまま突き抜けて、ひょっとして宇宙に飛び出したらどうだ。面白いではないか。空の果てを極めよう。天国という壁紙を突き破ろう。地上は腹一杯である。このまま死に場所近辺を彷徨っていれば、私は生者によって何度でもなぶり殺されそうだ。
空は雨を地上に撒いて雨の跡無し。千切れた雲までも乾いて見える。
青空は無限に広がる窓のように私を迎え入れた。
ところが急上昇する私を留める者がいた。一人の少女である。
(つづく)
空は雨を地上に撒いて雨の跡無し。千切れた雲までも乾いて見える。
青空は無限に広がる窓のように私を迎え入れた。
ところが急上昇する私を留める者がいた。一人の少女である。
(つづく)