釜石の日々

新たな巨匠を見出した

東北や北海道の正月飾りは他の地域より全体に色が派手で、やたらとたくさんのものが付けられているように思えた。四国などは非常にあっさりしている。少し物足りないぐらいだ。4日からの仕事始めで職場へ出てふと普段は見ない場所にすばらしい正月飾りがあるのが目に入った。豪華さと何か厳かさがうまく溶け合ったような初めて見る飾り付けだった。よく見ると花嫁衣装の色打ち掛けが使われており、上には切り絵が飾られている。しかもその正反対の位置に向かい合うように帯を使ったまた趣のある飾り付けが置かれてあった。こちらも色違いの切り絵が添えられている。早速この飾り付けの当事者を尋ねると何と40代の独身男性であった。たまたまその日はこの方は休みであったのでその翌日その方にお会いしてこの飾り付けが岩手のある地域に見られる風習なのかどうかを伺った。しかしどうやらこの飾り付けはご本人の独創だと言う。ただこの方は気仙の出身でしかも旧家の生まれで気仙のその旧家では神棚を正月には切り絵を使って飾り付ける伝統があり、この方も子供の頃から祖父の切り絵を真似て切り絵を作っておられたそうだ。打ち掛けや帯は着付け用に使っていた元は美容院の物だそうで懇意にしていた関係で古くなったからと言って貰い受けた物だそうだ。独身男性がまたどうしてこういう物を貰い受けたのか不思議だったのでさらにその理由を聞くと、ちょうどそのころ勤めていた老人施設の老人達に着せてあげたいと思われたからだそうだ。そして実際老人達が喜んでくれたと言う。気仙は古の陸奥国の郡で金の採掘や全国の寺社の建築に当たった気仙大工を生み出した地域であり、そうした中で切り絵を正月の神棚に飾ると言う風習も生まれて来たようだ。岩手に来てからは数々の巨匠に出会ったが今また新たな巨匠を見出した気がする。切り絵は1枚の紙に扇と鏡餅が描かれ、他にもいくつかのやり方があるようだ。これだけでも大した物だと思うがさらに打ち掛けや帯を使って正月飾りにしてしまうという発想がまたすばらしいと思う。実物を見れば尚そのすばらしさが印象づけられる。東北は自然に溢れてはいるが都会のように人の目を楽しませる娯楽は少なく、釜石の方がよく言われるように何もない街なのかも知れないが、そこに住む人々はただそこで何もしないで生きているのではなく一人一人が匠の技を知らないうちに身に付けているように思えて来る。全国各地を移り住んでこれほど人が技を身に付けている所は初めてである。その意味でも東北はすばらしい地域だと思う。

       すばらしい打ち掛けの正月飾り                  またひと味違う帯の正月飾り
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