「最近眠れないんだ」
デート中、彼女に相談した。
「そうね。案外、羊を数えてみると眠れるかもよ」
「ひつじねえ・・・」
ドリンクバーのアイスコーヒーを飲みながら「ひつじねえ・・・」
もう一度つぶやいた。
その日の夜。
やはり眠れない。
羊のことを思い出した。
(だめで元々。数えてみるか)
羊がいっぴきー
もくもく毛の羊が右手より現れて、柵を飛び越え左手に消えていく。
羊がにひきー
トコトコぴょーんトコトコ
羊がさんびきー
トコトコぴょーんトコトコ
羊の数を40匹数えるか数えないかでコトリと眠ってしまった。
それからは毎日羊を数えた。
最初のうちは40匹程度で眠れた。
しかし、40が100、100が200。
だんだんと羊の数が増えていった。
その日は特に眠れなかった。
すでに羊の数を9999数えた。
1万1匹目の羊が右手から現れた。
羊は柵を飛び越えずにこちらにやってきて、言った。
「もういいかげん寝てもらえませんかめえ~。
わたしら何匹で柵を飛び越えてるとお思いですか。
3匹ですめえ。
柵を飛んだ後、左手に消えていくでしょう。
あなたの後ろを回って右手に戻ってるんですめえ~。
わたしらが毎日疲労困憊めえ~
だから早く眠ってくださいめえ~」
私はちょうど1万匹目で眠ってしまっていた。
デート中、彼女に相談した。
「そうね。案外、羊を数えてみると眠れるかもよ」
「ひつじねえ・・・」
ドリンクバーのアイスコーヒーを飲みながら「ひつじねえ・・・」
もう一度つぶやいた。
その日の夜。
やはり眠れない。
羊のことを思い出した。
(だめで元々。数えてみるか)
羊がいっぴきー
もくもく毛の羊が右手より現れて、柵を飛び越え左手に消えていく。
羊がにひきー
トコトコぴょーんトコトコ
羊がさんびきー
トコトコぴょーんトコトコ
羊の数を40匹数えるか数えないかでコトリと眠ってしまった。
それからは毎日羊を数えた。
最初のうちは40匹程度で眠れた。
しかし、40が100、100が200。
だんだんと羊の数が増えていった。
その日は特に眠れなかった。
すでに羊の数を9999数えた。
1万1匹目の羊が右手から現れた。
羊は柵を飛び越えずにこちらにやってきて、言った。
「もういいかげん寝てもらえませんかめえ~。
わたしら何匹で柵を飛び越えてるとお思いですか。
3匹ですめえ。
柵を飛んだ後、左手に消えていくでしょう。
あなたの後ろを回って右手に戻ってるんですめえ~。
わたしらが毎日疲労困憊めえ~
だから早く眠ってくださいめえ~」
私はちょうど1万匹目で眠ってしまっていた。
優子はその夜、一人で飲んでいた。
ずいぶん長い間飲んでいるような気もするし、今飲み始めたような気もしていた。
不思議な気持ちだった。
はて、私は今日、何をしていたのかしら。
どうしても思い出せない。
「こんばんわ」
優子がまんじりともせず、お酒を前に固まっていると男が声をかけてきた。
頬がやせて目だけがギラギラ異様に光っている男。
「こんばんわ」
優子は無視していたが、男がもう一度声をかけてきたので慌てて会釈した。
「いつから飲んでいるのか分からず、今日何をしていたのかも思い出せないのではありませんか」
男はそう言った。
(どうしてこの人はズバリ私の考えていることがわかるのかしら)
優子は無言だった。
「あなたいつもこのお店に来られてじっとお酒を眺めてらっしゃる。
知りたくはありませんか?
なぜそんな事がわからないのか」
優子はだまって頷いた。
「そうですか。ではこちらに来てもらえますか。
ちょうど若者が写真を撮っているので、こちらに来て私と一緒に写ってもらえますか」
「はいチーズ」
若者が言い、フラッシュが焚かれた。
「どれどれ見せてー」
合コン中の記念写真。
デジカメをのぞき込む若者たち。
そこには優子も男も写っていない。
男が優子に言った。
「どうです。わかりましたか。
あなたと私だけが写真に写っていない。
なぜ写らないのか・・・
私たちは死んでいるんです」
優子は息をのみ、そして思い出した。
50年前に事故死したことを。
ずいぶん長い間飲んでいるような気もするし、今飲み始めたような気もしていた。
不思議な気持ちだった。
はて、私は今日、何をしていたのかしら。
どうしても思い出せない。
「こんばんわ」
優子がまんじりともせず、お酒を前に固まっていると男が声をかけてきた。
頬がやせて目だけがギラギラ異様に光っている男。
「こんばんわ」
優子は無視していたが、男がもう一度声をかけてきたので慌てて会釈した。
「いつから飲んでいるのか分からず、今日何をしていたのかも思い出せないのではありませんか」
男はそう言った。
(どうしてこの人はズバリ私の考えていることがわかるのかしら)
優子は無言だった。
「あなたいつもこのお店に来られてじっとお酒を眺めてらっしゃる。
知りたくはありませんか?
なぜそんな事がわからないのか」
優子はだまって頷いた。
「そうですか。ではこちらに来てもらえますか。
ちょうど若者が写真を撮っているので、こちらに来て私と一緒に写ってもらえますか」
「はいチーズ」
若者が言い、フラッシュが焚かれた。
「どれどれ見せてー」
合コン中の記念写真。
デジカメをのぞき込む若者たち。
そこには優子も男も写っていない。
男が優子に言った。
「どうです。わかりましたか。
あなたと私だけが写真に写っていない。
なぜ写らないのか・・・
私たちは死んでいるんです」
優子は息をのみ、そして思い出した。
50年前に事故死したことを。