その日は仕事を終え、酒を飲んでいた。
出来もしない仕事を引き受けた上司の尻拭いに行かされた。
赤松課長。
それが上司の名だ。
「ちょっと用事が入ったんで、上松商事さんに事情説明しに行って」
「はい」
もとから無理なのは分かっているだろう。
何の事情を説明するのか・・・。
案の定、先方にねちねちと嫌みを言われる。
「すみません」
(そりゃあそうだろう。あっちも仕事だ。算段が狂う。)
そんなことで、さほどうまくもない酒を飲んでいた。
視線を感じた。
視界のはし、カウンター席の隅に座る女。
顔をこちらにむけているように感じる。
あまり女の人をじろじろと見るのは主義に反するが、つい5分前もそんな状態だったような気がする。
顔をあげて女を見た。
やはり目が合った。
若い女性。
Tシャツにジーンズ。
髪の長さはショート。
不思議なのはどうも向こうの壁が透けて見えているような・・・。
(変だな。酔っているのか)
目をこすりながらよく見ようと目を細めた。
目をつむり、開けると、目の前に女がいた。
「おっと」
「いいですか、今夜、コンビニの前の歩道橋には決して行ってはいけません」
「あの川の前のコンビニかい?」
「そうです。いいですか、今夜絶対に行ってはいけません」
そう言うと、くるっと背をむけ、女は店を出ていった。
ドアが開いていないのに消えたような気がしたのは、俺が酔っているせいか・・・。
女の言っていたことを思い出した。
あの歩道橋を渡ってはいけません。
といっても歩道橋を渡らないと駅に行くための横断歩道はずっと先で結構な遠回りになる。
歩道橋の上には男が一人立っていた。
げっ・・赤松課長。
こんなところで何をやっているんだ。
おもむろに上半身を外に前屈させ今にも車道に落ちかねない。
酔った足では心許なかったがとにかく距離を詰めるために無言で走る。
声をかけるのは体を掴んでからだ。
腰を掴む。
「何をする。誰だ、君は・・・!
違うんだ!違うんだ!」
「早まってはいけません」
「違う!離せ!」
もみ合いになり、落ちた。
激しい痛み。
俺が落ちた。
車のヘッドライトが迫る。
警官に取り囲まれて赤松が話していた。
「私に恨みでもあったんではないでしょうか普段から私に対する態度がおかしいと思っていたんです。
いきなり突き落とされそうになりました。
殺されると思いました。
仕方ありませんでした」
半透明の天使がそれを見ていた。
ショートカットの天使だ。
「忠告ではやはり回避できなかったわ。
あのすけべ課長、歩道橋の上からちょうど女子寮の浴室が見えるものだから、もっとよく見ようとして身を乗り出していただけなのに。
あんな奴のために死ぬことはないわ。
もう一度時間を戻して歩道橋には近づかせないわ。
今度はもっと積極的に誘惑するわ」
天使の口元には微笑みがあり、まだ余裕が感じられる。
きっと問題は解決され、課長にもそれ相応の罰が下るはずだ。
出来もしない仕事を引き受けた上司の尻拭いに行かされた。
赤松課長。
それが上司の名だ。
「ちょっと用事が入ったんで、上松商事さんに事情説明しに行って」
「はい」
もとから無理なのは分かっているだろう。
何の事情を説明するのか・・・。
案の定、先方にねちねちと嫌みを言われる。
「すみません」
(そりゃあそうだろう。あっちも仕事だ。算段が狂う。)
そんなことで、さほどうまくもない酒を飲んでいた。
視線を感じた。
視界のはし、カウンター席の隅に座る女。
顔をこちらにむけているように感じる。
あまり女の人をじろじろと見るのは主義に反するが、つい5分前もそんな状態だったような気がする。
顔をあげて女を見た。
やはり目が合った。
若い女性。
Tシャツにジーンズ。
髪の長さはショート。
不思議なのはどうも向こうの壁が透けて見えているような・・・。
(変だな。酔っているのか)
目をこすりながらよく見ようと目を細めた。
目をつむり、開けると、目の前に女がいた。
「おっと」
「いいですか、今夜、コンビニの前の歩道橋には決して行ってはいけません」
「あの川の前のコンビニかい?」
「そうです。いいですか、今夜絶対に行ってはいけません」
そう言うと、くるっと背をむけ、女は店を出ていった。
ドアが開いていないのに消えたような気がしたのは、俺が酔っているせいか・・・。
女の言っていたことを思い出した。
あの歩道橋を渡ってはいけません。
といっても歩道橋を渡らないと駅に行くための横断歩道はずっと先で結構な遠回りになる。
歩道橋の上には男が一人立っていた。
げっ・・赤松課長。
こんなところで何をやっているんだ。
おもむろに上半身を外に前屈させ今にも車道に落ちかねない。
酔った足では心許なかったがとにかく距離を詰めるために無言で走る。
声をかけるのは体を掴んでからだ。
腰を掴む。
「何をする。誰だ、君は・・・!
違うんだ!違うんだ!」
「早まってはいけません」
「違う!離せ!」
もみ合いになり、落ちた。
激しい痛み。
俺が落ちた。
車のヘッドライトが迫る。
警官に取り囲まれて赤松が話していた。
「私に恨みでもあったんではないでしょうか普段から私に対する態度がおかしいと思っていたんです。
いきなり突き落とされそうになりました。
殺されると思いました。
仕方ありませんでした」
半透明の天使がそれを見ていた。
ショートカットの天使だ。
「忠告ではやはり回避できなかったわ。
あのすけべ課長、歩道橋の上からちょうど女子寮の浴室が見えるものだから、もっとよく見ようとして身を乗り出していただけなのに。
あんな奴のために死ぬことはないわ。
もう一度時間を戻して歩道橋には近づかせないわ。
今度はもっと積極的に誘惑するわ」
天使の口元には微笑みがあり、まだ余裕が感じられる。
きっと問題は解決され、課長にもそれ相応の罰が下るはずだ。