昔の望遠鏡で見ています

90S赤道儀

 タカハシの90S赤道儀は、手頃な大きさの高精度な赤道儀だ。庭には90S用ピラーを据え付けていることもあり、設置も容易でよく使っている。90という番号が何を意味するのか、正確には判らないが、初めて世に出た際に口径90mmの鏡筒がセットになっていた記憶があるので、その口径を使ったネーミングなのかもしれない。最近の星まつりでは、同社の12cmのアポ鏡筒を載せているのも見たことがあるので、用途はかなり広いのではないかと思う。

 90S赤道儀を初めて見たのは、昭和の頃の友人の下宿だった。同じ市内でも不案内な町で、狭い路地を迷いながら行った覚えがある。部屋は中学校の校庭が見える8畳間で、引っ越してきたばかりで物も少なかったのだろう、とても広く感じるところだった。星好きの集まりだったので、しだいに望遠鏡の話になった。そして押入れの段ボール箱から出されたのが、黒色の90S赤道儀だった。ずしりと重くクランプされていない鉄の塊は、どこを持っていいのか判らなかったが、とにかく精悍な出で立ちというのが、第一印象だった。鏡筒も見せて貰ったのかもしれないが、憶えていない。きっとこの赤道儀の印象が、強かったのだと思う。

 それからだいぶ時間が経って、一軒家に住むようになり考えたのが、手間を掛けずに星を見るには、どうしたら良いかということだった。考えた末、三脚をその都度組み立てるのは大変なので、庭にピラーを設置し、室内に保管した赤道儀を出し入れすることにした。赤道儀はかっしりしたものにしたいので、タカハシは外せない。その頃の候補には、EM10とEM200、そしてNJPがあった。まずEM10は積載可能な重量が7kgと、少し物足りなかった。ただその上のEM200になると、ちょっと大きすぎるのだ。ましてNJPに至っては、移動には台車が必要と聞いていたので、そもそもピラーの上まで持ち上げられないと思った。その時に思い出したのが、90Sだった。当時は、バブルの時期だったので、地方都市にもタカハシの代理店があった。郊外の眼鏡屋さんで、屋上に天文台も設置してある店だった。そこに聞いてみると、なんと製造中止になって、在庫が無くなったばかりだという。ひどくがっかりしたが、中古品もよく出回っていたこともあり、ほどなくして、古いがきれいな個体を入手することができ、これが現在の愛機となった。ベアリングで支えられた各軸はスムーズに回転し、クランプもフィーリング良くしっかり締まる。加えて、ぎりぎりではあるが膝の上に載せることが出来る大きさなので、その動きを手に取って確認できることも良いところだと思う。




 HD4が付いた90S赤道儀。

 ちょい見の時など、手動で動かすことが出来るのも大きな利点だ。ただし、高倍率で見る場合には、現代人にとってモータードライブは必須と思う。これに関して、最近気になることが一つある。それは90Sにも使える汎用モータードライブの製造が、終了したということだ。販売店に聞いてみると、今のところ再販の予定はないという。一方、具合が悪ければ修理は受け付けるとのことだったが、古いものであるから直らない可能性もあるのではと心配になる。
 そこで、手元にあった一世代後のP2Z用のHD5を90S用に使えないか、試してみることにした。P2Zも90Sも、ともに歯数は144で軸径は9mmである。ただし、赤道儀からのサポート金具が異なり、またその取付方法も異なる。大きな違いはモータードライブのハウジングの鉄製のパネルの穴に、P2Z用はねじが切ってあるが、90S用は切っていない(下の画像の黄色の矢印参照)ということだ。それでは、この部品が交換できればということで、試してみた。その結果、取り換えは可能であった。このことから、モータードライブが不調になった際には、他機種のモータードライブを入手できれば、取付できる可能性があることが判った




 P2Z用HD5モータードライブ。



 先のHD5のギアを外し、ハウジングの一部(灰色のプレート)を交換したところ。
 
 タカハシの赤道儀は丈夫で長持ちであり、昔のものを愛用している人も多いと思うので、汎用のモータードライブの製造をお願いしたいものだ。

  *実際に90Sへは取付ていないので、行う際には慎重に実施願います。

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