昔の望遠鏡で見ています

昔の望遠鏡による天体観望と、その鏡景写真についてご紹介します

五藤8cmで月を望む

2020-05-29 | 天体望遠鏡

 五藤の8cmF15で、月を見ました。昼間の青空の中に見た際には、全体的に青っぽく見えましたので色収差を心配しましたが、暗くなるとそれもなくなり、見事な月面が望めました。端部の色付きも、気になるものは有りませんでした。
 アイピースは、Abbe25,Po(パンオプティック)24,XW20,Dl(ディライト)9,LV9を使用しました。
 初めに、月全体を低倍率で見てみます。シンチレーションも良く、どれも綺麗に見えていました。色調も変わりなく、アイピース本体を見なければ区別は難しいと思いました。

 次に、ほぼ同じ焦点距離のAbbe25とPo24を、何度か取り換えながら比べてみました。前者は、慣れ親しんだいわゆるオルソの見え方ですが、後者は視野が広いせいか、目が驚くと言ったら良いのでしょうか、若干異なった印象がありました。このアイピースは、アメリカンサイズのアイピースで最大の視野を誇るという宣伝文句が付いていましたので、ワイドフィールドでの使用を想定して設計されているのでしょう。今後、星野での見え方も調べてその真価を探りたいと思います。

 Dl9とLV9についても、ちょっと見た限りでは区別は難しいと思いました。入れ替えを行いながら比べてみますと、同じものは見えているのですが、前者のほうがピントの山が掴みやすいというということが判りました。ただし後者は、ずっと愛用してきた約25年前の製品でしたので、コーティング等の劣化もあるでしょうから、そこはハンディが有ったと思います。



 今回の観望では、タカハシEM1Sとタカハシ用に特注加工されたビクセン三脚を、使用しました。また当日の月は天頂付近にあったため、接眼部の位置の関係から、脚も一番長くしました。ウエイトは3.5kgの物を使用しましたが、もう少し軽くても良いようです。
 この組み合わせでも、眼視での使用には、不具合はありませんでした。ただし、鏡筒が長いので、ファインダーをのぞきながらクランプは操作できるのですが、接眼部を覗きながらは手が届きません。現代のFの短い望遠鏡とは異なる操作方法が、必要となります。

 昔の火星大接近の折、五藤の8cmでコンポジット法を用いて、見事な惑星写真を撮影されている人がいました。昔のコンポジット法は、その当時パソコンなどありませんでしたので、たくさんのフィルムから良い像を選び、もう一度フィルムに焼き付けるという、途方もない努力が必要でした。今回、月の切れ味の良い像を見て、この鏡筒の基本性能の良さも、ひと役買っていたのだと一人納得しました。

新しい生活様式と天文

2020-05-24 | 天体望遠鏡
 日常へ戻るのには、まだ時間が必要なようです。



 再開翌日の天文台駐車場です。3台しか停まっていません。




 当面は、展示室のみの開館とのことです。




 いつも楽しみにしている、この先の主望遠鏡を見ることはできません。天文台を、どのように通常の状態にしていくのか、暗中模索のように感じました。

 今後、私たちが観望会を開く際にも、新しい生活様式を守って、待っている時の間隔をあけ、触ったところの消毒を行うことなどが必要になってくるのでしょう。その際には、目からの感染も防がなければなりませんので、ロングアイレリーフの接眼鏡の使用はもちろんのこと、アルコールでごしごし拭いても大丈夫なものが必要となるのかもしれません。



反射鏡の魅力

2020-05-23 | 天体望遠鏡
 反射か屈折か、天文愛好家にとってその選択は、悩ましいものです。その昔、反射の光学系は自作できるということは、大きな魅力でした。本格的に惑星観測を行うには、できるだけ大きな口径が良いと言われていたこともあって、自作を試みた天キチも多かったと思います。




 反射望遠鏡の作成法についての本も、古くから出版されました。一番右側は反射屈折系であるシュミットカメラについて記されているものですが、他は反射鏡の作り方について書かれた本です。なかでも、第一人者であった木辺の書籍は、内容に手を加えられながら、長きにわたって出版されました。これらは、昔の天文ファンだったら一度は手にしたことのある、バイブルのような存在だったと思います。

 一方、高精度の反射鏡を研磨するのは、大変難しく、名人芸が必要とされていました。名刀に刀鍛冶の名前が付くように、名人の作った鏡も、作成者の名前を付けて、木辺(きべ)鏡や星野(ほしの)鏡と呼ばれました。これらの鏡は、すべての天文愛好家の垂涎の的でした。
 フーコーテストの写真や、鏡の精度を表すλ/8(8分の1ラムダ)などの表現もなかなか通好みなので、天キチの反射望遠鏡への興味関心を高めたのではないでしょうか。
 また、鏡という存在そのものが、神秘的な雰囲気を持っているということも、反射望遠鏡の魅力の一つのような気がします。

 昔、同好会の友人から聞いた話です。反射鏡の仕上げ磨きの際には、アスファルトを使用しますが、溶かす際に強烈な臭いが出ます。そのため、いったん外で溶かしてから家に持ち込んだのだそうですが、その際に廊下に点々としずくを垂らしてしまい、親から大目玉を食らったとのことでした。反射鏡に魅せられた少年の反省する姿が目に浮かぶようで、忘れられない話です。



天文愛好家の性格

2020-05-17 | 天体望遠鏡
 むかしの人は言いました。
 ”If a man would be a alone,let him look at the stars.(独りきりになりたい者には、星を見させておけ)” by Emerson (エマーソン)


 何気なしに眺めていたTV番組(NHK プロフェッショナル仕事の流儀 本木雅弘)で、奥さん( 内田也哉子さん)が旦那さん(本木雅弘さん)のことを紹介している言葉に惹かれました。
 
 ”人を少し遠いところから眺めていたいんだと思います。全くいないのは寂しいけど少し交流があって、その余韻みたいなものを楽しむほうが創造力を駆り立てるんじゃないですか。”

 ”ふだんはなるべく一人でいたい、あんまり他者と関わりたくないということも、なんだか宇宙規模にロマンが拡散されてるというか、空想とあこがれが果てしない人なんだなと思います
 
 前者は、天文愛好家が観望会や星まつりへ参加する時のスタンスに似ているのではないでしょうか。また後者は、人付き合いが苦手な天文愛好家が仕事から帰ってきて、星を見ながら一人の時間を大切にしている様子に通じていると思います。

 これらの事から、本木さんはある意味において、天文愛好家の性格と同じものを持っているのではないかと感じました。なお、内田さんのインタビュー記事は、NHKのHP(藤井フミヤ 内田也哉子 ロングインタビュー)で見ることができます。




 私が自分に戻りリラックスできるのは、このような古い望遠鏡の部品を触っている時です。
 画像は、五藤の新旧K40mmです。右の旧K40mmは、彗星捜索にも使用されていたようです。五藤のネジの規格は独特ですが、旭精光の16cmコメットシーカーにも取り付け可能でした。筐体の材質は、新は軽いのでアルミ合金、旧はとても重く真鍮だと思います。

 若いころ、機械加工の試験を行っていた時があります。真鍮は切削加工すると、削りやすいのですが切粉が細かな粒状になり、機械の清掃が大変だったのを思い出しました。加工した後は、精密測定も行います。将来を想像しにくい仕事でしたが、結果として機械の基礎(もちろん望遠鏡もです)の理解に役立ちました。地道にやっていれば、何か良いことがあるということなのかもしれません。



 

 
 

五藤8cmアクロマート鏡筒

2020-05-15 | 天体望遠鏡


 五藤の8cmアクロマート鏡筒です。1970年より少し前の望遠鏡だと思います。1970年発行の双眼鏡/天体望遠鏡ガイド(天文ガイド別冊)に掲載されている五藤8cm赤道儀(極軸の高度調節をスライドして行うタイプ)が有りますが、その鏡筒の接眼筒には止めネジ(ストッパー)が付属しています。この鏡筒には止めネジが付いていませんので、改良前のタイプではないかと考え、そのように推測しました。なお、接眼筒の繰り出しの抵抗(ラックピニオンの抵抗)は、エキセン環で調節できますので、止めネジが無くとも一般的な眼視での使用には支障はないようです。



 対物レンズです。入手時は汚れていましたが、五藤でメンテナンスを行ってもらい、美しく蘇りました。対物セルを納めている部分はアルミですが、真鍮のタイプもあるようです。真鍮はアルミに比べ比重が大きいですから、接眼部に太陽投影盤などの重量物を取り付けることが予め判っている場合に、バランスをとるために使ったのかなと想像したりしています。また対物レンズは、その当時のより小口径(6~6.5cm)に見られる箔無タイプではなく、箔が使用されているタイプです。より性能を重視して、製作されていることが判ります




 接眼筒の繰り出し長さは、12cm以上あります。昔は眼視が中心でしたので、長いものが多くありました。目盛りは上部に刻印されていますが、接眼筒に止めネジが有るタイプのものは、向かって左側側面に目盛りが付いています。五藤の接眼部のネジの規格は独特ですが、一般に使われている規格との調節リング(M36.5/M36.4変換アダプターリング)が発売されており、現代のアメリカンサイズのアイピースも使用できます。




 ファインダー(9×30)の接眼部です。ピントは接眼レンズ部を抜き差しして合わせますが、左手のネジはその位置を固定するためのネジです。

 この望遠鏡は、理振法のシールが貼ってあり、昔の学校に多数納入されました。生徒たちの使用も考えてか、造りも良いようです。使用されている主な材料は金属とガラスで、樹脂類は主要部分には使用されていません。対物蓋(対物レンズの画像の右端に一部写っています)も、比較的厚手の鉄板をプレスしたもので丈夫に作ってあります。何年たっても正常に使用できることから、多くの個体が残っているようです。

 長焦点ですので良く見えますし、何よりも姿が美しく存在感がある望遠鏡です。歴史のあるアクロマートですのでレンズの対候性にも優れており、昔の望遠鏡のスタンダードの一つではないかと思います。

鏡筒径:95mm、重量:約4.3kg