昔の望遠鏡で見ています

昔の望遠鏡による天体観望と、その鏡景写真についてご紹介します

星の色について

2023-02-28 | 日記
 先に入会した天文同好会の例会では、毎回テーマを決めて資料などを持ち寄り、皆で鑑賞している。今回のテーマは、故藤井旭さんの書籍と星図であった。自分は所有しているもののうちから7冊を持参して、皆さんに見てもらった。

1 星雲星団ガイドブック(藤井旭 1971年 誠文堂新光社)
2 天体写真の写し方(藤井旭 1972年 誠文堂新光社)
3 天文ガイド別冊 望遠レンズによる星野写真集(藤井旭 1968年 誠文堂新光社)
4 天文ガイド別冊 広角レンズによる星野写真集(藤井旭 1970年 誠文堂新光社)

 1と2は、あの頃のベストセラーだったのだろう、知っている方も多かった。自分と同じく『天体写真の写し方』を基に写真を始め、お座敷暗室で焼付を行っていたという人もいて、話が弾んだ。『広角レンズによる星野写真集』では、掲載されている銀河の写真は、もはやアートの世界にあることを紹介した。そのうち、だんだん本から離れてチロの話になっていった。自分が参加した浄土平での ’ 星空への招待 ’ では体調が悪かったらしく、車の中にいて〝 覗かないで下さい 〟の張り紙がされていたと言うと、子犬の頃に撫でたことがあり、藤井さんや村山さんらと山形の小国に隕石を探しにも行ったという方がおられた。さすがに歴史のある同好会だけあって、かなりのベテランの方もいるものだと感心した。

 『日本の天文台』という藤井さんが全国を回って編纂した本を、持参された人もいた。そこには建替え前の天文台の写真もあり、皆で懐かしんだ。そこには、台員が雪駄(せった)を履いて望遠鏡を操作しているところもあり、古き良き時代の雰囲気を思い出した。

5 PHILIP’ S COLOR STAR ATLAS EPOCH2000 (JOHN COX & RICHARD MONKHOUSE)
6 星座遍歴(野尻抱影 1958年 恒星社厚生閣)
7 星の色(大沢清輝 1983年 地人書館)

 『COLOR STAR ATLAS』は、星の色が判る星図で、見ていて楽しい本である。この書籍で、『星座遍歴』にある一節の ” 紫の星・緑の星 ” に示されている星を見てもらった。具体的には、前者は ’ カシオペアηの伴星 ’ であり星図には表されていないので、今回は後者の ’ てんびん座β ’ が対象である。該当するページを見ながら、この星はスペクトル型:B型、主系列星、光度:2等級であるということが、一目で判るように表現されている事を説明した。
 今回偶然にも、この星が緑色に見えるかどうかについて、以前に確認したことがあるという人もいたのだが、よく判らなかったと言っていた。光量が少ないと、色を感じにくいのではと言う人もいた。抱影の見立ては、主に肉眼での観察結果だとは思うのだが、今後いろいろな望遠鏡で見てみるのも面白いのだろう。

 野尻抱影の本には、かねてから星の色についての記述が多いと思っていたが、果たして『星の色』の中でも、「星の色の美しさについて考える。こういうことを調べるには野尻抱影さんの著書が一番適している」と記されていた。そして、野尻抱影の『新星座めぐり』からアルビレオについての一節を紹介しながら、伴星についての色の見え方について解説がなされている。

 「それをレンズに捉えると、金色の星がその色の漲(みなぎ)る中心に燦爛(さんらん)と輝いてゐるのに、それに抱かれるようにして小さいエメラルドの星がまぢまぢと輝いてゐる。私は初めてそれを見た時に、すぐ天上のロミオとジュリエットを想ったし、又こんな贅沢な光景をかい間見ていいのだらうかと感じたほどである。」

 エメラルドは、緑柱石に分類される緑色の強い宝石である。これを踏まえて大沢は、「星が二重星の場合には、相手の星の色とのコントラストによっていろいろ感じがちがってくる。野尻さんはアルビレオの記述で緑色を強く感じておられるが、これは明らかに相手の星が橙々色だからである。」と述べている。

 このような話題で歓談していると、T先生がお見えになり会話に参加された。すると『星の色』の著者と、若かりし頃にお目に掛かったことがあるという。そのような話を伺うと、本の内容も、より身近に感じられるのが不思議であった。
 今回は、星の色についていろいろ考えさせられたので、先の星々が昇ってきたら、自分なりに何色に見えるかを確かめてみたいと思った。










星まつりで会った人

2023-02-13 | 日記
 星まつりでは、いろいろな望遠鏡が設置されていて、覗くのも楽しいものだ。星雲星団を案内している望遠鏡があったので、並んで見せてもらった。接眼鏡に目を近づけると、初めは明るい星がまばらに見えているだけだったが、じわっと暗い星々が浮かぶように見えてきて、素晴らしい星団だと判った。こういう対象は、ある程度経験が無いと見ることのできないものだが、私の次に覗いた若い女性が、瞬時に「沢山の星が見える」と言っていたので驚いた。

 いくら若い人の目の順応速度が速いといっても、経験が無いと見ることは出来ないと思って、いつから星を見ているのかと聞いてみると、本格的に見るようになったのは最近だが、幼いころに見た記憶もあり、ずっと興味は持っていたということだった。なんでも田舎のおばあちゃんの家に行くと、寝る時に天井が怖いと言っていつも泣いたのだが、そんな時はいつも父親が家の前の畦道で星を見せてくれたという。

 そのお父さんもきっと星が好きで、子供に見せたかったのだろうなと想像したのだが、何より素質ある同好の士の誕生した契機が微笑ましいものだったので、とても嬉しく感じた。星は一人で見るものと、ずっと思ってきたのだが、こういう時には少し軌道修正を迫られる。

 若い頃は、嫌なことがあったり、気を遣うのに疲れたりすると、 ” 一人がいい ” とよく感じたものだった。ところが最近、 ” そんなこと、本当にできるのか ” と思うことも増えてきた。今回の嬉しさも、人と話をすることで初めて得られたものだ。これは予期せぬ非重力効果のようなものかなと思っている。




天文台まつりで見た望遠鏡の林

2023-02-06 | 天体望遠鏡
 天文台まつりに出掛ける。コロナ以降、一時期少なくなっていた来館者も増えてきたようで、駐車場は一杯だった。ホールにはキッチンカーを模した店も設けられ、その前は家族連れで賑わっている。久しく味わえなかった活気ある雰囲気を楽しみながら、コーヒーを飲んだ。

 


 パンフレットを見ていると、「望遠鏡だいぼうけんツアー」というイベントが目に入る。以前の天文台まつりでも同様の企画があり、普段は入ることのできない大望遠鏡の基礎部を案内してもらったことがある。今でも思い出す面白い企画だったので、今回も参加したいと思った。集合場所はどこかと見回していると、ホール奥のプラネタリウム入口前に、白くて細長いものが沢山あるのに気が付いた。


 

 望遠鏡好きの直感というものだと思うが、それに導かれて近づいてみると、ツアーの看板と共に沢山の望遠鏡が並んでいるのを発見する。そして、それは久しく目にしていない、まさしく「望遠鏡の林」であった。






 一目で只者ではない望遠鏡が、含まれているのが判る。そして奥には、陰になってよく見えないものもあるようだ。




 ツアーが始まり、まず陰の部分に寄ることが出来た。画像は、後ろ側から見たところである。天文台の解説者によると、左手のMe社の経緯台式の2台(7cm屈折と20cmシュミカセ)は、前台長のT先生の望遠鏡だったとのことである。
 
 右後ろに見えるのは、Mi社の望遠鏡(GN-22)だ。この望遠鏡は見かけ以上に重くて、運ぶ際に天文台員の一人が腰を痛めてしまったそうだ。きっと白くスマートな外観に、騙されたのだろう。





 そしてG社のMX-Ⅱ赤道儀である。この望遠鏡は、元天文台員のC氏が愛用していたものだったが、先に天文台に寄贈されたということである。また鏡筒部分は、鏡も含め全自作とのことだったが、とても見事な作りであった。赤道儀部分をよく見ると、フライス盤によるカッターマークのあるプレートがあり何かなと思ったのだが、どうも元々の電動クランプ仕様を手動クランプ式に改造しているらしく、その際に取付けられたもののようだ。同架されている屈折鏡筒については、以前に工作室に置かれている時にいろいろ推測していたのだが、その対物セルの形状などから、T社の6.5cmD型セミアポ鏡筒と確認することが出来た。




 望遠鏡の後ろにある暗闇に紛れていた望遠鏡である。只者ではないと誰もが気付く存在だが、説明を受けるまで素性は判らなかった。
 解説を聞くと、なんと大正時代のZ社の望遠鏡だという。そして口径は8cmで、f1,200mmとのことである。その当時に3台輸入されたもののうちの現存する最後の1台で、もともと公共施設にあったものが民間人の所有になり、その後天文台に寄贈されたとのことであった。
 鏡筒バンドの脇の部分だが、最初は上下微動部かと思ったのだが、よく見ると耳軸を上下から挟む部品で、下部にあるものは上から被せる部品の固定用ネジのようだ。おそらく、容易に鏡筒を着脱できるように、工夫されているのだろう。



 木製三脚の物置台には、接眼鏡用レボルバーが置かれていた。円筒状の部分は、正立プリズムだろうか。



 接眼部は、真鍮製とのことである。また、f1,200mmと整合する接眼鏡の刻印であった。型式は、ハイゲン式のようだ。

 なお望遠鏡の林の中にあった他の機器は、N社10cm屈赤、V社8cm屈経、T社10cm屈赤及びL社の太陽望遠鏡であった。

 望遠鏡ツアーでは、ここのほかに1.3m望遠鏡、観察室の望遠鏡群、旧天文台の41cm望遠鏡及び車載搭載型の20cmクーデ式望遠鏡を案内してもらったのだが、初めて聞く事柄も多く興味深いものだった。
 一般の親子連れや若いカップルなどが大勢来る天文台まつりで、このようなマニア好みのイベントを催してもらえたことには、心から感謝したいと思う。