goo blog サービス終了のお知らせ 

回覧板

ひとり考え続けていることを公開しています。また、文学的な作品もあります。

画像・詩シリーズ  #6  知らない間に  

2023年05月22日 | 画像・詩シリーズ
 知らない間に
 
父が植え育てていたキーウィが
長らく雄株だけになってしまっていた
ぼくはそれを何度も目にしていた

雌株を買って植え
実がなり始めて今年で3年目
寒い冬を過ぎて
今年もまた
キーウィの花が咲き出していた
 
知らない間に
キーウィの花が咲き
また知らない間に
キーウィが小さなみどりの実を結んでいる
 
(知らない間に?)
ぼくが訪ねるかどうかにかかわりなく
たぶんキーウィは
花を咲かせ
実を結んでいく
花を咲かせ実を結んでいく
 
日差しを浴びて
みどりの内で
流れ下り
上り
ふくらみ
流れ下り上りふくらみ
季節の表情になっていく
 
ああ もう初夏か
風も雲も大気も
ぼくにもそう告げている







画像・詩シリーズ #5 バール

2023年04月03日 | 画像・詩シリーズ
バール

山際の畑の隅の
父が自分で建てた農業倉庫
わたしは使ったことがない
ただ柿の枝がその小屋の屋根に懸かるので
何年か屋根に上って柿を取ったことがある
もう50年は経っているだろうか
学校や就職で家を出ていたからよくわからない
トタン屋根が穴が開いたりして
もう使い物にならない
これ以上のほったらかしもまずいかなと
その小屋を解体することにした

それにはバールが要るなと思いついて
バールを買った
どこで何に使ったかは忘れたが
若い頃バールを使ったことはある

バールだけで解体できるわけじゃないけど
バールがないとどうしようもない
明治期に洋くぎが使われるようになって
西洋のバールが登場したという
バールひとつと
ぼくのひとつの手と
からだ全体で力を込める
たぶん歴史の古いてこの原理
次々に板やトタンがはがれていく

日にちが決まっているわけでもないから
焦る必要もなく
少しずつ少しずつ
小屋を解体していく

父はいろんなものをそのままにして
逝ってしまった
「終活」とかいう言葉まで生まれる時代になってしまったが
人はそんなにきちんと折り畳んで逝ってしまえるものじゃないようだ
引き継いだ者は
小屋を解体するなり補修するなり新築するなり
引き継いでいく

というわけで
ぼくの先々のこともあり
ぼくはこの小屋を解体している
バールのちからには静かな感動が湧いてきて
ぼくの手はそんなバールに呼応して
わりと無心に
少しずつ小屋を解体していく

ところで
言葉もまた引き継がれる
考え抜かれた誰かの固有の言葉が
誰かによって
固有のやり方で引き継がれる
そんな言葉を小屋に例えるなら
引き継ぐ者は
一部解体したり
増築したり
補修したり
その小屋の構成を参考に
全て解体して新築し始めたり
いろんな引き継ぎ方があるようだ

そんな時
言葉のバールは
ことばのからだに呼応しながら
どんなふうに活動しているのだろうか 




画像・詩シリーズ  #4 父

2023年03月17日 | 画像・詩シリーズ
#4.


 
山際の畑の横に小屋があり
その横に赤い椿たちが咲いている
と散歩で通る人は見るかもしれない
あるいは
亡き父を知っていた人は
そこに父の姿を重ねるかもしれない
 
写真を見せられながら
青年の父は
相撲が強かったと耳にしたことがある
父は
戦争に行った
若い頃は
看守の仕事をした
兼業の農業に差し支えるからとそれも辞めた
話も耳にしたことがある
それから製材所に勤め農業も兼業した
このあたりからは
少年のわたしは実際に目にしている
 
看守の仕事は同じ仕事していた親戚から紹介されたものか
わからない
しかし父が看守の仕事を辞めたのは
別の理由の気がする
わたしもまた
十年ほど勤めてみて学校の先生を辞めた
生徒の時も
先生になった時も
アーマー装備して生身の相手に向かう
かたくるしい世界だった
(どこの小社会も似たようなものではある)
 
少年の頃は時々農業の手伝いをさせられた
(嫌だったな)
それでも一仕事した後の風は心地よかった
父の亡き後
地味も日当たりもあんまりよくない
農地もいくつか残された
初めは荒れた農地の草刈り程度だったが
隣の畑の人にさつまいもの苗をもらってから
少しばかりの農事に手を出してしまった
少し風の流れが変わった
(人と世界との関わりには無数の偶然の要素があり
人はつい引き寄せてしまうことがある)
 
父は
たぶん小屋をひとりで作り
いろいろ活用して
そのまま残して逝った
その小屋は
わたしはほとんど使ったことがない
ただ小屋の屋根に柿の木が懸かっていて
その柿を収穫する時に小屋の屋根に上って取っていた
トタンの屋根がサビて破れ
それももうかなわなくなった
 
それでその割と大きめの小屋を壊し始めている
まだその側壁は壊してなくて
赤い椿たちが咲いている
この山際の畑には
いくつもの椿が咲いている
たぶんわたしが今の家を建て替えた時
父が自宅に植えていたいろんな椿をここに移植したものか
(そうしてここに来て毎年花も眺めていたのかもしれない)
 
山際の畑の横に小屋があり
その横に赤い椿たちが咲いている





画像・詩シリーズ  #3 残る

2023年01月14日 | 画像・詩シリーズ
#3

残る

今では古くなってしまったものが
残っている
使い続けて残っているものもあれば
五月人形のようにしまい込まれ埃をかぶっているものもある
いずれにしても
残っている
壊したり捨てたりするには
まだ名残があるか
最初に仕舞い込んだままになっているか
いずれにしても
残っている

同時代には
新しい物から
古いものまでの
時間のスペクトルが生きて在る

人間の心の層も
とっても古いものから新しいものまで
連係し合って
現在を生きているようなのだ
 



画像・詩シリーズ 2.立ち上がる

2022年12月01日 | 画像・詩シリーズ
立ち上がる

 
人に囲い込まれた地は
売買・交換・相続可能な土地となり
耕されたり建物が建ったりする
主が亡くなっても
相続されたり交換されたり
また新たな表情で立ち上がる
くりかえしくりかえし
くり返されていく
人に見捨てられてしまった山中の土地が
地に帰って行くもある





 


1. 壊す

2022年10月06日 | 画像・詩シリーズ
1.
壊す

ここにひとり住まいだった九十代のおばあさんは
今は施設にいるらしい
見知った家
を壊しているにはちがいない
こちらからは壊されていると見える
娘夫婦が住む家が建つそう
移りゆく時間があるんだな
壊れる中に
芽ばえもありそうだ


#画像・詩シリーズ