のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

声が聞こえる

2015-06-23 | 物語 のしてんてんのうた

ある日のしてんてんはぶるぶるふるえていました

蒼ざめてポッカり空いた傷口から

しゅうしゅうといのちの抜ける音がします

しゅうしゅう

しゅうしゅう

元気だったのしてんてんはもうどこにもいません

傷ついた自分がかなしくてゆるせなくて

その上にまた傷をつけてしまうのです

のしてんてんはもうどこにも出口を見つけられませんでした

つらいことでしたが

悲しみにも疲れがきます

悲しみにつかれたのしてんてん

全てを失ってしまったのしてんてん

胸のなかには何もない

触れば傷つくような瓦礫に囲まれてのしてんてんはしなびていきます

その時、あきらめきったのしてんてんに何かが聞こえてきました

しゅうしゅう

しゅうしゅう

それは自分の傷口から抜けていくいのちの音でした

不思議なことでしたが、のしてんてんは初めてその音を聞いたように思いました

その音がいのちそのものだと気付いたのです

何もない心の荒野にのしてんてんは初めて己のいのちと巡り合ったのでした

苦しみにもがいていたのしてんてんがしずかになって、その音に耳をかたむけるようになりました

しゅうしゅう

しゅうしゅう

それは自分を不幸に突き落とす魔性の音なんかじゃない、そう気付いたときふと音の背後で声が聞えました

子供の声だったと思います

何もしなくていいよ、今のままで充分しあわせなんだから

その声は一度きりでしたが、のしてんてんの心がやまびこのように繰り返しました

何度も何度ものしてんてんは繰り返しました

しゅうしゅう

しゅうしゅう

どうしたことでしょう、突然その音がのしてんてんの中で喜びの歌声に変わったのです

深い深いところから波のようにしあわせが湧き上がってきます

気が付いたら音は何層もの柔らかな天空の響きに変わっていました

のしてんてんの傷はもう跡形もなかったのです

 

 

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