実は密かにセビジャーナス(sevillanas)を習っている。
セビジャーナスはフラメンコの中でも最もポピュラーなもので、アンダルシア地方のセビージャの春祭りで踊られる、まぁ言ってみれば盆踊りのような踊りである。
色々な曲があるものの、そのリズムや曲の構成は決まっているので一度おぼえればもうどこのフェリア(feria お祭り)に行ってどんな曲が流れても踊れてしまうのだ。
先生は日本人。
せっかくスペインに来てフラメンコを習うのに日本人の先生ってどうよ?と思ったりもしたが、その先生の踊りを見たらあまりのかっこよさに魅せられてしまい、即、弟子入りを決意したのだった。
先生は日本で社交ダンスを教えていらしたのだが、やはりたまたま日本でフラメンコの舞台を観て「これだわ~!」と運命を感じ、もう矢も楯もたまらず身辺を整理して一人マドリッドに飛んできてしまったのだそうだ。
言葉もわからず知り合いもいないのに無謀といえば無謀だが、すごい行動力。
それから18年。
プロのダンサーとしてスペインで舞踊団に所属し舞台をこなしながら日本人にフラメンコを教えて身を立てておられる。
そしてこの4月から日本で教室を開くために3月末で帰国予定。
先生にとってはおめでたいことだけど、私たちにとっては残念なことに期間限定の弟子入りとなってしまった。
ミーハーな5人のオバサンでセビジャーナスグループを結成。
毎回わくわくしながらメトロ1号線のアントン・マルティン(Anton Martín)駅近くのスタジオに通う。
あまり治安のよい地域ではないが、フラメンコのスタジオはこのあたりに結構集中しており、本気のダンサーたちのやる気モードを感じることができる。
オバサンの暇つぶしの域を出ない私たちではあるが、やっぱりフラメンコオーラの漂う人たちに混じって踊る、これが重要なポイントだと思うわけ。
しかし週に1度、2時間のレッスンはなまった中年のからだにはさすがにキツイ。
まずフラメンコ特有の手と指の動きをみっちり練習するが、腕のスジが引きつりそうになりあちこちで悲鳴があがる。
なにしろ踊りなんて実にピンクレディー以来である。
壁一面の鏡に映る自分の姿にも愕然とする。
けれど、気持ちイイ!
ババーンと床を踏み鳴らすとスカッとする!
これはよいストレス解消法を見つけてしまった。
2時間レッスンした後はもう汗だくのヨレヨレで、次の日はベッドから起き上がれない。
それでも気分爽快なのだ~。
少女時代、バレエに憧れて白鳥の湖のまねごとをしたりしたことがあったが、自分にはバレエはあまりにも似合わず、恥ずかしくてとても本気でやりたいなどと人には言えなかった。
その点フラメンコにはオバサンが踊っても許される雰囲気がある。
それどころか元々ジプシーの踊りなだけあって、水牛のようにガタイのいい貫禄のオバサンが妖気を噴出しながら踊る方が感動したりして。
とにかくこっ恥ずかしさが半分くらいで済むのがうれしいのだ。
「スペインでフラメンコを習ってました。」
かっこいいじゃありませんか。
帰国後にこんなセリフで決めてみたい。
でもこれ逆にすごく危険。
実際踊って見せたときに「・・・・・・。」微妙なリアクションをされたらすごく恥ずかしい。
日々精進するしかない。