「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」
漱石「草枕」の有名な冒頭
漱石はその住みにくい世をつかの間でも住みよくするのは、
「ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。
あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊い」
と主人公を通して漱石独自の芸術論を語っている。
そして、
「床にかかっている若冲の鶴の図が目につく。これは商売柄だけに、部屋に這入った時、すでに逸品と認めた。
若冲の図は大抵精緻な彩色ものが多いが、この鶴は世間に気兼ねなしの一筆がきで、
一本足ですらりと立った上に、卵形の胴がふわっと乗かっている様子は、
はなはだ吾意を得て、飄逸の趣は、長い嘴のさきまで籠っている。」
と100年以上も前から若冲を高く評価していた。
今回の東京芸術大学大学美術館の「夏目漱石の美術世界展」は
文豪夏目漱石が美術に関しても鋭い感性と審美眼をもっていたことを
私たちに教えてくれた大変面白い企画展であった♪♪♪
若冲ばかりでなく、近年やっと注目されはじめた江戸絵画にも見識があり、
日本美術・東洋美術ばかりでなく西洋美術にも造詣が深かったことにあらためて驚いた。
「ターナーが汽車を写すまでは汽車の美を解せず、
応挙が幽霊を描くまでは幽霊の美を知らずに打ち過ぎるのである。」
漱石を読みかえそうと思う夏