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大飯原発は本当に安全なのか:メディアと専門家への注文

2012-05-15 | 報道/ニュース

先週のフジテレビの番組で枝野経済産業大臣が[原子力発電所の再稼働の可否を決めるのはその安全性である]と明言した。経済性から再稼働の必要性を論じる政治家、識者、専門家、メディア関係者が多いなかで、きわめて明快な発言で評価できる。

福島原子力発電所の事故の教訓が、原子力発電所にも事故が起こるものであるととらえられがちである。本当の問題点は放射性物質のまき散らしである。多くの近隣の住民が避難を余儀なくされ、農業、漁業などの産業が甚大な影響を受け、さらに東電は廃炉ならびに保証に莫大な費用を要し国の予算にも影響しかねない現状である。事故が起こってもこのような公害を起こさないようにすることがその産業に従事する技術者の責任であろう。

今回の事故で、非常用発電機が水没しなければ放射性物質のまき散らしを阻止できたであろうことは多くの専門家が認めるところである。原子炉の事故では、燃料棒の注入によって核反応を停止させかつ燃料を水冷し続けることができれば、燃料を正常な位置に保持したまま冷温停止状態に持ち込むことができるはずである。燃料のメルトダウンも放射性物質のまき散らしも生じることがない。廃炉も容易である。枝野大臣の安全性はこのことを指していると思われる。

さて大飯原発は安全だろうか。IAEAに提出した報告書の津波対策の項によると次のようになっている。4.65m以下の津波に対しては安全である。扉や貫通部にシール施工の結果4.65mから11.4mの津波に対しては、補機給水は失われるが主給水の喪失は回避できるかもしれない。恒常非常用発電機の設置が計画されているが、現在のところは電源車で間に合わせようとしている。

枝野大臣は専門家が安全だと保証したというがその内容があまり定かではない。原子力安全委員会は5分間の審議で結論を出した。福井県の審議会は安全だと結論したが、大阪市が派遣した調査団には疑問をはさむ団員が多かったように思われる。メディアは主電源が失われた後も冷却し続けることができるようになっているのか詳細に調査して報道すべきである。シール施工がどれほど効力があるのか専門家の意見を聞きたい。

原子力学会が2011年5月9日付で福島第一原子力発電所事故の教訓と題する書類を発行している。これを読んで驚いた。その提言が原子力保安員と電力会社が同年4月末にまとめた応急的な緊急安全対策にお墨付きを与えるようなものだからである。提言は短期と中期とに分かれている。短期では電源車の準備とかシール施工が提言されている。中期の提言があるということは、短期の提言では不十分であることを認めているようなものである。中期の提言が達成されない間に地震が発生したらどうなるのだろう。事故の深刻さに対する認識が甘い専門家の安全宣言を信頼できるかどうかが疑問である。

ついでにもんじゅについて一言述べておきたい。もんじゅのようなナトリウム冷却型高速増殖炉では事故で制御不能に陥ったとき水冷が出来ない。ナトリウムが水と激しく反応して爆発を起こすからである。もんじゅだけの問題ではない。将来国内に建設されるであろう高速増殖炉のいずれかの直下で地震が発生する可能性もある。この計画を推進している人々は、巨額の費用を使っていつ爆発するか分からない巨大爆弾を子孫に残そうとしているようなものだ。

日本の原子炉専門家にお願いしたい。原子炉安全神話が崩壊したということは、原子力発電所が再度同じような事故を起こすことを容認するものであってはならない。たとえ事故を起こしても放射性物質のまき散らしを起こさないよう万全の措置を講じること、これが原子炉専門家の責任であることを認識してほしい。現在活躍している原子炉専門家の先輩たちがアメリカで内陸用に開発された原子炉を輸入して不用意に海岸に設置したことが、福島の事故の遠因であろう。いつどこで地震が起こるか分からない地震国に適合する原子炉について再検討する絶好の機会であろう。アメリカでは高速増殖炉も含めてさらに安全性の高い原子炉開発されようとしていると聞く(3/2,4/12参照)。