にっぽにあにっぽん日本語&日本語言語文化

日本語・日本語言語文化・日本語教育

日本語学基礎2

2012-01-20 08:05:00 | 日本語学
2009/09/17
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座復習編>ことばの基礎(12)語種クイズ復習

 海外との異文化交流の話。文化の交流があれば、かならず言葉の交流があります。古代から海外と交流しつつ、日本語の語彙が増えてきました。
 ここで、語の素性クイズ。日本語には、もともとオリジナルの日本語=和語と、漢字とともに中国から入ってきた漢語と中国以外から来た外来語があります。語種といいます。和語、漢語、外来語。

 2日目の宿題として、語種クイズプリントを渡して3日目に答え合わせ。これは、何度か、カフェコラムでも紹介した春庭クイズです。一度クイズを考えれば、毎年毎年学生は違うメンバーだから、何年でもつかえるクイズ。便利です。

 何度か掲載してきたクイズを再録。同じクイズを何度も見てきたという人も、復習です。もう一度回答してみましょう。(何度やっても忘れているから)
 1,次のことばを見て、A)の漢字の語にはよみがなを書いてください。  
2,A)①~⑤のグループ分けの理由を考え、どのグループの語が固有の日本語(古来の和語&日本で作られた語)か選び、海外から日本へ入ってきた語と区別してください。

① 久羅下  山  雨  花  
② 大根  火事
③ 哲学  経済  野球  
④ 梅  馬  寺  鮭 
⑤ 一日  二万  大豆 

 語種クイズ解答。
 Aグループの固有日本語(古来の和語と日本で作られた語は「①、②、③」です。え~っ、そうなの?と学生たち。そうなんです。毎年同じクイズをして毎年「え~!」とびっくりされる。

 っていうことは、④⑤は固有の日本語ではなく、もともとは外国から来たことば。古い時代に日本に来たので、今は外来の語だということは忘れられて、完全に日本語語彙としえ定着しています。
 A④の「梅」「馬」は、古来の日本語だと思われている。それほど日本語になりきっているので、もう外来語だと言う必要もありません。
 出自は古代中国語で「ンメィ」と発音したと思われる「梅」。日本に取り入れられたときは、語頭の「ン」は、古代日本語では発音できなかったので、「ウ」に変えて「ウメ」になりました。現代中国語では「メイ」。「馬」も同様、「ンマー」。現代中国語では「マー」。

 もともと日本にあった花木を固有の和語から中国風にかえたのか、中国から梅の木と共に名前もやってきたのかは不明。馬は、「騎馬民族説」などもあるくらいですから、もともと大陸にいた動物が流入したときに動物名も同時に来たのかもしれません。しかし、1万年くらい前までは、大陸とも陸続きであったのですから、もともと野生馬がいて、漢字「馬」が入ったときに、改めて「馬」という呼び方が定着したのかもしれません。

 「てら=寺」は朝鮮語のチョル(礼拝)と同根という説があります。仏教関係の語はサンスクリット語(梵語)や漢語から来ているので、テラだけが朝鮮語経由というのはこじつけっぽいと思うのですが、仏教伝来とともに、やってきたことばであることは、他の仏教用語と同様でしょう。

 「サケ=鮭」は、もともとサケ・マスを表すアイヌのことばだった語を和語に取り入れ、漢字をあてはめた。「鱒」をアイヌ人は( シャケンペ或はサ ケン ペ) と称するが,語源的に「シャクイ ペあるいはサクイペ」。(,hak.sak-夏)の(ipe-食)の意。
 中国語では魚のサケは「三文魚」。
 馬や鮭も、もはや外来語といわなくてもいいでしょう。

<つづく>
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2009年09月18日


ぽかぽか春庭「クラゲなす漂へる万葉仮名」
2009/09/18
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座復習編>ことばの基礎(13)クラゲなす漂へる万葉仮名

 語種クイズのうち①の久羅下(クラゲ)について。
 クラゲには海月という当て字もあります。中国語の「水母」をそのまま使う場合もあります。「久羅下」という表記は古事記や万葉集に出ている「万葉仮名」という書き方です。中国語である漢字を日本語表記にするため、さまざまな表記の工夫がなされました。漢字の意味をそのまま日本語にあてて、「山」を「やま」と読むことにしたり、久羅下のように、ひとつの音節(子音と母音を組み合わせて発音する音のひとまとまり)にひとつの漢字をあてはめたりしました。

 百人一首では持統天皇御製「春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山」万葉集では「来にけらし→来たるらし」「干すてふ→干したり」と、少しことばが違います。
 万葉仮名表記の例。
 春過而 夏来良之 白妙能 衣乾有 天之香来山 はるすぎて なつきたるらし しろたえの ころもほしたり あまのかぐやま 

「はる」「なつ」「しろ」などには同じ意味の中国語漢字、春、夏、白を当て、「し」「の」など助詞には発音が同じ「之」「能」などの音読み漢字を当てています。之の草書から「し」という平仮名ができあがりました。乃の草書から「の」という平仮名ができました。能という漢字の草書から変体仮名ができました。どちらも音価は「no」です。(能の変体仮名の形は下記URLでお確かめを)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Hiragana_NO_01.png

 万葉集巻十、2174番「露を詠める よみ人しらず」
  秋田苅 借廬乎作 吾居者 衣手寒 露置尓家留
(秋田刈る仮廬(かりいほ)を作り我が居(を)れば衣手(ころもで)寒く露ぞ置きにける)

 万葉集2174番の歌は、天智天皇の歌として百人一首にもなっている「秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ 我が衣手は 露にぬれつつ」の本歌です。雄略天皇の歌とか天智天皇の歌などの中には、万葉の時代に民謡のように流布して皆が口ずさんでいた歌を、洗練させてから「大王の歌」として掲載している歌も多い。パクリの日本事始め、というか、本歌取りは、和歌の技法のひとつとなっています。

 さて、パクリは今日の話題にあらず。本日のお勉強は、助詞の「乎を」、「居れば」の「者ば」、「置きに」の「尓に」などが他の語と区別されていることです。万葉集の表記者は、助詞や助動詞などの非自立語(付属語)と自立語と峻別していることがわかります。
 『古事記』や『万葉集』の編纂者、表記者は、日本語の文法をきっちり把握して表記していたということです。

 現代語での対照でも、中国語母語話者が習得に難儀するのが助詞の区別です。中国語に助詞も助動詞もないからです。

 ⑤の「一日、二万」などは、漢字が日本にもたらされた直後に日本語の語彙に取り入れられた語。
 「外来語ぎらいだから、外国から来た言葉は使いたくない、古来の日本語だけで、話したい」とおっしゃる方には、古来の日本語に言い換えができますから、どうぞ。
 15を「ジュウゴ」などと、外国から来た言い方でいわずに、「とおまりいつつ(とお余りいつつ」38は「サンジュウハチ」ではなく、「みそまりやっつ」と、本来の和語で言うことをお奨めします。456は、よつももまりいそまりむっつ。ちと、面倒ですね。だからこそ、中国方式の数の数え方が普及したのです。

 A④⑤は、固有の日本語だと思い、A③は漢語だと思った、という学生も多い。
 ③の日本語は、幕末明治期に西欧語を学んだ日本人が、翻訳した語。「フィロソフィ」にあたる語が日本語にはないので、漢字を用いて「哲学」と翻訳した。「エコノミィ」にあたる語がないので、中国古典に出てくる「経世済民」からとって、「経済」と翻訳した。

 近代以後、中国に逆輸入されて、現代中国語でも「哲学」や「自由」「社会」などを普通に使っているので、中国の学生に「これらの漢字語は日本で作られたんだよ」と、紹介すると、ええ~?!と驚きます。これらの和製漢語について詳しく知りたい方は柳父章(やなぶあきら)『翻訳語成立事情』岩波新書、惣郷正明『日本語開化物語』朝日選書などを参照してください。

<つづく>
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2009年09月19日


ぽかぽか春庭「多啦A夢」
2009/09/19
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座復習編>ことばの基礎(13)多啦A夢

和語漢語外来語クイズ後半
⑥ 旦那 獅子 葡萄 
⑦ 天麩羅 煙草 歌留多  
⑧ 普請 行燈 蒲団  
⑨ 鉛筆 血管 投票 
⑩ 麻雀 面子 焼売 
⑪ 電脳 電視台 机器猫

 A⑥~⑩の語も外国から日本に入ってきた語です。⑥の旦那 獅子 葡萄は、サンスクリット語古代ペルシャなどが漢語経由で日本に到達した語。⑦の天麩羅 煙草 歌留多は、ポルトガル語が室町時代の終わりに入ってきたのち、漢字を当て字した語。⑧は鎌倉・室町時代に日本にやってきた漢語。読み方(発音)が平安時代までに入ってきた漢語と異なります。⑨は、近世の漢語。⑩は近代の漢語。これらは日本語語彙として定着しています。ただし、⑩はマージャン、シューマイなど、カタカナで書く場合も多い。

 A⑪の語は、日本語ではありません。現代中国語です。コンピュータ=電脳、テレビ局=電視台という語は、インターネットの普及、中国映画の普及で、一部の日本の若者に使われるようになっていますが、まだ「漢語」として日本語語彙には入っていません。あくまでも中国語。これから一般化すれば、中国語からの「近代以後の現代流入の漢語」となって、日本語語彙の一部になっていく可能性があります。

 中国語で「机器猫」とは何でしょうか。答え「ドラエモン」です。ドラエモンのパクリが中国に新出したころはこう書きました。著作権問題をクリアした最近は、音訳で「多啦A夢ドゥォラーエーマン」と表記しています。たくさんの夢をポケットから引っ張り出すドラエモンという意味も含まれている漢字表記です。多啦A夢や桃小丸子(ちびまる子)、蝋筆小新(クレヨンしんちゃん)は、中国の子供たちに大人気。

 ちなみに、「蝋筆小新」の意匠登録は中国で法的に有効となっているので、クレヨンしんちゃんの商標権利を持っている双葉社は、蝋筆小新グッズの差し止め請求はできません。2009年の中国での買い物のひとつ、蝋筆小新のイラストと「このおバカ!」「止められるの?」という日本語が描かれているボストンバッグ25元を買いました。

 ドラゴンボールが「七龍珠」になったりしたほか、全世界周知のあのネズミさえも、北京にそっくりさんキャラがお目見え。「中国での著作権解釈。映画などの共同作品(法人著作権)は、発表後50年で切れる。ミッキーマウス発表年1928年の50年後、1978年で中国における権利は切れている。」という法解釈なのです。
 著作権の保護という観点から見ても、通称「ミッキーマウス保護法」で「個人作品は著者の死後75年。法人作品は発表後95年まで延長」と著作権保護期間を延長したのは、アメリカのエゴと私も思います。

 子供が塀に書いた落書きにさえ著作権を言い立てるというあの会社、北京そっくりさんには何か言ったのかどうか。
 漢字というすぐれた表意文字を、著作権がどうのこうのと言わずに分け隔てなく周囲に与えてくれた中国ですから、ネズミのパクリくらいは大目に見てもいい、、、、のかな。

 語種クイズ⑥普請 行燈 蒲団 は、「唐音」「唐宋音」と呼ばれている、鎌倉時代以降に日本に入ってきた中国語の発音です。飛鳥奈良以前に入ってきた発音は「呉音」と呼ばれ、平安初期の遣唐使時代くらいまでに入ってきた発音は「漢音」と呼ばれます。
 訓読み「行く」の「行」は呉音では「修行」「行者」など「ギョウ」という発音、漢音では「旅行」「行進」など「コウ」という発音。「行燈」「行脚」の唐音では「アン」という発音になります。

 漢字をその時代その時代の発音で取り入れただけでなく、漢字を使いこなし、日本語に合った表記法「仮名」を自国語に適応させたニッポン魂、ニッポンチャチャチャ、と喝采してあげましょう。ちなみに、ここで言うニッポン魂とは、なんでも取り入れてなんでも自分たちの文化に合うように変形・編集する「編集魂」のことです。「編集」こそ「創造」なのだと、松岡正剛先生もいってます。ニッポンチャチャチャ。
 次回はニッポンジャパンの話、復習。

<つづく>
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2009年09月20日


ぽかぽか春庭「ニッポンジャパン和製英語」
2009/09/20
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座復習編>ことばの基礎(15)ニッポンジャパン和製英語

 9月実施日本語学集中講義で「日本語なんでも質問コーナー」という時間をもうけました。日本語についての学生が感じた疑問質問に、教師が答えるというコーナーです。
 ユカさんは「日本は、にっぽん、にほんどちらがいいですか。どうして英語ではジャパンというのですか」と質問してきました。これもカフェ日記では何度か書いたことです。日本語学の授業では呉音漢音の話のついでに解説しました。

 「日」は呉音では「ニチ」と発音します。「日曜」「日録」など。「日記」はニチキです。「チ」が促音化して、「ニッキ」に音が変化します。どの音が促音化するか、法則があります。しかし平安時代には促音の表記法がなかったので、「にき」と平仮名表記しました。「土佐日記」の平仮名表記は「とさにき」です。現代仮名遣いでは促音は、小さい「っ」を書くことになったので、「にっき」です。

 日本(ニチホン)は、チが促音の「ツ」になり、さらに「ホン(フォン)」は「ポン」に音が変化します。(この音変化も法則あり。促音の後ろはポン、撥音「ん」の後ろはボン)。変化したあとの発音は「ニッポン」です。でも促音の表記がないので、「ニホン」と表記しました。

 今では「ニッポン」「ニホン」どちらも使われ、原則として単独で用いるときは「にっぽん」。「日本語」「日本文化」など複合語のときは「にほん」です。

 漢音では「日」は「ジツ」と発音します。「祝日」「休日」など。「日本」は漢音の発音では「ジツ+ホン→ジッポン」です。現代中国語では「ジッポン」の発音が残り、「ジーベン=リーベン」と発音されています。ジッポンはシルクロード経由で欧米に渡り、ジパン(グ)、ジャパン、ジャポンなどになりました。Japanの「Ja」の読み方、スペイン語などでは「ja=ハ」、ドイツ語では「ja=ヤ」なので、「ハポン」「ヤーパン」「ヤーバン」など発音がかわります。
 
 このニッポンとジャパンの話も、毎年同じ話をして毎年「知らなかった!」と言われる「日本語トリビア話」です。

 語種クイズカタカナ語の部1~6。どれが日本語(固有の和語&日本で作られたカタカナ語)で、どれが海外から流入してきた語でしょうか。

1、クラゲ カリ オトメ 2、スキンシップ ナイター パネラー 3、カステラ カッパ キセル 4、ミシン ラジオ テレフォン 5、デパート アパート パソコン 6、  ケアホーム バリアフリー ユビキタス

 語種クイズBのカタカナのことばのうち、1は和語。3はポルトガルからの外来語、4・5は英語からの外来語を省略したり発音変化したりしたもの、2と6は「和製英語・和製カタカナ語」と呼ばれるものです。

 動植物名は漢字表記以外のとき、原則としてカタカナで書くことになっていますが、雁を「カリ」と書くと、ガンとは別の鳥のようですね。

 和製カタカナ語については、アユさんに発表してもらいました。アユさんは英語のことばを言い、日本語ではなんと言っているか当てるというクイズを考えて出題しました。

 野球用語outside pitchは、日本語でなんというでしょう。答え「アウトコース」。英語play catch日本語「キャッチボール」。サッカー用語additional timeまたは injury time。日本語ロスタイム。ファッション用語same outfit,またはmatching outfits。日本語ペアルック。英語sleeveless。日本語ノースリーブ。コンピュータ用語、英語numeric keypad。日本語テンキー。英語update,または upgrade。日本語バージョンアップなど。

<つづく>
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2009年09月21日


ぽかぽか春庭「文法栓抜き説」
2009/09/21
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座復習編>ことばの基礎(16)文法栓抜き説

 スキンシップ、ナイターなどのおなじみ和製カタカナ語のほか、モーニングサービス、アメリカンコーヒー、ガードマン、カプセルホテル、ラブホテルなども英語圏では意味が通じないことを学生たちに認識させます。マンションに住んでいるというと、大邸宅、大豪邸に住んでいると思われるから、アパートメントハウスまたはコンドミニアムに住んでいると言いましょう、と言うと、学生たち「英語でも通じると思っていた」とため息。

 第3日目は日本語の文法について。今回は品詞分類だけやりました。学生たち、品詞分類は大いに苦手です。典型的な名詞と形容詞・動詞は分類できますが、ちょっと分類がわからないと、助動詞にしてしまう。間違い続出で、「~をとおして、何より、ほとんど、にした、にしても、しっかり」などは、よくわからないからと助動詞にされていた。「小さな」→形容動詞。「すばらしさ」→形容詞、、、などなど。
 「きれいな」は、形容動詞(日本語教育ではナ形容詞と呼ぶ)ですが、「大きな、小さな」は連体詞。「すばらしさ」「美しさ」など「さ」がついたら、形容詞ではなく、名詞に分類しなければなりません。

 これでは文法学習の基礎をやってからでないとだめだとわかったので、後期の演習で文法をがっちり学ばせることにして、今回は日本語教師は日本語文法をしっかり身につけていなければ、教えられないよ、と、日本語教師志望者に伝えるにとどめました。

 学習者が「大学に勉強する」「大学で通う」「部屋でいる」「喫茶店に待つ」という誤用をしたときに、わかりやすく説明するためには、教師が助詞のちがいをきっちりわかっていなければならない。

 「彼は親切だ」「彼は学生だ」という文型を習ったあと、「親切な彼」を習うと、学習者は「学生な彼」と書いてきます。「学生な彼」はダメだよ、日本語ではそう言わない、だけ教えて、「学生な彼」がなぜ言えないのか説明してやらないと、「学生」については訂正できても、次にまた「医者な彼」と書いてしまいます。「元気な彼」はいいけれど、「病気な彼」は言えないということを、まとめて理解できるようにしてやらなければなりません。

 学習者が「彼女はきれいだ。彼女はうつくしいだ」と表現したとき、「彼女はきれいだはいいけれど、彼女はうつくしいだ、とは言いません」とだけ教えたのでは、次にまた、同じ間違いをして「彼は元気だ。彼はやさしいだ」と書くかもしれません。形容詞(イ形容詞)と形容動詞(ナ形容詞)の区別を教師が知り、文の中での使い方を教えてやれるようにしておかなければなりません。

 文法は、外国語学習を効率的に経済的に進めるための道具です。
 紙を束ねて留めるのに、ホッチキスという道具があると便利ですね。針で穴をあけて、糸で閉じても紙を重ねて綴じることができますが、ホッチキスでガチャンと留めれば、早くできます。
 針で穴をあけて糸で綴じるという方法もひとつのやり方ですが、できるだけ短期間に言語学習を進めたい、という場合に、ホッチキスは便利です。

 ビール瓶のふたをあけるのに、歯で栓をかじって開けるより、栓抜きがあったほうが簡単です。文法というのは、ホッチキスだったり、缶切りや栓抜きだったり、便利な道具なのです。ことばにとっての道具の基本は「品詞」ですから、品詞を覚えないと栓抜きなしにビールのふたをあけるようなことになりますよ。まあ、歯が丈夫な人なら、毎回歯でビールの栓をこじ開けるのもよいでしょうが、普通は、栓抜きがあったほうが、おいしくビールが飲めます。語学学習、単語暗記が第一。第二は文法理解です。

<つづく>
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2009年09月22日


ぽかぽか春庭「禅車両ふたたび」
2009/09/22
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座復習編>ことばの基礎(17)禅車両ふたたび

 日本語学概論の第4日目は、社会の中の日本語と世界の中の日本語。日本語が取り入れた外来語や和製英語、世界語として通用する日本語、などについての学習です。

 古くはゲイシャ、ハラキリなどが英語の辞書に載りました。最近ではスシ、カラオケが「世界語」になっています。サキさんは、「世界で通じる日本語語源のことば」クイズを担当しました「アニメ」「オタク」なんていう語が世界進出しています。

 春庭のカフェコラムでも「禅zen」が、フランス語に取り入れられて、「瞑想できるくらい静かに乗っていたい人のための新幹線車両」の名称になっていることを紹介したことがあります。いつ書いたのか忘れたので、検索しました。「春庭・zen車両・フランス」の3語アンド検索でトップに出てくる。便利ですね、検索機能。2008年2月23日に書いたことがわかりました。
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/haruniwa/diary/d1372

 各国語との対照言語学も日本語教師として知っておくべきです。日本語学習者のそれぞれの母語が、発音面、文法面でどこが日本語と共通しているか、どんな点が日本語と異なっているかを把握しておけば、ある学習者にとって日本語の何がむずかしいのかわかります。

 発音対照では、私の授業では毎回必ず「右、左、ライトレフト聞きわけドリル」「モニの熊さん歌詞聞き取り」などを行います。中国南方地方出身者にとって「N」と「R」の音は同じ音に聞こえる、というと、「え~、ぜんぜん違う音じゃないの、どうしてニスとリスの区別ができないのだろう、簡単な区別なのに」と言う日本語母語話者も、自分たちには「lightとrightの区別がつかない」ということがわかると、母語によって発音の区別が違うことに気がつきます。

 英語母語話者にとって、lightとrightは別の音を発音する別々の単語だけれども、日本語母語話者の耳には同じ音に聞こえることがわかれば、「練習」という漢字に「ねんしゅう」とふりがなを書いてしまう中国南方出身者の気持ちもわかります。「連絡」という発音を聞いて、「ねんらく」「れんなく」「ねんなく」さて、どんなひらがなを書いたらいいのか迷いにまよってしまいます。「れんらく」と発音しても「ねんなく」と発音しても、彼らの耳には同じ音に聞こえているのです。

 世界の言葉との発音対照では、日本人の苦手な英語の発音と、日本語学習者にとってむずかしい日本語の発音のチェックをします。
 ハングル文字表を見て、自分の名前を書かせると、自分の名前の発音が韓国語では発音できない(文字がない)ものがあることに気づく。渡辺和歌子さん、韓国のハングルには「wa」の文字がありません。韓国語では合成母音ㅘ[wa]「ㅗ+ㅏ ua」になります。
 座間さん、「za」の字がありません。韓国語には「za」の発音がないのです。

 逆に言うと、日本語の発音の中で、韓国語にはないものがあれば、韓国人にとって発音がむずかしい。「za」の発音がむずかしいから、韓国人やタイ人の中には「おはようございます」が「おはようごじゃいます」になる人がいる。
 日本語母語話者にとって日本語にない発音「th」が苦手で、たいていの人がthank youをsankyu と発音するようなものです。スミスさんは、Sumithだから、最初のスはいいけれど、さいごのthは「ス」じゃないのだけれど、日本語話者には発音できないので、スミスさん、と呼んでいます。渡辺さんは、韓国の人には「ウァタナベ」さんと呼ばれます。

<つづく>
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2009年09月23日


ぽかぽか春庭「狐の嫁入り」
2009/09/23
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座復習編>ことばの基礎(18)キツネの嫁入り

 発音対照のつぎは語彙の対照。雨のことば集めのついでに、各国語での雨の語彙比較対照をします。
 日本語では雨のことばがたくさんありましたが、アラビア語では雨のことばは少ないだろうと予想しました。アラビア語の雨はマタル。アル・サド・アル・マタルAl Sa'd al Mat.arは「幸運をもたらす雨・雨の守りの星」という星の名になっている。バニ・マタルは「雨の子孫たち」という意味の地域名。イエメンのバニマタル地方は雨期にはかなりの雨がふり、モカ・コーヒーの産地になっているそうです。このように、いくつかは雨にまつわる語もありますが、雨に関わる言葉集めをしても、アラビア語には、日本語ほどたくさんはなさそうだと推測できます。

 各地での雨に関わることばを対照比較してみましょう。
 「涙雨」にぴったりとあてはまって一語で表現できる英単語がないので、「涙のような雨The rain like my tears」というような表現にするしかありません。sprinkling rainでは、雰囲気が違ってしまいます。ほかの雨の例で比べてみましょう。

 ロシア語では「きのこ雨」грибной дождьというのを、日本語ではなんて言うでしょうか。ロシア語だと検討もつきません。
 英語では「太陽のシャワーsun shower」と言い、オランダ語でも「太陽の雨zonregen」、デンマーク語スゥエーデン語ノルウェイ語(この三カ国の言語は方言差程度で、ほぼ同じ言語です)では「太陽の雨solregn」という。なんとなく、意味がわかってきました。
 
 アジアのことばでは、どうでしょうか。インドネシア語「雨熱い(熱い雨)hujan panas」
 韓国語で「キツネの雨 ヨウビ 여우비)。ヨウは狐여우のことで、ビは雨。여우비(ヨウビ)はキツネの雨。
インド南部のケーララ州などで話されるマラヤーラム語(インドで認められている22の公用語のうちの一つであり、話者は約3,570万人)では、「キツネの結婚式kurukkande kalyanam」。
 そう、日本語でも「狐の嫁入り=天気雨」です。アジアの中でも韓国やインドのケーララ州のように同じ発想で天気雨を表す語もあることがわかって、親近感がわきます。

 学生たち、クイズを発表しあって、楽しみながら日本語のあれこれを考えました。
 学生の「日本語トリビアクイズ」発表では、「甲骨文字クイズ」「KY式、アルファベット略語クイズ」「国名漢字表記クイズ」「四つ仮名(じぢずづ)読み分けクイズ」などが出題されました。

 「日本語の擬音語は、英語でどのように翻訳されているか」という発表では、ドラエモンの英語版を使って、オノマトペ(擬音語擬態語)が少ない英語だと、ほとんどが単純な動詞や副詞になっていることが紹介され、皆、日本語オノマトペの豊富さにあたらめて気づきました。

<つづく>
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2009年09月24日


ぽかぽか春庭「日本文化プレゼン」
2009/09/24
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座復習編>ことばの基礎(19)日本文化プレゼン

 英語との比較では、「ハリーポッターの翻訳、訳者によるちがいの比較」を発表した学生がいたので、私は追加説明として、法廷通訳の話をしました。裁判員制度がはじまって、外国人の裁判にも一般の人が参加することになったけれど、翻訳のことばひとつで被告の反省の気持ちが伝わったり反省していないと受け止められてしまう、など、影響が出てきます。
 今、私と同じ大学院ゼミの博士課程に所属している方は、法廷通訳の問題点を追求して博士論文を書いています。法廷通訳は、言葉だけでなく各国の文化の違い法律の違い倫理観の違いなどまでしっかり把握していなければならず、たいへん重要な仕事です。日本語教師もまた、言葉の違いだけでなく、文化や社会背景の違いを知っておくべき仕事です。

各国の文化を知り、日本の文化を発信できることは日本語教師の必需項目。この夏、中国で「浴衣の着付け」を学生に教えて、おおいに喜ばれました。私の得意技は「ソーラン節」などの踊り、折り紙、昔話のかたり。

 今年の中国では「桃太郎」を語ったのが好評でした。
 聴解の合同クラスを担当したとき、数字に弱いので、CDの番号のどこに聴解問題が入っているのか、わからなくなってしまい、困りました。「聞き取り問題が苦手」という学生が多いので、聴解授業は大切なのですが、、、、「それでは日本語の聞き取り練習、昔話を聞きます」と、「昔むかし、あるところに」、とお話をしたのです。CDの聴解は、授業外でも聞くことができるけれど、教師が生の声で昔話を語るのを聞くという時間はなかなかないので、学生たちには喜ばれました。怪我の功名。

 学生たちにも、「日本語教師として、日本語学習者に伝えたい日本事情」という発表をさせました。「日本事情」とは、日本の地理歴史、文化、社会情勢など、上級日本語の科目として学習者に日本語で教える授業です。
 日本語学習者に伝えたい「私の得意技による日本文化紹介」は、私がどの授業でも自己表現練習として課しているプレゼンテーション。過去の授業では、「空手の型」「神社のおはらいのやり方」「奄美地方のことばで自己紹介」「茶道お手前披露」「書道紹介」「お手玉披露」などなど、それぞれの学生が自分の得意なことを発表してきました。

 学生ひとりひとり、得意なことなんでもいいから、発表できることを昼休みのうちに考えておくこと、という課題を出しました。通常ですと、「来週までに準備すること」という課題になるのですが、4日間のみの集中授業なので、午前中に課題を出し、「昼休みに準備して午後発表してください」と、忙しい。時間の制約があるので、はたしてどんな発表になるのかと思っていましたが、それぞれ工夫して身近なことから発表をしました。

 2009年夏の集中授業での「日本文化紹介」発表では。「日本の学校での給食について」「中国語について」「帝国ホテル紹介」「節分豆まきの由来」「日本で最初の長編アニメ『白蛇伝』紹介」「百人一首1番から30番まで暗記朗唱」「六郷土手花火大会紹介」「剣道紹介」「効果的なスポーツ訓練法の紹介」「折り紙紹介」「川越の古い町並み紹介」「切腹とは何か」など。

 短時間の準備しかできないので、何人かの学生はインターネット利用で発表しました。ユーチューブの映像を利用して地元の花火大会のようすを見せながら「六郷土手の花火大会紹介」をしたり、『白蛇伝』予告編を見せながら、日本最初の長編アニメを紹介したり。

 自分が生まれた町の紹介あり、剣道3段の腕前を持つ学生の剣道の構えの紹介あり、アルバイトをしていたホテルの紹介もあり、みな、5分間の発表で、他の学生を「へぇ、そうなんだ!」と楽しませる発表ができました。
 日本語学習者むけには、既習の日本語だけを使う工夫が必要ですが、自己表現は十分にできる学生たちなので、日本語教育について学んでいけば、日本語を母語としていない学習者に対しても、しっかり日本の文化や歴史を紹介していくことができると感じました。

<つづく>
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2009年09月25日


ぽかぽか春庭「集中講義の感想」
2009/09/25
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座復習編>ことばの基礎(20)集中講義の感想

 日本語についての新しい知識を得て、自己表現もしっかり行って、4日間の集中講義を終えて「楽しかった」と学生たちは、夏休みの校舎を去っていきました。
 集中講義、今回は最終レポートをレポート用紙提出ではなく、「メール添付文書提出」にしました。成績をすぐに提出しなければならないので、郵送を待っている余裕がないということもあります。私にとっては、初めての試み。今まで、メール不着をおそれて「レポート郵送または直接教師に提出」にしていたのですが、もうそろそろメール添付でもいいかなと思って。

 最終レポートは「報告」であって、「感想文」ではないので、感想を付け加える必要はない、自分の発表と授業で学んだことの報告を書きなさいと課題を伝えたのですが、字数3000字以上という課題に、少しでも文字数を増やしたくて感想を付け加えて書いてきた学生もいます。メール添付のいい点は、コピーが簡単なこと。レポートの中の学生の感想部分をコピーしておきます。

 提出レポートに「つまらない授業で飽き飽きした」と書く学生はいないので、よかった部分だけの感想を書いているのでしょうけれど、楽しかったという気分は今回の受講生13名の学生それぞれが持ったようなので、私としても疲れたけれど、4日間全力投球の充実感がありました。
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(あや)
 現代日本語概論の講義を通して、日本語の奥深さ、面白さ、難しさ本当にたくさんのことを感じました。そして、たくさんの発見がありました。
普段なにげなく使っている日本語も、改めて外国の学習者に教えようとして、1つ1つ先生に説明されると、とっても難しいものだと実感しました。
(ゆき)
 母国語である日本語の奥深さに触れ、自分の知識のなさを痛感した4日間ではあったが、日本語の複雑さと面白さも改めてしることができた。先も述べたが、日本人の発音や聴き取れる音域の幅は、他国とは比較にならないほど低い。しかし、そうした中で、我々日本人は独自の文化、豊富な擬声語を用いた情景豊かな文章表現は、世界に類をみない。普段何気なく用いている語が、他国には無いということは、驚きでもあるが、同時に誇らしい。一見、閉鎖的な歴史を歩んできたかに思われる日本ではあるが、様々な表記、表現方法は、一生かかっても用いたり、触れたりできる機会は、あまりないかもしれないのだが、せっかく、世界でも習得することが困難な言語を母国語に持つことができたのだから、もっと知識をつけていきたいと思う。
(ゆか)
先生が「言葉は常に変化する」「間違った日本語でも、みんなが使い始めればそれが正しくなる」という言葉を聞いて感激しました。本当にその通りだなと共感しました。
品詞について一番分かったことは、自分の苦手分野だということ。名詞、動詞、形容詞、形容動詞、助詞、副詞…聞くだけで頭が痛くなります。しかし、ここをしっかりと理解し学習者に説明できるようにしなくてはいけないな、と再確認しました。
今回この現代日本概論の集中講義をとって私は成長でき、知らなかったことを疑問に思い調べて発表して理解し知識を身につけることができました。みんなの前で自分の意見を発言したり発表したりすることにまだ慣れていない私は、初めは恥ずかしかったけど最後は疑問に思ったことの答えが早く知りたくて、みんなに教えてあげたい、発表したいと思えるようになるくらい自分が成長したことに気付きました。
後期の授業でも先生の授業をとらせていただきます。これからまだ自分の知らないことが待ち受けているのか先生の授業がとても楽しみです。わたしも先生のようにものしり先生になりたい!と思いました。どうか後期の授業でもよろしくお願いします。
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 この4日間集中講義に続いて、6日間、一日に90分授業5コマ連続というさらにハードな集中講義がありました。前期、中国滞在のために休講していた4単位、週2コマの分です。学生も私もかなりへとへと。それも本日25日が最終日。

  私の授業は、「参加型、獲得型授業」であって、「教室の椅子に座って半分いねむりをしていれば授業が終わる」という「睡眠不足解消型」のお得な授業ではないので、学生も集中して授業に参加していると疲れます。発音確認や朗読練習で声を出し、ペアワークやグループワークをし、発表し、「達成感があった」と喜ぶ学生もいるし「疲れたぁ」となる学生もいます。

 今回は、どんな感想が出てくるでしょうか。「疲れたぁ」だけでなく、日本語や日本語教育を知っていくことへの意欲を引き出していける気分を持てたのならうれしいですが。

<おわり>