GREEN NOTE

ワイルドグリーンディスカス中心のアクアリウムブログです

山で出会った青年(後編)

2019年10月22日 | 登山

笑顔で皇海山山頂に現れたK君。お互いクラシックルートを抜けて来たソロ同志。
混雑する山頂の隅で一緒に食事をしながら話もはずみます。
「いや~あそこの鎖場やばかったですね」
「あそこはヤバよ。岩も脆いし足滑らせて落ちたらあの世へ超特急だね」
「すれ違う人みんな俺の顔見て、どうしたんですか?大丈夫ですか?って聞くんですよ」
「そりゃそうだ。腕も顔もたった今滑落しましたって感じの傷だもん。
スボン破けてシャツも昨日の血がついてるし(笑)」
二人で笑いあいながら飯を食べ、これから笹藪漕ぎが待つ後半戦に向け鋭気を養います。


K君の年齢は三十を過ぎたばかり。登山暦は2年ほどですが、かなりの山を経験しています。
前日に滑落して登山を続ける事に眉をしかめる人もいるかもしれませんが、自分はそれに
ついてとやかく言う事はしません。見たところ擦り傷だけですし、その先行けるかどうか判断する
のは自分自身なのです。判断を下すのは他人ではない…それがソロ登山だと思います。
そして今のK君は難関ルートを抜け、私以上に活力がみなぎっている。
話していて、その若さとバイタリティが眩しいとさえ感じました。
食事が終わると、私が一足先に出発し、またそれぞれのソロ登山者に戻ります。


その後、鋸山に登り返し別ルートに入って悪名高き六林班峠の笹藪を抜けます。
背丈ほどもある熊笹を掻き分け、見えない足元の倒木トラップに悪態つきながら、
道迷いしないよう時折GPSで位置とルートを確認して慎重に慎重に…
六林班を抜けると、山腹の笹をいくつもの沢を越えながらトラバースするルートに変わります。
大きめの沢のほとりで大休止。ザックを下ろし、浄水ボトルで沢水を飲みながら行動食の
チョコレートとドライフルーツをかじっていると、K君が追いついて来ました。

余談ですがこの浄水ボトル、カタダイン社のビーフリーという製品で濾過性能が高く、
細菌やウィルスまで除去するという優れも物です。本当にそこまでの濾過性能があるかどうか
は確かめようもありませんが、これを使って今まで腹を下した事は一回もないです(笑)
コンパクトで処理水量も多く、災害時も極限状態になったら役立ちそうです。

K君とまったり休憩しながら話し、この先のルートを一緒に行動する事にしました。
休憩中やテント場、山小屋では他の登山者と話すのは好きですが、行動中は単独を好む自分
としては珍しいことです。
そのくらい彼とは意気投合し、波長が合ったという事ですね。
それからはK君が先行でペースを作り、笹やザレ場で滑るいやらしい斜面は自分が先行する
二人三脚の下山が始まりました。
道中いろんな話をしながら、それでも結構なペースで飛ばしましたが…
恐ろしい事にこのトラバースコースは標準コースタイムを大きく巻けないんです。
例えば今までなら標準コースタイム三時間の所を二時間から二時間半まで巻く事は可能でした。
そのくらいの山行経験と体力作りはしてきたつもりです。
それが行けども行けども同じような風景のトラバース道が続き、なかなか距離が縮まらない。
決してペースを緩めているわけではないのに。
だんだんと辺りは暗くなってきて、いつまでも続く登山道と風景の既視感に、
まるで抜け出せない迷宮に迷い込んでしまったような錯覚に陥ります。
これは二人して、世にも奇妙な出来事の世界に入り込んでしまったか?
そんな不安がよぎった頃、ようやくトラバース道が終わり庚申山荘に戻る道に入りました。
本日スタートした庚申山荘まで戻れたのは午後六時過ぎ。ほぼ日没の時間です。
急速に夜の闇が支配して行く中、私達はひとつの決断に迫られる事になります。

つづく

えー本来、この記事は前中後編の三回で書き終えるつもりでしたが、書いているうちに
長くなってしまい、完結は次回になってしまいました。
申し訳ありませんが、宜しければ今しばらくお付き合いをお願いします。


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