GREEN NOTE

ワイルドグリーンディスカス中心のアクアリウムブログです

山で出会った青年(前編)

2019年09月25日 | 登山

彼と出会ったのは去年の9月。
数ある栃木県の登山ルートでも屈指の難関ルートとされる銀山平~庚申山~鋸山~皇海山に
初挑戦した時のことです。
皇海山自体は深田久弥著書の日本百名山に挙げられていますが、群馬側から登ると危険箇所も無く
短時間で登頂できる上に山頂は樹林に囲まれて展望も無いという…
そのせいか日本一地味な百名山などとも言われていますが、クラシックルートと呼ばれる栃木側の
銀山平から登るとその様相は一変します。
栃木ルートの核心部は皇海山本体にあらず。その手前の鋸山にあります。
鋸山の前後は脆い岩場の急登あり、足を踏み外したら転落するヤセ尾根あり、垂直に近い崖を
長々と降りる鎖場ありの難所が続き、今年の初夏は滑落事故や道迷い遭難、行方不明が
相次いで起こりました。
おまけに帰りのルートにある六林班峠は背丈まで繁る熊笹に覆われルートも不明瞭なため、
ある程度のルートファインディング技術も必要となり、長い、辛い、危ないの三拍子揃った
栃木のラスボス感溢れるハードコース。
ちなみに、前記事で幻覚を見たというのはここではなく、黒岩山という奥鬼怒方面の山です


危険度もさることながら、コース距離と行動時間が長いため、多くの登山者がコースの前哨基地とも
言うべき庚申山荘に一泊します。自分もそれに習って一泊。
庚申山荘は基本無人の山小屋ですが、管理は銀山平の国民宿舎かじか荘で、週末などときおり
管理人さんが居たり居なかったり…水場、炊事場、バイオトイレもあってなかなか快適です。


庚申山荘には午後3時頃到着、シュラフとマット敷いて寝床を確保。
他の登山者と自炊の夕飯を食べながら情報交換したり、歓談したり。
すっかり夜になって、階段脇のテラスでスキットルのウィスキーをチビチビ飲みながら星空を眺めて
夜の山の雰囲気に浸っていました。
すると夜8時頃でしょうか、山荘の裏手にある庚申山の中腹あたりに光が揺れているのに
気がつきました。
光は高度を下げながらこちらに向かっているようで、どうやら下山者のようです。
こんな時間に下りてくるなんて、道迷いか何かのトラブルか…
新月に近い月明かりの無い晩で、山小屋には電気も無い漆黒の闇です。
山小屋を見過ごして更に下ってしまったら大変、手元のヘッドランプを下山者のいる方角に向け
照射と点滅を繰り返してこちらの場所を伝えます。
やがて揺れる光が急速にこちらに向かって来ると、下山者が正面階段を上って現れました。
ヘッドライトに浮かんだその容貌を見て、思わず「あっ…」と驚きの声を上げてしまいました。
その顔は30歳前後くらいの人懐っとそうな好青年に見えましたが、額からからは血が流れ
Tシャツも血で赤く染まっています。
頬や腕も激しく擦り剥き、凝固した血がこびり付いて泥だらけです。
山小屋に到着し私の姿を見て安心したのか、彼は安堵の笑顔になってこう言いました。

「滑落しちゃいました…」

  つづく


見えてはいけないモノが見えた日

2019年09月19日 | 登山

久しぶりの更新となります。
ブログ更新は滞っていましたが、登山活動はずっと続けています…と言いますか
どんどん深くハードな山行にのめり込んでいる今日この頃です。


最近は山小屋泊の縦走だけでなく、連休はテントを背負って北アルプスに数日入り込んだりも
するようになりました。


3000メートル峰、岩場、鎖場、梯子の連続といったように高度難易度が上がれば必然的に
リスクも上がって行きます。
リスク低減のためジムにも通い続け、心肺機能と筋力の向上維持に努め、食生活にも気を使い…
ここ数年で我ながらストイックな生活習慣が身につきました(笑


そうそう、リスク低減と言えば山岳保険とヘリの遭難捜索サービスにも加入しました。
山岳事故で私に万が一の事があっても普通の障害保険は適用されません。
ヘリコプターでの捜索、救助、最悪の場合は遺体搬送とかなりの金額になりますから、
家族に負担を掛けない最低限の義務だと思っています。




ほぼ毎週、天気さえ良ければ何処かしらの山に登っております。
今年も冬山から春、夏、秋と様々な山に登りました。
本格的な冬装備も一式揃い、今年は様々な美しい雪山も楽しんできました。





登山をするようになってこの夏始めての幻覚を見ました。
栃木でも屈指の難関ロングルートで行動時間14時間の長丁場の中、下界の気温39度という猛暑日
あまりの暑さに水の消費が激しく、ルート終盤でついに飲料水を切らしてしまい、
ルートを変更して水場に向かう途中の事でした。
頭の中は水場から湧き出る冷たい水のことで一杯。
すると見えたんです…前方の樹林の中に茶色の壁と青い屋根の木製のペンションが見えました。
水場まではまだ遠く、これは助かった!と水を分けてもらおうと近づいて行くと
すぐにペンションは消え、そこには樹林以外何もありません。
瞬時に 「あ、幻覚だ」と気付きましたが、怖かったのはそれまで自分の目にはハッキリとペンションが
見えていた事です。ペンションの壁には四角いガラス窓があり、その中で給仕している
メイドさんの姿まで認識していました。
初めての体験ですが、疲れてはいたけど意識がハッキリしているのに鮮明な幻覚が見えたという事実。
これは怖いです。ゾクッとしましたね。
山行歴が長いベテランの人に言わせれば、幻覚幻聴はよくある事で驚くに値しないとの事ですが
初めて経験すると怖いものです。


最後はちょっとサイコな話でしたが、近々また更新したいと思います。

次回は
単独山行だからこそある一期一会の出会い…の中でもかなりのインパクトがあった人とのお話しです。
強烈な出会いの後、不思議な共感から行動を共にし、最後は運命共同体の夜間下山まで。
人間として不思議な魅力を持った登山青年のお話しです。