富士通と名古屋大学の共同で、振り込め詐欺を検知する電話機が開発された。
同技術は、通話中の声の抑揚を分析し、だまされやすい心理状態を自動的に検出する。検知成功率は90%以上。また、振り込め詐欺で使われやすいキーワードを抽出する機能と組み合わせれば、さらにその精度は上がるという。
振り込め詐欺の被害額は、年間128億円(平成23年、警察庁調べ)である。
このニュースを聞いたとき、日本の技術だったら、これくらいできるだろうなと思った。それと同時に、すこしバカバカしさを感じた。
振り込め詐欺は、身内のことなら無条件に信用してしまう日本人の特性をうまく利用した犯罪である。
この「身内なら無条件で信用する。外部の者は信用しない」という反射的な判断は、閉鎖された農村共同体に由来することは、すでに述べた(日本的安心社会)。
振り込め詐欺の手口で、詐欺集団が荒稼ぎするようになって、かれこれ10年くらい経つのではないだろうか。最初は、かなり同情したが、もうそういう気分にはなれない。そろそろ学習しなくてはならない。
いつまで騙されているんだと。
騙される人がいるから、いつまで経っても、詐欺集団はいなくならないし、新たな被害者が生まれる。
話は変わるが、沖縄にカバマダラという蝶がいる。この蝶は、幼虫のときに、毒が含まれているガガイモ科の植物を食べる。ガガイモ科のガガイモやトウワタを、家畜が誤って食べてしまうと、吐いたり、心臓発作を起こし死んでしまうこともある。かなりの猛毒である。
何故この幼虫は、毒のある植物を食べるのだろうか。
一つには、他の生物が食べないから、豊富にあるということが、挙げられるだろう。
もう一つは、この植物を食べることで、体内に毒をため、鳥に食べられないようにするという点が挙げられる。そして、この毒は成虫の蝶になってからも持続する。
成虫の蝶は、「私には毒がありますよ。近寄らないでくださいね」ということを知らしめるために、派手な羽を進化させた。この自己主張によって、鳥は毒のあるカバマダラを食べなくなる。
次に何が起こるか。
カバマダラの模様を似せた蝶が現れる。この蝶は幼虫時に毒を食べていないので、毒がない。メスアカムラサキやマグロヒョウモンである。これらの蝶は、体内に毒をため込むという、自分自身にとっても不利なコストを払う必要がないので、どんどん栄えていく。
そうすると次に何が起こるか。
鳥が、鳥を騙す偽物の蝶を食べ始めることになる。最初は、栄えたメスアカムラサキやマグロヒョウモンが多くいるので、毒のあるカバマダラにあたる確率的が少ない。しかし、それでも、たまに毒のあるカバマダラに当たってしまう。そこで、鳥も賢くなっていく。なんとか毒のない蝶と毒のある蝶を見極めようとする。鳥が賢くなって見極められていくようになると、だんだんメスアカムラサキ等の毒のない蝶が食べられ、少なくなっていく。
まるで軍拡のように、三者の進化が進んでいき、バランスのとれたところで落ち着く。
この生物社会で起こっていることも、人間社会に当てはまる。正直者ばかりだと、騙す者が現れる。そして、騙された者は詐欺の手口を学習し、騙す者は衰退していく。
しかし、まったく学習しなかったら、いつか食いつぶされてしまうだろう。
人間も生物である。生物は弱肉強食の社会だ。状況の変化に対応し、進化していかない個体はいつか滅びる。