思考の踏み込み

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形影神9

2014-09-18 07:37:41 | 
つまり ー わしゃ仙術を生前修めておったが故に、千秋万歳の後の今こうしてここに顕われておれるというわけさ。

ただ恨むらくは世に在りし時、酒を飲むこと 足るを得ざりしを ー と、いうところよ。

だから先ずは酒よ酒よ。
淵明はそう語って "理性" をあしらった。

「フフフ…。淵明殿、そういう誤魔化しは止めにされたがよい。ここには理性だけではない。諸子百家、様々なるモノどもが集うておりますによって。」


「… … "影" か。」

さっきは見当たらなかったが、ああ ー
月がまた顔を出したか。
そう淵明は一人合点して、盃を持つ手を停めた。




「ならばお主が話してやればよいではないか。影などというかりそめの姿こそ誤魔化しであろう。本来の "闇" に戻り、この "世界" の真の姿を語ってみせよ!」

「 "闇" は本来、言葉を持たぬモノ、影なればこそ、こうして人語を扱っておりまする。」

「結構なコトよの。」

「では質問を変えたい。淵明殿、"死" とは現象としてどういうものか?」
改めて理性が問う。

「… 散。」

「散とは?」

「元に戻るということよ。不思議なのは "死" ではなく "生" なのじゃよ。
生とは即ち、集、いや縮、いやいや "凝" かな。もっといえばその "動き" 、もしくは "角度"、そしてその為の "力" 。
この "力" の正体ばかりはこの宇宙の謎
じゃよ。わしも未だに以て知らん。
"死" なんてその力が減退、縮小しただけの結果に過ぎん。そして我らの心も身体も、その "力" の変態したモノでしかない。」

「力…。」

「"闇" ならあるいはその正体を知ってるやもしれんぞ。"力" が闇から出てきた事はおそらく間違いない。」



皆、"影" の方を見る。

「そう注目されても困る。残念ながら私もわからない。たしかに私の本質は "闇" であるし、最初にそうも言ったが、すでに "影" として地上に在りて久しい。闇としての頃の記憶はない。
また、戻ろうとすれば、自然、言葉を失う。なぜならば、"ことば" もまたその "力" の別の在り方であるからだ。
だからこそそこに "言霊" なんていうモノも宿り得る…。つまるところ ー 」


"我ら" はその "力" の影響力を超える範囲では活動できないのさ。


ー そう影は言った。
少し、その漆黒の存在色が濃さを増した様に見えた。