或る ー 墓地に、柏の木が生い茂っている。そのもとには一基の墓。
刻限は酉の下刻。
すでに日は沈もうとして辺りを朱のさした黄金色に染め、ある種の荘厳な世界を創り出していたが、やがて来る夕闇が静寂を引き連れて柏の木の周囲を包み始めてもいた。
そこに幾人かのモノ達が集い、あろうことか酒盛りをやろうとしている様子。
中には琴を持ち込んでいるモノまでいる。
いったい墓場で何を始めようというのか。
すでに酒盛りは始まっているようでもある。
各自が雑談しながら、あるいは杯を満し、あるいは杯を傾ける。
かすかに琴の音も聞こえる。
やがて日も完全に沈んだ頃、一つの主題を掲げて一人のモノが話し始めた。
そのモノはこう切り出した。
「我が名は "形" ー 。」
「いや、我々は、と言うべきか。ともかくも、今日ここに集いしご一統方々は普段、領域を同じくして存在し、行動しているくせに互いに互いの事を知らな過ぎる。」
「本日は良い機会であるから、互いの事を知り、その範囲を確認し合うという事をしてみたい。
酒は有る。闇は浄にして清。
おのおの、想う所を存分に述べられたし。」
「待ってくれ。」
あるモノが言った。
「一つ足りない。」
「我が名は "影" 。何か灯火はないのか。私は "光" がなければここには居られない。」
ご安心を、あれをご覧あれ ー。と、形が影に杯を向けて言う。
皆、影の背後の東南東の山際に目をやる。
十六夜の月が姿を現し、そこに集いしモノ達を柔らかく照らし出した。
「時は満てり ー 。諸君、月を肴に今宵は語り明かさん。やがてこの墓のヌシも姿を現そうほどに。」
琴の旋律が調べを強め始めた。
それは不思議な響きをもって場を満してゆく ー 。
刻限は酉の下刻。
すでに日は沈もうとして辺りを朱のさした黄金色に染め、ある種の荘厳な世界を創り出していたが、やがて来る夕闇が静寂を引き連れて柏の木の周囲を包み始めてもいた。
そこに幾人かのモノ達が集い、あろうことか酒盛りをやろうとしている様子。
中には琴を持ち込んでいるモノまでいる。
いったい墓場で何を始めようというのか。
すでに酒盛りは始まっているようでもある。
各自が雑談しながら、あるいは杯を満し、あるいは杯を傾ける。
かすかに琴の音も聞こえる。
やがて日も完全に沈んだ頃、一つの主題を掲げて一人のモノが話し始めた。
そのモノはこう切り出した。
「我が名は "形" ー 。」
「いや、我々は、と言うべきか。ともかくも、今日ここに集いしご一統方々は普段、領域を同じくして存在し、行動しているくせに互いに互いの事を知らな過ぎる。」
「本日は良い機会であるから、互いの事を知り、その範囲を確認し合うという事をしてみたい。
酒は有る。闇は浄にして清。
おのおの、想う所を存分に述べられたし。」
「待ってくれ。」
あるモノが言った。
「一つ足りない。」
「我が名は "影" 。何か灯火はないのか。私は "光" がなければここには居られない。」
ご安心を、あれをご覧あれ ー。と、形が影に杯を向けて言う。
皆、影の背後の東南東の山際に目をやる。
十六夜の月が姿を現し、そこに集いしモノ達を柔らかく照らし出した。
「時は満てり ー 。諸君、月を肴に今宵は語り明かさん。やがてこの墓のヌシも姿を現そうほどに。」
琴の旋律が調べを強め始めた。
それは不思議な響きをもって場を満してゆく ー 。