その薄明かりは、月明かりよりも淡く朧げで、この世のものとは思えない質で揺らめいて顕われた。。そして何かをブツブツ呟きながら近づいてくる。実際、この世のものではなかった。
「まったく ー いったい何だというのか。人の墓の前で騒々しい。」
「おお!これはこれは、淵明殿!お騒がせしてかたじけない。しかし、待ちわびましたぞ。」
"形" が主催者たる "意識" に変わって言った。意識には淵明の言葉が少し聞き取りづらそうだったからだ。
「なんじゃヌシらは。わしゃせっかくいい夢みとったんじゃ!川面に映る月を掬って肴とし、香しい菊酒を飲むところだったのにガヤガヤぞめきたておって。」
「しかし、我らは貴方を敬愛するモノ達。貴方がかつてやったことを真似て、どうせなら貴方の墓前で、ということに相成りまして ー 。」
「わしの真似?わしゃ何のことか知らんぞ。」
「いや、貴方は生前、周という友の墓の前で酒盛りをして楽しみ、詩まで賦している。お忘れならば諳んじてご覧にいれましょう ー 。」
なあ "記憶" よ、そういって "形" はこの極めて無口で、しかし無限に現象を内に蓄え続けている不思議な存在に要請した。彼は "意識" の母なる "潜在意識" の兄弟であるらしい。つまり意識達の叔父にあたる。
"記憶" は何の前置きもなく、淵明の詩「諸人と共に周家の墓の柏の下に游ぶ」を詠じ始めた。
" ー 今日 天気佳シ
清吹ト鳴弾ト
彼ノ柏下ノ人ニ感ジテハ
安 (いず) クンゾ歓ヲ為サザルヲ得ンヤ
清歌ニ新声ヲ散ジ
綠酒 (りょくしゅ) ニ芳顔 (ほうがん)
ヲ開ク
未ダ知ラズ 明日 (みょうにち) ノ事
余ガ襟 (むね) ハ良 (まこと) ニ以 (すで)
ニ殫 (つ) キタリ "
意訳
今日は良い天気。
澄んだ笛の音、良い音の琴あり。
柏の木の下、草葉の陰の人を思えば。
どうして楽しまずにおれようか。
歌を独唱、新作を散ずる。
緑の酒に晴れ晴れと顔もほころぶ。
明日の事など知りはしない。
我がこの胸に思い残すことなし。
※柏の木は松と並ぶ常緑樹として永生の象徴。
「まったく ー いったい何だというのか。人の墓の前で騒々しい。」
「おお!これはこれは、淵明殿!お騒がせしてかたじけない。しかし、待ちわびましたぞ。」
"形" が主催者たる "意識" に変わって言った。意識には淵明の言葉が少し聞き取りづらそうだったからだ。
「なんじゃヌシらは。わしゃせっかくいい夢みとったんじゃ!川面に映る月を掬って肴とし、香しい菊酒を飲むところだったのにガヤガヤぞめきたておって。」
「しかし、我らは貴方を敬愛するモノ達。貴方がかつてやったことを真似て、どうせなら貴方の墓前で、ということに相成りまして ー 。」
「わしの真似?わしゃ何のことか知らんぞ。」
「いや、貴方は生前、周という友の墓の前で酒盛りをして楽しみ、詩まで賦している。お忘れならば諳んじてご覧にいれましょう ー 。」
なあ "記憶" よ、そういって "形" はこの極めて無口で、しかし無限に現象を内に蓄え続けている不思議な存在に要請した。彼は "意識" の母なる "潜在意識" の兄弟であるらしい。つまり意識達の叔父にあたる。
"記憶" は何の前置きもなく、淵明の詩「諸人と共に周家の墓の柏の下に游ぶ」を詠じ始めた。
" ー 今日 天気佳シ
清吹ト鳴弾ト
彼ノ柏下ノ人ニ感ジテハ
安 (いず) クンゾ歓ヲ為サザルヲ得ンヤ
清歌ニ新声ヲ散ジ
綠酒 (りょくしゅ) ニ芳顔 (ほうがん)
ヲ開ク
未ダ知ラズ 明日 (みょうにち) ノ事
余ガ襟 (むね) ハ良 (まこと) ニ以 (すで)
ニ殫 (つ) キタリ "
意訳
今日は良い天気。
澄んだ笛の音、良い音の琴あり。
柏の木の下、草葉の陰の人を思えば。
どうして楽しまずにおれようか。
歌を独唱、新作を散ずる。
緑の酒に晴れ晴れと顔もほころぶ。
明日の事など知りはしない。
我がこの胸に思い残すことなし。
※柏の木は松と並ぶ常緑樹として永生の象徴。