土壌を離れた養液栽培でも、有機物由来の肥料養液の研究が始まり、新しい有機肥料養液の利用法がいろいろ試みられるなど、昨今は有機栽培志向が一段と強くなっています。欧米の家庭園芸の分野では、既に養液栽培用の有機肥料培養液が多く市販されるようになっています。
家庭菜園でも、無農薬有機栽培が最も好ましい農法との一般認識が広まろり、多量のコンポストの土壌への施用が当然のように思われています。しかし、どんなコンポストをどのくらい施用すれば良いのか、分かって居る様で居てハッキリはして居ません。
―コンポストのイメージ イラストー
無機栄養塩類の均衡培養液を利用する新プランター栽培、その培地にコンポストは無縁のように思われますが、その根圏域では微生物の活動があり、そうした観点から考えて見ますと、コンポストによる微生物の土壌への持込みがどのような効果を齎しているか大変興味が湧くところであります。それでコンポストの生成に働く微生物とその施用効果について、一寸考察の為の情報を追ってみました。
―情報源はコーネル大学のコンポストの科学及び工学です!―
コンポストを一言でいえば、生物系廃棄物を土壌還元可能な状態まで微生物分解させた腐食と呼ばれ物質であり、言い換えれば、有機物が微生物によって分解されて、二酸化炭素、水、熱に代謝され、残った微生物を含む比較的安定した最終有機物 「芳香性フェノール、糖、窒素化合物などからなる高分子物質」 と言う事です。
其のコンポストの微生物分解は、好ましい条件下では、次の3つの相変化で進行します。
1)中温菌反応期あるいは常温状態での2日間程続く分解状態
2)高熱菌反応期あるいは高温状態での数日から数ヶ月間続く分解状態
3)数ヶ月に亘って温度が徐々に低下して行く熟成状態
コンポスト化に携わる微生物群は、分解の過程で消長して交代しているのです。初期の中温菌の分解期には、水溶性の低分子成分などの直ぐに分解できる化合物を急速に分解し、発生する分解熱でコンポストの温度は急速に上昇します。
―コンポスト作りのイメージイラスト
温度が40℃を超えると、中温菌の活動は衰え、高温に耐える高温菌による活動の交代が起ります。コンポストの温度が55℃を超えると、人間や植物に病原性を持つ菌類は破壊され、約65℃を超えると多くの微生物の活動が低下し、分解作用は停止します。
従ってコンポストの生成工程では、温度が65℃以上高くなり過ぎたら、攪拌して空気を送り、水分を補って適正温度になるように管理しなくてはなりません。
高温菌による反応では、温度が上がるので、蛋白質、脂肪、植物の主要な構成物質であるセルローズやヘミセルローズなどの炭化水素の高分子化合物の分解が促進されます。言い換えれば、反応温度が充分上がる事がコンポスト化の大切な要件です。
それらの高エネルギー化合物が消耗されるに連れて、コンポストの温度はだんだん低下し、再び中温菌の活動が始まり、仕上げ段階の残った有機物の分解熟成が始まります。
コンポスト化に関与する多彩な微生物
バクテリアは、コンポストの熱発生と分解の大役を担っている最も微小な生物であり、コンポストの中に大量に存在し、その数はコンポスト1グラムに数十億であり、その微生物の80~90%を占めています。
―細菌類のイメージ―
コンポスト内には、変化に富む多彩な有機物を広い範囲の酵素によって化学的に分解する栄養学的には、多様なグループに属する微生物が存在します。
バクテリアは単細胞で、構造的には丸い球菌、棒状の桿菌、渦巻き状の螺旋菌であり、其の多くが自らの力で移動する動く微生物です。初期に活動する中温菌のバクテリアは其の多くが土壌表面でも通常見られるものです。
コンポストが40℃以上になると活動を始めるのが高熱菌で、バチルス属の仲間の細菌であり、バチルス属の桿菌の多様性は、50℃~55℃の間では、盛んに増殖するのですが、60℃からそれ以上になると一遍に其の数は減少し、内生胞子を作り、条件が好ましくなくなると、食料不足や乾燥、寒さや暑さに極めて高い抵抗性を持つ厚い壁の胞子の中にこもって生き残ります。バチルス属桿菌は自然界では変化自在で環境条件が好ましくなれば早速活動を開始します。
コンポスト内の温度が下がると、再び中温菌が優勢になります。中温性の微生物の種類や数は熟成の程度や存在している胞子や微生物、又、其の直接的な環境条件によって変わります。
放線菌は、土臭さの独特の臭いの元となる揮発物質を作る細菌です。放線菌は菌類に似ていますが、実際は糸状の菌糸を作るバクテリアの仲間であり、バクテリア同様に細胞核がありません。菌類のように複数の管状の繊維糸を出します。
―放線菌―
放線菌は、複雑な有機物であるセルローズやリグニン、キチンや蛋白質を分解する重要な役割を果たしています。放線菌の出す酵素は、木の幹や新聞紙などの頑丈な分子構造の廃物を化学的に分解します。
種類によっては、高熱分解期にも現れますが、其の他は温度の下がった仕上げ期に登場して、最後まで残った分解されにくい物質の腐食の形成に重要な役割を果たします。
放線菌は、コンポストの中を通して伸びた、灰色の蜘蛛の巣のような長くて糸状に分伎した繊維糸を形成します。これらの繊維糸は、コンポスト処理の最終段階では、表面から10~15cmのところで最も一般にみられます。時には、其の直径を次第に拡張する円形のコロニーがあらわれます。
黴菌類には糸状菌や酵母菌が含まれ、総体的に土壌やコンポストの中の多くの複雑な植物体の高分子物の分解を担っています。
―黴菌類―
コンポストの中で黴菌類が重要なのは、頑丈な分子構造の廃物を分解して、バクテリアが一度は殆ど分解してなくなってしまったセルローズ分をさらに分解できるようにしているのです。
黴菌類は、精力的に成長して細胞や菌糸を伸ばし、バクテリアが分解できるように窒素分の少ない、酸性で乾燥した有機残渣物を攻撃して分解します。
大方の黴菌類は、倒木などの枯死した物質や動植物の遺体などの有機物を分解してエネルギーを獲得して生活している腐生菌に分類されています。
黴菌類に属する種類は、コンポスト化の中温菌分解期でも高熱菌分解期でも膨大な数になります。
.殆どの菌類は温度が高い時は 外側部分で生きています。コンポストの糸状菌は、厳密な好気性菌であり、コンポストの表面で白や灰色のはっきりしないコロニーを作って目に見えない菌糸で生育しています。
原生動物は、顕微鏡で見る単細胞の動物です。コンポストの中の水滴部分で見つかるのですが、分解には比較的小さな役割しか果たして居ません。原生動物はバクテリアと同じ様に有機物から食料を獲得していますが、バクテリアや菌類を消化して2次消費者としての活動もしています。
―原生動物イメージ図―
ワムシは顕微鏡で見る多細胞の生物でコンポストの中の水部分フィルムで見つかります。
有機物を食料にしますが、又バクテリアや菌類も餌にします。
コンポストは、一般に、攪拌して充分に高熱好気性菌分解させ、腐食と成ったものが土壌に施用されるのですが、有機物残渣を定置して堆積し、自然分解したコンポストも多く利用されています。又、稀にはバイオワームによる常温分解残渣コンポストなども使われています。
―コンポストの効用はなに?-
コンポストを土壌に施用する事の直接的な効用は、微生物分解を受けた腐食バイオマスからの無機化された窒素、リン、硫黄などの肥料養分や微量要素の土壌への供給であり、間接的には、含まれる腐食物が土壌に必要な構造体の物理構造を改善して土粒子の団粒化を促進し、多孔質体の気相酸素の移動を良好にし、且つ、土壌の保肥水力を改善します。
一方、コンポストは、現存するバクテリア、菌類、原生動物、線虫類などを含め、微細節足昆虫などの土壌生態系に食物となる基物を付与し、正常に施用されると土壌病原性菌の免疫効果が期待できるとされ、又、植物の代謝活性酵素や植物ホルモン、成長促進物質の供給源となると言われています。
しかし、そうしたコンポストの持つ機能は、土壌に施用されても、そう長くは維持されませんから、コンポストは定期的に土壌に施用しなくてはないのが一般の常識です。
―野積みのコンポスト―
実は、期待されるそれらの機能や効果は、バクテリア、菌類、原生動から線虫類や微細節足昆虫などに至る土壌の中の微生物群などの生物生態系に形成される健全な食物連鎖に依っていると言うのです。
植物の成長と養分の再生産はすべての生きている微生物群の主要な活動であり、個々の植物と土壌微生物は相互に影響した活動の中で共に生きる為に働いています。
其処では、成長する根からの副産物と植物廃物が土壌微生物の餌となり、替わりに土壌微生物は、土壌有機物を分解し、栄養を循環させ、そして植物病原菌を含めて土壌微生物の量を調整する事で植物の健全な成長を支えています。
植物と分解者である多彩な微生物群との共生の場として土壌を捕らえれば、土壌生物の生態系の健全な食物連鎖は不可欠と言う事は容易に理解できる話です。
実は、このような知見は、極新しい分野の土壌生物学(Soil Biology)に基くコンセプトであり、日本では未だ公には認知されていないようですが、土壌内での微生物や土壌生物群の活動や生態を研究する分野の科学だと言うのです。
―土壌生物生態系の食物連鎖―
特に、植物の代謝活性酵素や植物ホルモン、成長促進物質の源泉となる点は、土壌栽培では大変重要な事であり、推測では諸説がありますが、最も期待されるコンポストの効用では無いかと思われてます。
そうであれば、そうした機能を発揮する好ましい微生物を含む土壌の生態系が、コンポストの施用によってどの様に形成させられるかは大変興味深い話になります。
―土粒子内外で生きる微生物群―.
明確な事は分かりませんが、植物の適正な必要量の養分が適正な割合で無機化される、適正なバクテリアと菌類の割合が土壌にはあり、それに合わせた自然にバランスの取れた捕食者関係の活動が得られる必要があると言うのです。
有機農法が提唱されて100年近くになり、中には自然農法や無耕起栽培、無肥料栽培など、色々試みられて居る方も居るようですが、その土壌の中で何が起っているのか、新しい科学に依る知見によって、其の真偽の程が明らかにされるかと思います。
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