我が家は全員チーズ大好きだ。
私は、昔、学校給食でたまに出されていたチーズが大嫌いで、長じてからもチーズは嫌いであった。
それだけに、初めてチーズが「美味しい」と思ったときのことははっきり憶えている。あれは1988年、西ベルリンに出張した時に滞在したホテルの朝食であった。バイキングスタイルの何の変哲もない朝食メニューだ。いつもなら決して取る事のないチーズになぜか、ふと手が伸びてひとかけらを皿にのせた。
表面に白い皮がついていて、中身がやや黄色っぽく、柔らかそうなチーズだった。これがうまかった。私の脳内に記録されている「チーズ」とはまったく別物の味と食感だった。
この体験を奥さんに報告し、早速近所のチーズ専門店に二人で出かけた。当時住んでいたニュージャージーの小さな町の駅前通に小さなチーズ屋があったのである。
チーズのことなど何も知らない東洋人が二人、恐る恐るドアを開けて中に入ったのである。おずおずと店内を見渡すと、ありとあらゆるチーズがこれでもかと言わんばかりに並んでいる。眩暈がした。奥さんは「わー、すごい。たくさんあるわね。どれが美味しいの?」と私に訊く。無邪気である。そんなん知らんわい! きちんと調べて出直してこよう、と本気で思った。
「いらっしゃいませ。どれにいたしましょうか?」若い女性店員が声をかけてきた。奥さんは期待に目を輝かせて私を見ている。私は動揺した。しかし、まぁ、しょうがない。どういう応対をされるか分からないが、正直に尋ねてみよう。
「えっとォ、チーズのことよく知らないんだけど、どれがおいしいのかなあ。あ、勿論、好みは人それぞれだとは思うんだけど、何かおすすめみたいのありますか??」
我ながらだらしない質問だった。勿論、店員さんは困ってしまって、返答に窮している。そりゃ困るわな。その時、カウンターの端っこでこのやりとりを静かに眺めていたお店のオーナーらしき爺さんが、満面に笑みを浮かべながら、やってきた。
「おー、そうか、そうか。チーズに興味を持ってるわけだね。だけど、どんなチーズがお気に入りか、まだよく分からないというわけだ。それじゃあ一番いい方法を教えてあげよう!」
それから、この爺さんがショーケースや棚に並べているチーズをとっかえひっかえ私たちに味見させてくれたのである。チーズの名前や特徴などの説明つきで、実際に食べてみるわけだから、これは確かにチーズのことを知る最良の方法だろう。
次から次へと手渡されるチーズをほお張る私たち。数種類のチーズをどっさり買い込んで店を後にした。夫婦そろってとてもハッピーなお買い物体験だった。以来、毎週のようにそのお店に通うことになったことはいうまでもない。
こうして家族全員チーズ好きになったのだが、日本に帰ってきてさびしい思いをしている。
どうしてこんなに高いんだ! とても買えない...orz
ということで、めったに食する機会のないパルメジャーノ・レッジャーノを頂戴したのが嬉しくて、記念に写真をアップしました。さっそく、パスタにふりかけて食べてみました。美味しかった。。。