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かつてその小さな港町では、こんな言葉が飛び交った。「酒になったか?」「おう、酒になったぞ」。たとえば今の時季なら、コウナゴ。漁の水揚げが目標を超えた船には、漁協から酒一升がふるまわれた。銘柄は地元の酒蔵・鈴木酒造店の「磐城 壽(いわきことぶき)」だ。
福島県浪江町の請戸(うけど)は、江戸の昔から漁業と海運で栄えた。秋になれば川を無数の鮭(さけ)がさかのぼる。そんな地で、海辺ならではのミネラル分豊富な水と地元産の米を、酒蔵で代々育んできた自慢の「家つき酵母」で醸す。それが、磐城壽。海の恵みをことほぐ酒だ。
だが酒蔵も何もかも津波に奪われた。請戸は福島第一原発から六キロほど。鮭は昨秋も遡上(そじょう)してきたが、漁船はいまも無残に打ち上げられたまま。水田も面影を失い枯れ野になっている。
しかし、磐城壽の酵母は生きていた。震災の前に、研究のため県の試験場にたまたま預けてあったのだ。鈴木酒造店は山形県長井市の廃業した酒蔵を買い取り、再出発した。
この三月十一日には、純米吟醸「甦(よみがえ)る」を売り出した。山形に避難している福島の人と山形の人が一緒に育てた米で醸し、更(さら)に生きていこうとの思いを込めた。
「昔ながらの米の味と山形のとてもきれいな水。澄んだ感じと力強さの両立を目指した酒」と鈴木大介専務(40)は言う。味わってみれば確かに、ゆっくりじっくり酔いを楽しめる、いい酒である。
かつてその小さな港町では、こんな言葉が飛び交った。「酒になったか?」「おう、酒になったぞ」。たとえば今の時季なら、コウナゴ。漁の水揚げが目標を超えた船には、漁協から酒一升がふるまわれた。銘柄は地元の酒蔵・鈴木酒造店の「磐城 壽(いわきことぶき)」だ。
福島県浪江町の請戸(うけど)は、江戸の昔から漁業と海運で栄えた。秋になれば川を無数の鮭(さけ)がさかのぼる。そんな地で、海辺ならではのミネラル分豊富な水と地元産の米を、酒蔵で代々育んできた自慢の「家つき酵母」で醸す。それが、磐城壽。海の恵みをことほぐ酒だ。
だが酒蔵も何もかも津波に奪われた。請戸は福島第一原発から六キロほど。鮭は昨秋も遡上(そじょう)してきたが、漁船はいまも無残に打ち上げられたまま。水田も面影を失い枯れ野になっている。
しかし、磐城壽の酵母は生きていた。震災の前に、研究のため県の試験場にたまたま預けてあったのだ。鈴木酒造店は山形県長井市の廃業した酒蔵を買い取り、再出発した。
この三月十一日には、純米吟醸「甦(よみがえ)る」を売り出した。山形に避難している福島の人と山形の人が一緒に育てた米で醸し、更(さら)に生きていこうとの思いを込めた。
「昔ながらの米の味と山形のとてもきれいな水。澄んだ感じと力強さの両立を目指した酒」と鈴木大介専務(40)は言う。味わってみれば確かに、ゆっくりじっくり酔いを楽しめる、いい酒である。