社長ノート

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産経抄 産経新聞

2016-01-11 13:18:44 | 日記

 漫画家の水木しげるさんが、昨年11月に93歳の天寿を全うする半年前のことだ。本人も存在を忘れていた、原稿用紙38枚ほどの手記が偶然見つかった。昭和17年、当時20歳だった水木さんが、徴兵検査を受けた直後に書いたものらしい。
 「画家だらうと哲学者だらうと文学者だらうと労働者だらうと、土色一色にぬられて死場へ送られる時代だ」。戦地での死を覚悟していた、水木さんの慟哭(どうこく)が聞こえてくるようだ。
 なぜ20歳が、成人の基準となるのだろう。近代になるまで、日本ではおおむね、数え年の15で大人になるとされてきた。ところが、明治政府は明治9年の太政官布告で、満20歳以上を「丁年(ていねん)」つまり一人前と定めた。20歳以上の成年男子に労役や納税の義務を課した、奈良時代の律令制が参考にされたという。
 その3年前から施行された、徴兵令も大いに関係している。男子は徴兵検査を終えて、初めて大人として扱われ、酒もたばこも許された。もちろん、現代の日本に徴兵制度はない。今夏の参院選から、18歳の高校生も投票権を持つ。民法での成人年齢引き下げの議論も進んでいる。それでも、20歳が大きな区切りの年齢であることには変わりがない。
 今日は成人の日。各地で開催される式典が、バカ騒ぎだけで埋め尽くされないよう、祈るばかりだ。水木さんの手記には、こんな記述もあった。「俺は画家になる。美を基礎づけるために哲学をする」。出征前に哲学書や文学書を読みあさっていた水木さんは、激戦地のラバウルで九死に一生を得て帰還し、手記の通り、漫画家として多くの名作を世に送り出した。
 20歳になる若者たちに、聞きたい。君たちは何に「なる」のか。そのために今、何を「する」のか。