社長ノート

社長が見たこと、聞いたこと、考えたこと、読んだこと、

春秋 日本経済新聞

2017-02-26 15:18:18 | 日記

 「降る雪や明治は遠くなりにけり」。昔を懐かしんだ俳人、中村草田男に、ただならぬ雪の句がある。「此日(このひ)雪一教師をも包み降る」「頻(しき)り頻るこれ俳諧の雪にあらず」「世にも遠く雪月明の犬吠(ほ)ゆる」。81年前の二・二六事件当日詠んだ連作には不穏な感じがただよう。
 首都を血に染めたクーデターの試みは、4日間で治まった。戒厳令で報道は制限され、雪の中で何が起きたか伝わらない。根も葉もないデマやうわさがひろがった。反乱軍の仲間は全国にいる。戒厳軍が毒ガスを発射した。風評が空想をかきたて、新たなテロへの不安をふくらませた。実態がわかってくるのは戦後である。
 非常時でもないのに、デマが世界をかけめぐる。ウソで相手を攻める政治も幅をきかせる。トランプ米大統領は都合の悪い報道を「偽ニュース」とよぶ。一方で、でまかせ発言をやめない。〝つぶやき〟情報があふれ、事実より気分が大事との風潮に乗じているからだろう。これでは、そのうち何がホントか分からなくなる。
 暗く重たい「昭和の雪」も遠くなった。経験をかさねて賢くなったはずだが、ときに、人はデマやうわさにまどわされる。根っこの弱さは相変わらずだ。ひどい吹雪では、空と地面を区別できず、どこにいるかも分からなくなる。いまはニセの情報が雪のように降りつもる。よほど気をつけなければ、道を見失ってしまう。

春秋 日本経済新聞

2017-02-23 02:33:32 | 日記

 1657年1月18日は、いまの暦に直すと3月初旬である。江戸の街には2カ月間も雨がなかった。昼すぎ、本郷の寺から出た火は、折からの強風で湯島、神田方面へと広がる。19日未明にいったん収まるが、午前11時ごろになり、今度は小石川辺りから燃え上がった。
 これが江戸城に飛び火し、天守閣が炎上、再建されぬまま現在に至る。火は20日朝、ようやく消し止められた。世に言う「明暦の大火」である。死者数万ともされる。これを機に延焼防止策のため大名屋敷には庭園を設けさせ、市街地には広小路を造った。消防隊も増強するなどして、江戸は火事への備えを固めていった。
 埼玉県三芳町の事務用品通販アスクルの巨大倉庫での火災は、発生から6日たって鎮圧状態となった。いまが盛りのネット通販で、法人や消費者向け商品約7万種を扱う心臓部である。重要な社会のインフラといっていい。出火原因の特定はこれからだが、開口部の少ない構造で消火しにくいという意外な弱点もわかった。
 整ったインフラに頼り、私たちも昨今は「当日配送を」という感覚だ。倉庫の高機能化や大型化はさらに進むだろう。折しも配送現場からは疲弊の声が伝わる。「明暦の大火」は江戸の都市づくりの画期となった。今回も防火体制の検証は無論だが、利用者が届く速さを競わせているような現状を見つめ直す契機としたい。