社長ノート

社長が見たこと、聞いたこと、考えたこと、読んだこと、

筆洗 東京新聞

2018-02-06 04:42:59 | 日記


 机の奥にあった電卓に久しぶりに触ってみる。最近はスマートフォンの電卓機能を使うのがもっぱらで、見向きもしなかったが、その人の訃報に、その電子機器の労をねぎらいたくなる。小型電卓の開発で知られる元シャープの佐々木正さんが亡くなった。百二歳。
 かつて電卓は高かった。東京五輪の一九六四年、当時の早川電機(現・シャープ)が発売した電卓は自動車一台分の五十三万五千円。重さは二十五キロ。若い人には想像もできまい。
 六〇年代から七〇年代にかけての「電卓戦争」。その中で佐々木さんらは技術、低価格競争に挑んだ。「立ち止まらぬ人」だったという。集積回路(IC)、太陽電池、液晶画面。新技術導入をためらわぬ佐々木さんの判断力。同社が七七年発売した電卓は六十五グラム、価格は八千五百円まで下がった。電卓は短期間に身近な道具になった。
 古い電卓をもう一度見る。「電卓戦争」で開発された技術はやがてスマートフォン、コンピューター、ゲーム機などにつながっていく。電卓は日本を支える電子産業の礎であり、その人の功績の大きさを思う。
 ある若者が電子翻訳機を持ってきた。誰も見向きもしなかったが、佐々木さんだけは「おもしろいやつだ」とその技術に大金を出した。銀行に口も利いた。
 育てたのは技術だけではなく人もか。若者とは、ソフトバンクの孫正義会長である。