社長ノート

社長が見たこと、聞いたこと、考えたこと、読んだこと、

東京新聞 筆洗

2014-05-29 12:02:48 | 日記
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 江戸の名物として「伊勢屋、稲荷(いなり)に犬の糞(くそ)」と言い方があった。伊勢屋の屋号、お稲荷さんと犬の糞(ふん)が幅を利かせていた。前もってお断りしておく。本日は犬の糞について書く。
 彫刻家の高村光雲の『幕末維新懐古談』によると浅草の雷門近くに「犬の糞横町」という一角があったという。具体的な描写はないが、美しい場所ではないことは想像できる。よほど、落とし物が目立っていたか。
 「こちとら、ここで犬の糞が落ちていれば、赤がしたものか、ブチがしたものか、そっと嗅ぎ分けようというおアニイさんだ」。落語の「五人廻(まわ)し」。いかに色里の吉原を知っているかを自慢するたんか。さぞや犬とも「なじみ」だったか。「犬の糞」も自慢になる。
 ペルーとの国境に近いチリ北部で約七千年前のミイラが発見された。かつての「チンチョーロ文化」のものという。
 興味深いのは発見の経緯。考古学の現地実習の生徒の一人が犬の糞の下で偶然見つけたという。実習とはいえ、この子は犬の糞をものともしなかったのだろう。
 フランスでは左足で犬の糞を踏むといいことがあるというが、路上に放置されたままの糞には飼い主の無責任さと悪意しか覚えない。犬を飼う人はミイラの話を覚えておくべきだろう。大発見はないだろうが、ちゃんと持ち帰れば心からやましさや後ろめたさは消える。それこそ幸運な話である。