社長ノート

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産経新聞 産経抄

2014-06-30 10:38:06 | 日記
   ソロモンの指環

 テレビのそばで惰眠をむさぼる、わが愛犬をたたき起こして、聞かせてやりたいニュースだった。金沢市内の山道で28日の朝、散歩中の63歳の男性が、クマに襲われ、頭などをかまれるけがをした。
 その瞬間、連れていた飼い犬の雌の柴犬が、ほえて飛びかかり、クマを追い払ったという。普段はおとなしい犬らしい。主人のピンチに勇気を奮い起こしたのだろうか。21日にも秋田県大館市で、クマに襲われた5歳の男児を救った、やはり雌の柴犬のお手柄が伝えられている。
 人間は長い歴史のなかで、さまざまな動物を家畜にして、ともに暮らしてきた。そのなかで犬だけは特別だと、ノーベル賞受賞の動物行動学者で、愛犬家でもあったコンラート・ローレンツはいう。「すべての家畜は身ぐるみの奴隷であり、ただイヌだけが友である。イヌこそほんとうに忠実な恭順な友である」(『ソロモンの指環』日高敏隆訳、早川書房)。
 もっとも2つの「美談」は見方を変えれば、深刻な事態を映し出している。クマの出没が相次いでいるのは、山村の過疎化によって森林が荒廃し、エサが不足しているからだという。逆に、温暖化と森が伐採されなくなったことで、むしろニホンジカなどの動物たちの生息地が広がり、それらをタンパク源とするクマが増えすぎた、との説もある。
 さらにクマが農産物や残飯のうまみを知ると、ますます人里が恋しくなる。駆除するにも高齢化によって、人手が足りない。いずれにしても、人間がまいた種であることは間違いない。
 ソロモン王の指環をはめると、動物と話ができるという言い伝えがある。そんな指環がなくても、クマの言い分を聞き分けて、なんとか折り合いがつけられないものか。