社長ノート

社長が見たこと、聞いたこと、考えたこと、読んだこと、

春秋 日本経済新聞

2016-06-20 04:36:18 | 日記

 「梅雨」をバイウと読むと、なんだか物々しくなる。誰もがふだんは「つゆ」と呼び、バイウの出番は梅雨前線という言葉くらいだろう。辞書を引けば「黴雨(ばいう)」なる表記も出ているが、黴とはカビだ。字づらが良くないから梅の字を当てるようになったという説がある。
 その真偽はともかく、6月の雨景色に梅の実がよく似合うことだけは確かだ。スーパーには青々とした実が山積みにされ、それが徐々に黄色みを帯びたものに変わっていく。さあ梅酒を仕込もう、梅干しをつくろうという人は多いらしく、ガラス瓶や氷砂糖、焼酎が売り場に一緒に並んでいるのもこの季節の風物詩だろう。
 実際にやってみれば、これがじつに愉快な仕事である。ホワイトリカーに浸った大粒の実は日々、色合いを変える。塩を投げ入れた瓶のほうでは、澄みきった梅酢がじわじわ上がってくる。出来合いが幅をきかせる時代に、なんと貴重な体験か。梅にまつわるこういう地道な作業いっさいを昔は「梅仕事」と言ったそうだ。
 今週あたりから梅雨前線は本領を発揮しそうな様子だ。そんななかで参院選が公示され、英国からは欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の結果が報(し)らされよう。世情は揺れ、どうにも落ち着かないが、ここはじっくり事にあたりたいものだ。「青きより出でて琥珀の梅酒かな」(福井まさ子)。慌てず騒がず――。