金曜日の鬼平料理池波にお邪魔して、久々に鬼平談義に花が咲いたものだからその余韻を楽しもうと訪れた浅草。
アンヂェラスでひと息ついた後、久々に「金寿司」へ向かう
ここのお店、今での時々読み返す池波正太郎のエッセイ「散歩のとき何か食べたくなって」にでてくる浅草老舗のお寿司。にぎるのはなんと女性。
過去ログはこちら
「時代の足音」
「作者の残り香を求めて」
前にもエッセイの部分を引用したけれどもう一回^^b
---〔引用〕---
仲見世を歩いて、ひょいと入ったのが〔金鮨〕だった。
もう五、六年前のことだったろう。
どこの町すじにもあるような小さな店構えだが、ここの酒はまことによい。
〔金鮨〕の老女は、
「うちのお酒をのみに、わざわざ山の手からくるお客さんもいます」
と、自慢している。
鮨をにぎる職人はひとり。しかも女である。
・・・
女の職人の名前も知らぬが、私は、このひとが大好きで、〔金鮨〕へ入らぬときでも、
(いるかな・・・・・・?)
ガラス戸ごしに、中をのぞいて見たりする。
・・・
先ず、入って、
「今日の、いちばん、うまいものを出してくれ」
と、いうと、たとえば鮑なんかブツブツと切ってくれる。
そのうまいこと、安いこと、うれしくてたまらなくなてくるのだ。
(散歩のとき何か食べたくなって)
---〔引用〕---
あぁ…やっぱり読み返してもいいなぁ
まだまだ続きはあるのだけれど、とても気に入っているエッセイのひとつ。
このエッセイが書かれたのは今から数十年も前なのだけれど、このエッセイに出てくる「女の職人」さんがまだまだ現役でお寿司を握っているわけ。
つまりね、このエッセイの続きを楽しむことができる至福のお店なんです。
この日もお昼前に作品同様
(いるかな・・・・・・?)
ガラス戸ごしに、中をのぞいて見たりする。

あ、居た居た。新聞読んでら。客は誰もいないね…
ガラガラ
「こんちは~ お久しぶりです!」
「いらっしゃい」という事前期待はなく…
「まだね、掃除済んでないのさ。もうちょっと後でいい?」
(う…ん それじゃぁしょうがないな…でも11:45だけど)
「はい。15分後でいい?」
女将さん、椅子に座り新聞を読んだまま
「そうしてちょうだい」
引き戸を閉めた後も新聞読んでら(苦笑)
…しょうがないなぁ。何だかおかみさんが「笹やのお熊」婆さんに思えてきたぞ…
しばらく時間をつぶし、25分後にお邪魔する。なんかちょうどぴったりな感じ(笑)
12時回っているが客はいない。
「何にする?」
ぶっきらぼうに聞いてくる。
調子に乗ってつい池波先生ばりに
「季節のものをふたつみっつ…」
言ってしまったからさぁ大変。
「あのねぇ。お昼時は忙しいんだよ。そんな頼み方されちゃぁこっちが大変なんだよ」
お昼はお任せではなくお品書きから頼めという寸法らしい。
壁には年季の入ったお品書き。
「にぎり1000円、1500円、2000円」
「ちらし1000円、1500円、2000円」
でも、ここで引き下がらなくなったのが成長した証(笑)
「ごめんね~。でも女将さんのおススメはいつも最高だからさ」
「ふん…。にぎりだってちゃんと考えているんだよ」
悪態つきながらもまんざらでない様子。
朝仕入れてきたホタテやマテ貝、ミル貝などを見せてくれる。

「いまの季節はやっぱり貝だよ。ごらんこの大きなホタテを」
昨年は温暖化の影響で小ぶりのものしかなかったらしいが、北海道産の見事なホタテをシャリシャリと殻を割り、見せてくれる。

うまそうだ。握りいい?
しばらくして握りと貝ひも、炙った肝と子供が出てきた。

あのホタテのねっとりとした感じは全くなく、強い弾力とほのかな甘み…う~ん相変わらず抜群のうまさ♪

うまいうまいと食べていると嬉しそうににこり。
「そうだろう?春は貝なんだよ」
80を過ぎ、今年に転倒して2か月休んでいたらしいが、新鮮なネタを仕入れる眼力と寿司を握る情熱は全く衰えない。
さよりとトロをそれぞれ一貫ずついただく。


これまた肉厚で実に美味い。回転寿司のそれに慣れた舌がびっくりしている。
にこにこと食べているところに「煮はまぐり」登場。

地方の寿司屋は素材の良さをそのまま出すんだよ。それは確かに美味しい食べ方だけど、いいネタ入れば誰だって握れる。江戸の寿司職人はひと手間いれるところが違いなのよ。
うっ…これは初めての美味しさかも。ふっくら柔らかい蛤に見事にマッチしたタレ。それが口中にやさしく広がり大興奮。
「女将さん、もう一貫煮ハマグリいい?」
「そうかい。気に入ったかい。地方じゃあんまり食べられないからねぇ」
嬉しそうに応えてくれる。
「はいよ。これ、おまけ。さよりを炙ったもの」

炙られた皮と白身の香ばしさは日本酒でやったらうまいだろうなぁ…
「はいよ。煮ハマグリ」

今度は煮汁をひと晩寝かしたものを付けてくれた。深くて濃厚なエキスがじわりと口に広がる。う~ん滋味滋味。

女将さんからは池波正太郎の実像(金寿司を訪れたさいの無愛想さ)や浅草の今昔など貴重な話を聞きながら今日も至福の時を過ごす。
店の内外はとてもお寿司屋のそれではないけれど、やっぱり金寿司は池波フリークにとって外すことのできない名店でした。
アンヂェラスでひと息ついた後、久々に「金寿司」へ向かう
ここのお店、今での時々読み返す池波正太郎のエッセイ「散歩のとき何か食べたくなって」にでてくる浅草老舗のお寿司。にぎるのはなんと女性。
過去ログはこちら
「時代の足音」
「作者の残り香を求めて」
前にもエッセイの部分を引用したけれどもう一回^^b
---〔引用〕---
仲見世を歩いて、ひょいと入ったのが〔金鮨〕だった。
もう五、六年前のことだったろう。
どこの町すじにもあるような小さな店構えだが、ここの酒はまことによい。
〔金鮨〕の老女は、
「うちのお酒をのみに、わざわざ山の手からくるお客さんもいます」
と、自慢している。
鮨をにぎる職人はひとり。しかも女である。
・・・
女の職人の名前も知らぬが、私は、このひとが大好きで、〔金鮨〕へ入らぬときでも、
(いるかな・・・・・・?)
ガラス戸ごしに、中をのぞいて見たりする。
・・・
先ず、入って、
「今日の、いちばん、うまいものを出してくれ」
と、いうと、たとえば鮑なんかブツブツと切ってくれる。
そのうまいこと、安いこと、うれしくてたまらなくなてくるのだ。
(散歩のとき何か食べたくなって)
---〔引用〕---
あぁ…やっぱり読み返してもいいなぁ
まだまだ続きはあるのだけれど、とても気に入っているエッセイのひとつ。
このエッセイが書かれたのは今から数十年も前なのだけれど、このエッセイに出てくる「女の職人」さんがまだまだ現役でお寿司を握っているわけ。
つまりね、このエッセイの続きを楽しむことができる至福のお店なんです。
この日もお昼前に作品同様
(いるかな・・・・・・?)
ガラス戸ごしに、中をのぞいて見たりする。

あ、居た居た。新聞読んでら。客は誰もいないね…
ガラガラ
「こんちは~ お久しぶりです!」
「いらっしゃい」という事前期待はなく…
「まだね、掃除済んでないのさ。もうちょっと後でいい?」
(う…ん それじゃぁしょうがないな…でも11:45だけど)
「はい。15分後でいい?」
女将さん、椅子に座り新聞を読んだまま
「そうしてちょうだい」
引き戸を閉めた後も新聞読んでら(苦笑)
…しょうがないなぁ。何だかおかみさんが「笹やのお熊」婆さんに思えてきたぞ…
しばらく時間をつぶし、25分後にお邪魔する。なんかちょうどぴったりな感じ(笑)
12時回っているが客はいない。
「何にする?」
ぶっきらぼうに聞いてくる。
調子に乗ってつい池波先生ばりに
「季節のものをふたつみっつ…」
言ってしまったからさぁ大変。
「あのねぇ。お昼時は忙しいんだよ。そんな頼み方されちゃぁこっちが大変なんだよ」
お昼はお任せではなくお品書きから頼めという寸法らしい。
壁には年季の入ったお品書き。
「にぎり1000円、1500円、2000円」
「ちらし1000円、1500円、2000円」
でも、ここで引き下がらなくなったのが成長した証(笑)
「ごめんね~。でも女将さんのおススメはいつも最高だからさ」
「ふん…。にぎりだってちゃんと考えているんだよ」
悪態つきながらもまんざらでない様子。
朝仕入れてきたホタテやマテ貝、ミル貝などを見せてくれる。

「いまの季節はやっぱり貝だよ。ごらんこの大きなホタテを」
昨年は温暖化の影響で小ぶりのものしかなかったらしいが、北海道産の見事なホタテをシャリシャリと殻を割り、見せてくれる。

うまそうだ。握りいい?
しばらくして握りと貝ひも、炙った肝と子供が出てきた。

あのホタテのねっとりとした感じは全くなく、強い弾力とほのかな甘み…う~ん相変わらず抜群のうまさ♪

うまいうまいと食べていると嬉しそうににこり。
「そうだろう?春は貝なんだよ」
80を過ぎ、今年に転倒して2か月休んでいたらしいが、新鮮なネタを仕入れる眼力と寿司を握る情熱は全く衰えない。
さよりとトロをそれぞれ一貫ずついただく。


これまた肉厚で実に美味い。回転寿司のそれに慣れた舌がびっくりしている。
にこにこと食べているところに「煮はまぐり」登場。

地方の寿司屋は素材の良さをそのまま出すんだよ。それは確かに美味しい食べ方だけど、いいネタ入れば誰だって握れる。江戸の寿司職人はひと手間いれるところが違いなのよ。
うっ…これは初めての美味しさかも。ふっくら柔らかい蛤に見事にマッチしたタレ。それが口中にやさしく広がり大興奮。
「女将さん、もう一貫煮ハマグリいい?」
「そうかい。気に入ったかい。地方じゃあんまり食べられないからねぇ」
嬉しそうに応えてくれる。
「はいよ。これ、おまけ。さよりを炙ったもの」

炙られた皮と白身の香ばしさは日本酒でやったらうまいだろうなぁ…
「はいよ。煮ハマグリ」

今度は煮汁をひと晩寝かしたものを付けてくれた。深くて濃厚なエキスがじわりと口に広がる。う~ん滋味滋味。

女将さんからは池波正太郎の実像(金寿司を訪れたさいの無愛想さ)や浅草の今昔など貴重な話を聞きながら今日も至福の時を過ごす。
店の内外はとてもお寿司屋のそれではないけれど、やっぱり金寿司は池波フリークにとって外すことのできない名店でした。