長生き日記

長生きを強く目指すのでなく良い加減に楽しむ日記

531 『世界はこの体一つ分』

2017-10-17 20:44:50 | 日記
川口慈子第一歌集 角川書店2017年8月刊
  かりんの若手(と言って良いのか)のホープ川口さんの待望の歌集。前から面白そうな人だと思っていたが期待にたがわず面白くそしてよい。リサイタルなんかもやってしまうピアニストなのだが、音楽が前面に出てなく本人が斜に全面に出ている歌が抜群である。楽しく話していてもいろいろ見透かされそうな凄みもあるが楽しく奥行きのある歌だ。実はしばらく前、すこしマジメな話題で長電話したことがあるのだが、その時も電話のむこうでは、壁に這っているカメムシを焼き鳥の串でつついていたのかもしれないなと思った。まあ、こちらも似たようなことしながらだったかもしれない。時間は効率的に使うのが良い。音楽も相聞も友達の歌も多くてそれぞれどんな展開になるのかきになる。健康に留意して続きを詠んでほしい。おめでとうございました。

書きかけの手紙のような面持ちで友が校門を入ってきたり
アラベスク模様になって中心が体のどこにも無くなっている
人の匂い濃くなる夕べの商店街体のどこか醒めて歩める
青虫を掲げ更新する蟻のそのまま凱歌の音符の形
電線にボラギノールの形して鳴く山鳩は大嫌いです
サイコロ野菜刺そうとすればすぐ逃げて笑い上戸の友と笑えり
大口でほおばりはじめた厚切りのトーストに消えてしまった不安
断りの言葉が底をついたからペコちゃんグレードの笑顔で応ず
砂の城作って壊す束の間の指先濡れし恋と思えり
カフェの床をクモ不器用に突き当たりつき当たりつつやがて隠れぬ
実存に傍線のある君の本実存超えてまた会いにいく
電球を替えんと椅子に見下ろせば我が暮らしいる一室縮む
自転車で我を追い抜ける初夏の男カナブンの匂い残しぬ
心配をしてくれるのはありがたいミニサボテンの埃を落とす
環七を走るトラック音程を確かめながら眠りにつきぬ
電線の上渡りゆく夏雲よ実体のなき恋は安泰
私にあって君には無い記憶いたわりながら鼻をかみたり
舞台そでに楽譜を置きぬ幼き日ここで見守りくれし先生
線香でアブラムシ焼く父親の肩甲骨に横たわる光
真夜中に自販機ガーンと蹴る人の正義に震えている自販機

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