人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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(日経ビジネスでなくて日経コンピュータです。初登場。)
企業情報システムを統括するIT部門長に対して、主要メーカー5社(富士通、NEC、日立製作所、米IBM、米HP)より、今後の投資判断の指針となるような、2010年の企業情報システムのヴィジョンを示してもらおう、という特集である。

これは面白い!システムに対してどのようなヴィジョンを持つかによって、ユーザー企業、メーカーともに大きく投資の方向性が変わってくるし、またそれによって数年後には、競争優位性や、さらにはビジネスモデル自体が変わってきうるのだから。

例えば1993年のIBMは、メインフレームは滅びてクライアントサーバー型のオープンシステムに置き換わるというマーケットの見方を否定して、メインフレームを復権させるヴィジョンを打ち出したことによって、復活したのだったし、あるいは、野村総合研究所は、まだ基幹システムをクライアントサーバーで作るなどという発想がなかった時代に、「クライアントサーバー型のオープンシステムが基幹システムを作る時代になる」というヴィジョンを打ち出し、それに賭けることによって、その後の国内トップのシステムインテグレータとしての地位を確立したのだった。

そして、そのようなヴィジョンは決して技術者が作るものではなく、社会の視点、ビジネスの視点、経営の視点、そしてユーザーの視点から作られるものであることも面白い。1993年のIBMにおいて、コンピュータ技術には素人であったルイ・ガースナーが、IBMの技術的方向性について最終的決断を下してIBMの再生を主導したように。

そして各社の回答部分を読むと、編集者の編集もかなり入っているのだろうが、それぞれ切り口が違い、バラエティに富んでいて面白い。富士通とIBMが顧客に対するサービスの考え方を示しているのに対し、NECと日立製作所は次世代インフラ技術の指向性を示している。そしてHPは両方の考え方を含んでいる。

これらのヴィジョンによって、各社が、そしてそのユーザー企業が、戦略的でモレダブリのないリソース配分を先導できそうかどうか、ということがポイントになる。

富士通・・・手堅い
サービスインフラ層についてハードウェアとミドルウェアのテンプレート群を用意してグローバル展開を容易にする、というヴィジョン。以前より指摘されてきたメインフレームからの移行問題も、テンプレートの中の一つの部品としてメインフレームを封じ込めることで、ソフトランディングさせるのだろう。「ヴィジョンは順調に実現できている」と言おうと思えばいつでも言うこともできる、手堅いヴィジョンである。

NEC・・・次世代ネットワークに照準
(認証や課金、情報管理等の機能をネットワーク自体が持つ)NGN(次世代ネットワーク)に照準を当てて、ネットワークとITを融合したコンピテンスを他社に先駆けて形成しようというヴィジョン。

日立製作所・・・RFIDを核としたユビキタスに照準
RFIDによって情報発生源がユビキタスになることによって、業務アプリケーションも、データベースも、ネットワークも根本的に替わるので、そこに次世代のビジネスチャンスを見いだす、というヴィジョンである。博打のようなヴィジョンだが、そのヴィジョン自体がそのまま実現しないとしても、そのヴィジョンに向けて走ることで、RFID技術やストレージ技術等に強みを持つ日立としては、要素技術面で得るものは多いのだろう。

米IBM・・・世界のフラット化を体現
これまでのOn Demandはそのままに、徹底的な標準化のもとに、世界中からリソースを最適調達する、というヴィジョン。世界のフラット化を体現する。

米HP・・・リソースのユーティリティ化のためのインフラマネジメント技術
顧客が環境変化に即応できるようにITが追随できるよう、コンピュータリソースのユーティリティ化を推進するヴィジョン。(IBMのOn Demandと同じか。)そのためにITインフラのマネジメント技術に集中投資するという。


さて、出発点に立ち返ると、そもそもこの特集において根本的な問題意識として掲げられているのは、カーナビや非接触ICカードを活用するようになった「社会インフラシステム」の進化や「携帯電話関連システム」の進化に比べて、「企業情報システム」の革新が停滞しており、地盤沈下が著しい、という問題意識である。

この問題意識は、日本企業から革新的な企業情報システム構築の話が聞こえてこない実感にも符合する。日本企業の企業情報システム構築プロジェクトはこれまでにも増してリスク回避指向が強くなり、その結果としてますますERP一辺倒になりつつあるようにも感じる。

何故企業情報システムの革新は停滞してしまっているのか?・・・この答えは意外と簡単であるようにも思う。すなわち、「新技術の導入リスクを一企業では到底負担できなくなっている」ということから理解できる。社会システムは一システムあたりの受益者の範囲が広くコストを受益者全体で負担できるが、企業システム系では当該企業の顧客しか負担できないのだから。そのために各企業は、新技術の選択と投資判断をERPベンダーに任せざるをえない、とは言えないだろうか?

このように考えると、企業がERPを(業務の標準化ではなく)新技術導入の目的で使い、ERPソフトが採用している技術やアーキテクチャを採用する一方、業務アプリケーションは徹底的にアドオン/カスタマイズして使う、というERP活用法も合理的なのではないか。そのような使い方もあることを想定すると、導入が一巡化したとされるERPビジネスも、技術の進歩に従ってまだまだ続く、と考えることもできる。

逆に言えば、このリスクを減らしてあげるような仕組みの提案が、IT業界側(国産メーカー側)には求められることになる。新技術の導入リスクを、顧客側でも負担できず、メーカーの側でも単一企業では負いきれなくなっているとすると、メーカー側は、合従連衡、そして、再編、ということにならざるをえないだろう。層別に水平分業ということになるのだろうか、メーカー別に強みとするコア製品を絞り込んで持つとともに、その組み合わせの検証を最大手のSI会社がその先の最も先進的な顧客と組んで主導していくことになるのだろう。

技術者の大移動もそれに伴うことが予想される。技術者の側から変化を先取りして動くことはどうか。



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