人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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明けましておめでとうございます。

正月らしく、企業の成り立ちの基礎論に関わる読書をしている。一橋大学の伊丹敬之教授のロングセラー「人本主義企業」(1987)、その現代版続編とでも言うべき「経営の未来を見誤るな-デジタル人本主義への道」(2000)、またその論の中でも特にコーポレートガバナンスだけを論じた「日本型コーポレートガバナンス」(2000)も少し。

これらの中で伊丹教授は一貫して、日本の企業経営の特質を「人本主義」としてとらえ、その地理的/時代的制約条件を超えた普遍性(経済合理性)を論じ、日本企業は今後とも経営の基軸を「人本主義」に置くべきことを主張されている。

「資本主義」と「人本主義」の違いは次の通り。

  • 資本主義は「カネのネットワークを中心にすえることによって経済組織の編成原理とする」もの
  • 人本主義は「人のネットワークを安定的に築いていくことを経済組織の編成原理とする」もの

そして、人本主義の特徴は次の3点に現れるとしている。(括弧内は筆者注)

  • 従業員主権 (会社を誰のものとして経営するか)
  • 分散シェアリング (情報、権限、報酬をどう分け与えるか)
  • 組織的市場 (資源配分をどのようなメカニズムで行うか)

もっとも「ヒトのネットワーク」を優先すべきだからといって、「カネのネットワーク」を軽視するわけではなく、(発達した資本市場を通じた)カネの規律の重要性が増している現実やその意義を認め、人本主義を、「ヒトのネットワークを、市場経済の基礎的なネットワークであるカネのネットワークの上に、二重がさねをしたもの」として運用すべきであるとしている。

そして、「カネのネットワーク」の力学に振れがちなのがアメリカ型、「ヒトのネットワーク」の力学に振れがちなのが日本型。バブル崩壊以降、日本企業は自信を失って、カネのネットワークの原理に振ろうとしてきたが、それは必ずしも適切ではない。世界的にも経営の潮流はヒトのネットワークを重視する側に振られてくるであろう、これからは管理会計システムを活用した新しい「ヒトのネットワーク」経営を確立させるべきである・・・というような論旨となっている。

以上の論はもちろん、一昨年から昨年にかけて盛んに論じられた、「会社は誰のものか」という議論とも密接に関係する。すなわち、

  • 株主のものか ・・・これに拠るとカネの原理に振れる
  • 従業員のものか ・・・これに拠るとヒトの原理に振れる
  • (はたまた)
  • 顧客のものか
  • 社会のものか
  • ・・・


しかし、以上の議論は、2007年の現在では既に決着がついてしまいつつある議論であるように思われた。すなわち、

  • 会社は株主のものでも従業員のものでもなく、あえていえば、「関係するみんな」のものである。だから、株主の視点からも、従業員の視点からも、顧客の視点からも、社会の視点からも、しっかりとガバナンスされなければならない。
  • 「カネの原理」と「ヒトの原理」の両方が必要である。「市場メカニズムを通じた資源配分」と、「組織的過程を通じた資源配分」の両方が必要である。

すなわち、会社は多元的な存在であるとしか言いようがない・・・と。そしてそこにおいて、「ではどのファクターをより重視するか」「どちらのファクターにより大きく振るか」という議論をしたとしても、抽象的すぎて実務では切れない。

というわけで、2007年の議論においては、それぞれの原理の適用対象や適用範囲を明確にすることが鍵になると思われる。すなわち、

  • 株主視点のガバナンスを及ぼす対象と範囲
  • 顧客視点のガバナンスを及ぼす対象と範囲
  • 従業員視点のガバナンスを及ぼす対象と範囲

こうして考えてみると、米国企業でもGEのような優良企業では、それぞれの視点からのガバナンスを全て重視し、使い分けてきたのだった。例えば次のように。

  • 株主の視点 ・・・資本市場の規律を行き渡らせるために、GE本社の株価を重要視し、それを「GEグループの唯一の通貨」であると規定し、その株式をコア従業員に配分して、株主と従業員とを一体化させる。
  • 顧客の視点 ・・・顧客や製品市場の規律を行き渡らせるために、市場シェアNo.1,No.2の事業以外はグループ内に残さないものとする。
  • 従業員の視点 ・・・現場の業務オペレーションの規律を行き渡らせるために、シックスシグマをグループ内の共通言語とし、不断のベンチマーキングを行い、ベストプラクティスをグループ内で共有する。従業員どうしの切磋琢磨を継続する。

また、日本企業においても、「カネの原理」と「ヒトの原理」、あるいは「市場メカニズム」と「組織メカニズム」それぞれの範囲を画するために、持株会社化することにより資本市場の圧力を3段階でクッションをきかせて用いる方法が一般化してきたと思われる。つまり、2007年初頭の現段階において、各業界の主要企業グループがそのように移行したか、移行しつつある。

  • 資本市場と持株会社の間 ・・・資本の原理にさらす
  • 持株会社と各事業会社の間 ・・・資本の原理と組織の原理を併用する
  • 各事業会社内 ・・・組織の原理を用いる

この具体的な手法、特に持株会社と事業会社の間のガバナンス方法について、2007年にどのような実務慣行が確立されるべきか/してくるか、考えつつ注視する必要がありそうである。



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