人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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近年、目先のキャリア開発を気にしたり「仕事術」のような手段に頼ったりする傾向が見られるが、「骨太社員」を育てることにより会社の体質を強くする必要がある、という特集。さて、ここで「骨太でない」とはどのような現象のことを指しているのだろうか?記事で取り上げられている例としては、

  • 向上心と焦燥感にとりつかれ、自費で高額の自己啓発セミナーを受講する。
  • 人脈を広げることが必要との脅迫観にとりつかれ、異業種交流会に足繁く顔を出す。
  • ともかく学歴が必要と社会人向け大学院に通い、修士号を取って勝ち組への転職を目指す。
  • 成果主義報酬制度の元で、自分の取り分を最大化するために、同僚や部下に仕事の案件やノウハウを公開しない。
  • CAEやシミュレーションなど、特定の専門性に自分を限定してしまい、最終商品への関心を持たない。
  • 上司の「いつまでにこれをここまでやれ」という指示のもとに初めて動く。あるいは、作業内容のマニュアルに依存する。

このような状況に対して、本特集の結論は次のようなものになっている。

  • 上司の個人プレーとしての人材育成ではなく、部下の自主的な頑張りでもなく、ノウハウが共有され、常に周りからの指摘を受けられるような、企業内のどこででも人を育てられる仕組み/文化が必要。
  • 多くの仕事を見たり経験したりする中から、帰納法的にパターンを見い出し、これまでの枠を破って発想できる、右脳を使うことのできるゼネラリスト人材に焦点を当てる必要。


社員の視野の狭さ、短期志向と焦燥感を生み出す原因は何だろうか?その最大のものは、35歳までに成功しなければ、という脅迫感であるように思える。なぜ35歳かといえば求人広告にはどれもこれも、「35歳くらいまで」と書いてあったからだ。それまでに社外からも評価されるような実績を作らなければ、その後は転職の道は事実上閉ざされる、と思ってしまう。

日本企業の雇用慣行も柔軟かつオープンなものに変わってきたとはいえ、なお残っており、閉塞感を生ぜしめていた最大のものが、この、「採用における年齢制限」であったと思う。幸い、募集・採用時の年齢制限を禁じた改正雇用対策法が10月1日に施行される。

さて、これが今後実質的に職場と社員の意識をどう変えるか。年齢差別は人権侵害ということが議論の根底にはあるわけで(=そのような理由で米国では年齢差別を禁止)、そうであるとすると、募集時の表現のみならず、実質的な判断内容が問われるべきことになるだろう。職場のダイバーシティ(多様性)実現とも合わせて。この道程は長い。特に、年齢差別禁止を徹底すると、いずれ定年制の廃止も不可避となる。定年制によらずして人の新陳代謝を実現する方法が見出せなければ、年齢差別撤廃は完結しない。

ここでお定まりの議論の流れでは、年齢に代わるような客観性をもって能力評価をできるのか、という議論になる。しかし、年齢の代わりになる客観的な指標はある。それは、「勤続/在職/在任の年数」である。任期を管理して、厳格に運用することで、人材の新陳代謝は進む。たとえある人の能力の評価を客観的に行うことはできなくても、あるポジションに最もふさわしいのは誰か、という判断はできる。個々の社員ではなく、ポジションと後継者を管理対象にするのである。


さて、労働市場が活性化されるとともに、採用の年齢制限が撤廃されたとしても、それだけでビジネスパーソンのキャリアの視界が開けるとともに、能力が骨太になっていくわけではない。中高年のサラリーマンが募集に応募してきた時、採用したい、という魅力を感じさせることはめったにない、ということは経験的な事実であるように思われる。ビジネスパーソンのキャリアの閉塞感が打破されるためには、ビジネスパーソンの能力形成の仕方が変わっていかなければならない。特定の企業のやり方だけに習熟していても困るし、価値をプレゼンテーションできなければ仕方がない。

おそらく、必要になるのは次のものである。

  • 仕事を振り返り、本質を取り出し、状況に合わせて再構成できる力。成果を再現することのできる力。2倍にも3倍にでもできる力。それを説明できる力。

そのためには、経験を振り返り、客観化し、増幅する仕組みを仕事の現場に組み込む必要がある。それこそが育成のポイントになるだろう。組織が目指すべきは、フィードバック回路を張り巡らせることで、知識創造のスピードを速めるとともに、一人一人の経験を深め、強靭なものにすることにあるだろう。その手法としてはいろいろなものがありうるだろう。

  • 週次での仕事の総括
  • 職場の中にメンターを配置
  • 会議は原則オープンな場として誰でも傍聴を可能にする。会社が向かっている方向感やテンポが社内に常に感じられるように。そのようなオフィスレイアウト。
  • 専門知識をマニュアル化させ、顧客への提案材料にさせ、社内に広めさせ、それを評価する。
  • 業務日誌を公開して誰もがコメントできるSNSのような仕組みも非常に有益なものになりうるだろう。


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