ユニクロのファーストリテイリングが、2010年に売上高1兆円にするという目標を達成するために、新規事業、海外展開、M&A、そしてそれらを束ねる持株会社など、あらゆるアクションを起こしている。そしてそのボトルネックになるのが、事業を任せられる経営者人材の調達・育成であるという。・・・と柳井会長は語っている。ファーストリテイリングのIR資料を見ても持株会社化の3つの目的の一つは「優秀な経営者人材の獲得、育成」となっている。そして、今回の日経ビジネスも「ユニクロ流の経営者/創業者の量産」を特集のテーマとして組んでいる。
日本企業はグローバル企業になれるのか。製造業のグローバル化はある程度見通しが見えてきた。流通業、サービス業、金融業はどうか。ファーストリテイリングがグローバルな1兆円企業を目指すとしたら、それはどのような形になるのか、大変に気になるし、応援したいところである。・・・であるが、気になるところがある。
- 何のために1兆円企業になるのか?
- それによってどのような価値をもたらすのか?
- そのためにまず必要なのは沢山の経営者/創業者なのか?
・・・これらがよくわからないのである。1、2が不鮮明なままだから、3に負荷がかかろうとしているような気がしてならない。
私に何の資格があってこれを言っているかというと、カスタマーにとっては、1兆円企業であろうが、経営者人材が育っていようが、どうでもよいのである。だから違和感が残るのである。柳井会長にとってはそれが一番重要だというのはわかりますが・・・柳井会長の周辺の皆さん、柳井会長におもねていないでしょうね。よろしくお願いしますよ。
また、「経営者になってくれ」とスカウトされる立場になってみれば、あるいはファーストリテイリングに買収されて看板を付け替えることになる店長の立場になってみれば、「グループとして1兆円を目指すので、創業者の一人のような気持ちで頑張って欲しい」・・・という言葉が欲しいわけではない。
私がスカウトされる立場だったら/求人に応募する立場だったら、まず次のことを教えて欲しいと思う。
- ユニクロ/ファーストリテイリングとはどのようなブランドなのか
- どのようなマネジメントの方針を持つのか
- どのようなカルチャーなのか
- どのような人材活用をするのか
- 店舗運営は、例えばGAPとどのように違うのか
- 店員の育成や処遇は、例えばGAPとどのように違うのか
つまり、今のユニクロ/ファーストリテイリングの語りからは、人を使うにあたっての、コーポレートブランド、カルチャー、ピープル、といった側面が見えにくいのだ。ウェブページに載っているブランド戦略にしても、マーチャンダイジング(商品構成/品揃え)のことばかり語られているのが気になる。これでは、経営者や店長としてスカウトされたとしても、仕事を受けられないと思う。
どういうことかというと、経営者や店長を引き受けたとしても、「GAPではなくてユニクロのスタッフ/店員になる」ということの意味を説明できなければ、「人」を集めようがない。ほんの少し高い給料でGAPのスタッフ/店員を引っこ抜いてくる、ということしかできなかったら、多少差別化された商材があったところで、店舗は良い状態にならないだろう。
だから、「経営者」が必要なものはもちろんなのだが、その前に、「ユニクロのブランドステートメント」「ユニクロウェイ(行動規範)」「店舗運営ポリシー」「人材マネジメントポリシー」の方が重要である可能性が高いと思う。
「人材マネジメントポリシー」というのは、従業員が、GAPやMarks&Spencerではなく、ユニクロで働く理由は何か。ユニクロでは従業員の何を評価し、どのように報いていくのか。例えば、個人のどのような働きに報いていくのか、店単位のチームワークに報いていくのか、それとも1ブランド1チーム(要するに一体)の精神なのか、といったことである。
そしてそれらのブランドステートメントやポリシーは、「グループの中枢中の中枢」からしか出て来ないと思う。新しく採用した経営者に、「そこからあなたが作って欲しい、だから経営者でなくて創業者を求めているのだ」・・・と言ったとしてもそれは少し違うのではないかと思う。
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さて、さらにもう少し突っ込んで考えてみたいのだが、ユニクロ/ファーストリテイリングというブランドが世界で戦うとしたら、それはどのようなブランドなのだろうか?
(ニューヨークでやっているという、From Tokyo to New York というプロモーションは、Tokyo という、あるかないかわからない価値に逃げこんでいてちょっと安易なのではないかと思うが・・・ニューヨークの住民にとってTokyoというのは、原宿のコギャルのイメージなのか、レクサスが走る街なのか、どうなのだろう?)
「品質の良い物を安く」では全然足りないことは明らかだ。日本ではユニクロ以前にはそのようなものがなかったから、驚きをもたらし、ブランドになったが、世界では、(例えば)GAPと差別化されないのでは、顧客も従業員もモチベーションは沸かないだろう。
日本企業としては何としてもプレミアムブランドになる必要がある。それは従業員の日々の動き、そしてプライドの源泉になるものである必要がある。欧州の左翼インテリに受けそうなシンプルライフの提案で成功したMUJI(無印良品)に相当するようなブランド価値。
ユニクロにおけるそれ(プレミアムの内容)とは、「ハイテク生地で支えられた機能性」ではないか。その領域は今後とことん開拓されていく余地があると思う。それがどのような店頭とプロセスと人の動きにつながるかはまだ見えないが。
顧客として言わしていただければ、とことんその領域は開拓して欲しい。例えば、「安楽さ」と「フォーマルさ」はどうしても相反するので、そこを高い次元で統合するようなものを開発して欲しい。「生地の伸縮性を生かしたスリムだが楽なパンツ」というような提案が以前あったように記憶しているが、その路線である。
人間は衣服には敏感なもので、ごく僅かな違いであっても着ていて楽な方を選ぼうとする。夏であれば、体感温度が0.2度高くなるだけで、そちらは選ばない。特におじさんになってくると体のあちこちに潜在的な疼痛が潜んでくるもので、衣服の微妙な具合の影響に敏感になってくる。今のところそのことがアパレルメーカーに十分研究されているとは到底思えない。徹底した人間工学と素材の開発によってイノベーションを積み重ねて、衣料の領域で日本発のプレミアムなブランドが出来上がっていったら、とてもうれしい。
よろしくお願いします。ファストリの株を買おうかな・・・買える価格かな・・・