Great Place To Work (GPTW) すなわち「働きがいのある会社」という、米国の団体が毎年実施している調査結果についての記事である。昨年は日本の企業では62社が参加し、その上位20社のランキング。上位5社のうち4社までを外資系企業が占めているという。
この、Great Place To Work ということについて考えてみたい。
- GPTWとは何なのか?どのような意味があるのか?
- GPTWとは誰の課題なのか?誰が責任を持って取り組むべきなのか?
◆
まず、GPTWとは何なのか?
GPTWは「働きがいのある会社」と訳されているようであるが、少し違うと思う。GPTWのオリジナルの米国団体のホームページを見ると、build trust and more effective organizations を目指すと書かれているので、従業員との信頼関係を通じて「組織効率を高める」ということである。
では、「組織効率が高い」とは何か?モラールが高く、社員の「労働生産性」が高いということである、と考えることもできるが、今の時代においてより重要なのは、「知的資産を創出し育む土台」、すなわち「人的資本」「社会関係資本」が形成されている、ということであろう。
そのように考えると、その必要条件やアプローチもより鮮明に見えてくる。すなわち、
- 一人一人の強みが活かされ、一人一人が「比較優位」を発揮することができていること。一人一人が組織の中でかけがえのない存在になることができていること。
- アイデアを出し合い、知的資産を創出することが促進されており、かつその抵抗が取り除かれていること。
- ・・・
また、外資系企業の方がランキングが高くなっていることの解釈の仕方も見えてくる。例えば、外資系企業が従業員にとってGreatである場合、それは(英語が使えるとか米国企業のやり方が学べるとかいう意味で)自分のキャリアにとってプラスに感じられるということであって、「知的資産構築に貢献したい」ということではない場合がある。そのような要因についてはそれほど重視しなくていい。しかし、「オープンなディスカッションができない」「貢献が正当に評価されない」というような要因があれば、思いきり重視しなければならない。
◆
次に、GPTWとは誰の課題なのか?
GPTW実現こそ人事部の課題である、と考えるのがよい。
人事部の顧客は大きく分けて「経営者」か「従業員」である。すなわち、人事部の役割には「経営スタッフ」としての役割(人材発掘、人件費コントロールなど)と、「従業員代弁者」としての役割(労働環境・条件整備など)がある。そして歴史的に見て、日本においても米国においても、(組合活動が盛んになった時代など)従業員の声が強くなった時代にこそ、従業員と交渉しつつ経営者に対して従業員の声を代弁する人事部の立場が社内で強まった、ということが言われている(「日本の人事部・アメリカの人事部」)。そしてそれは、「人的資本」そして「社会関係資本」を充実させるという意味で、経営にとってもプラスになることであった。
しかしながら、90年代以降の人件費リストラの時代を通じ、人事部の役割は、「経営スタッフ」の方にシフトしていった。しかし、「経営スタッフ」として「経営企画部門」や「財務部門」と張り合うには限界があるということも指摘されてきた。
人件費リストラが一段落した今こそ、再度従業員の方を向き、「従業員代弁者」としての立場を再びとりあげ、GPTW実現の主担当となることにより、「人的資本」「社会関係資本」構築の主担当となるべきである。