大卒新入社員の3割以上が3年以内に辞めると言われているが、実際、2006年は25歳~34歳の転職者数が過去最大に達したという。そのような「若年大量離職時代」に関する特集記事。本特集では、若手が辞める要因を主に「上司」に求めており、処方箋事例として「職場のコミュニケーションの改善」事例を多く取り上げているが、本当の要因はそのようなところにはないのではないだろうか。
若手社員にとって、自分はビジネスパーソンとしてどのように生き残っていくことができるのか、ということが最大の関心時である。「この会社で与えられた仕事をやっていたら自分の将来は開けない、あるいは危ない」と思ったら、その会社に居続ける理由はない。
そしてほとんどの日本企業は現在、10年後に向けてのヴィジョンやロードマップ、すなわち、どのようなビジネスを開発するためにどのような能力や成果を社員に求めるのか、ということを示すことがほとんどできていないと思われる。組織の中は、今年の業績、せいぜい来年までのことで手一杯である。それでは、「職場のコミュニケーション」以前に、その企業に居続ける条件が満たされない。
新しい技術やビジネスの方向性に関する情報は、かえって人材市場の方にある。新しい技術やビジネスの方向性と、それに伴う人材需要の情報は、まず人材市場に流れてくるからだ。だから、職場にて与えられる従来ビジネスの延長線上の仕事よりも、ヘッドハンターから持ち込まれる案件の方を魅力的と若手が考えることには、合理性がある。記事の中で、あるヘッドハンターが自分のことを「日本株式会社の人事部」であると言っているが、それは理由のないことではない。
だから、経営者と人事部は、人材市場に先駆けて、現在から未来に向けての人的リソース再配分をしなければならない。経営者の打ち出す事業ヴィジョンは、そのような役目を果たすものでなければならない。そしてそれが人事部によって、具体的なキャリアパスや、職種や役割の再定義や、プロジェクト公募へと落とし込まれる。似たキャリア志向性の者が集まっての情報交換が促される。
もっとも、技術やビジネスの方向性について、経営者側が現場よりもより適確に把握できているとは限らない。将来の方向性を経営側から示しきれないこともある。その場合には、むしろ従業員の側に自由度を与えることも「あり」だろう。公募制度などを通じて従業員の異動希望などを適宜情報収集しながら、従業員の希望に沿うように、今年・来年の業績を若干犠牲にしてでも、意図的に先進的なプロジェクトをとっていく。そしてそのことをメッセージとして従業員に発する。