NHKドラマの「ハゲタカ」をDVDで一通り見た。評判通りクオリティの高いドラマ。緊迫感のあるやりとりが続くので、大変に勉強になる。登場人物の視点に立ちながら、自分だったらどのように対応するだろうか、とか考えながら、もう一度見てみたい。
しかし、経済ドラマとして見ると、問題はまだ何も解決されていない。
産業再生の課題とは、
- リソースを、競争力を失った産業から次世代の産業へと、再配分する
ということである筈だが、このドラマでは、その課題解決は先送りされただけで、まだ解決の光は全く見えていない。(芝野の経営とは何なのか?鷲津ファンドの機能とは何なのか?)
リソース再配分を、
- 市場を用いて価格指標を用いて行うのか /組織的意思決定として行うのか
- 別の企業主体を登場させてそちらに移すのか /これまでの主体が内側から変わるのか
ということは、手段の問題にすぎない筈だが、このドラマでは手段、しかもその手段の過程で生まれる問題(解雇される者が大量に発生するとか、自殺者が出たじゃないかとか、金を指標にすると人心を迷わすとか、ファンドが儲けるとか)に焦点が当たってしまっている。
つまりは、マクロの視点を捨てて、ドラマを作りやすいミクロの視点の、しかもその中において摩擦が生じて感情的葛藤が生じる局面に焦点を当てて、主人公を感情的葛藤に拘らせたもので、これでは、産業再生の問題をミクロの問題、感情の問題にすりかえるドラマになってしまう。2007年のNHKが総力を入れて作る啓蒙ドラマとしては、評価できない。かえって大衆のミスリーディングになってしまう。
そしてこのドラマで漠然と、「米国企業ではなく、中国企業と組めば、日本的経営の良さをわかってくれ、熟練の技によって培われた技術から価値を生み出すことができて、アジアを中心に国際展開もでき、産業再生につながるのではないか」という結論が示唆されているのは、不健全ですらある。(その意味で、アランの、「まだ終わったわけではない、また買収すればいい」という台詞は、カットせずに残しておいて欲しかった。そうすれば、まだ問題は解決されていないことが示唆され、開かれたドラマになった。)
小説も買ってあるので、そちらも覗いてみるつもり。
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もっとも、2007年前半の段階での国民的議論の焦点がまだこのドラマのアジェンダにあったとなると、まだまだ、先行する議論を組み立てる余地があるということにはなる。。。(大空電気は、高精度レンズのアプリケーション事業をなぜ開発できなかったのであろうか。どうしたら開発できるのであろうか。。。)
もっとも、昨年丁度ハゲタカがNHKで放送された頃から始まった、「フリーター」赤木氏による、「丸山真男をひっぱたきたい」という論文からスタートして始まった議論あたりから、既得権益を守ることで新しい産業/雇用が生み出されなくなっているということ、その皺寄せが就職氷河期のニート・フリーター世代に来ていること、そちらの方が国民的利益にとってはるかに重大な問題であること、つまりマクロに考えるべきこと、が徐々に一般の認識としても浸透を始めたのかもしれないが。。。