人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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成功する製品開発―産業間比較の視点
藤本 隆宏,安本 雅典
有斐閣

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夏休みの調べ物の中で、業界別の製品開発プロセスを並べて比較したい事情があったために、本書を引っ張り出したのだが、読みながらMOT(Management Of Technology)分野のテーマ設定について考えることがあったので、以下メモである。


本書は、「製品開発に成功する確率を高める方法」を体系的に探った、第一人者の先生方による本格的な研究書である。ここで追求されている解は、あらゆる産業に通用する一般解ではなく、産業別の特徴を反映させた解である。すなわち、産業別の特徴を考慮に入れた解を導出できるようなモデル構築が目指されている。そのために本書では、

  • まず、産業別に製品の特徴がどうであるために製品開発の成功要因はどのようなものであろう、という仮説が立てられる。
  • 次に、産業別のヒアリングに基いて製品開発の成功要因が摘出される。
  • 最後に、アンケート調査に基づいて定量的に裏づけがなされる。

しかしながら、本書は2000年の出版なのであるが、その後、製品開発において議論されなければならない論点は、本書において議論された論点から外れてしまったのではないだろうか。2007年現在求められているのは、

  • 産業・製品の特性が、製品開発プロセスにどのように反映されるかを見極めること

よりも、むしろ、

  • 個々の産業をサブシステムとして包含するような、価値創造・獲得のプロセスの全体像を一望できる大きなフレームワークを構築すること

であるように思われる。しかし、本書においても、また本書よりも後の文献においても、まだそのようなフレームワークの提示にまで至っているものは見られないように思う。


本書で扱われているのはあくまでも単体としての製品開発なのだが、製造業の業績のドライバーは、単体としての製品開発の外に広がっている可能性が大きい。もっとも、そもそも本書は視野を広く持とうとしており、単に特定の製品開発の成功ストーリーを扱うのみならず、製品開発を高い確率で成功させることができる組織能力に着目し、

  • 組織運営をどのようにしたら製品開発の打率を高めることができるか

ということを論じているのだが、しかしさらに広げて、

  • 製品開発を中心的課題としながらも、個々の製品のヒットを超えて、製品を中心とした企業全体としての中長期的な価値創造・獲得能力をいかに高めるか

ということまで広げて扱うことができないと、日本の製造業の利益率の低さを論じることもできなくなってしまう。実際、本書の各論において、今後の課題として、個々の製品開発を超える次のような課題が示唆されている。

「(製品や組織の)モジュラー化を実現するために求められる能力や管理手法については、その議論の入り口を示しただけにすぎない。」(P.84) (カラーテレビ産業)

「タスク・ジャッジ(=ニーズに対して新商品化するかどうか、どの組織を携らせるかの判断)をする人物の研究や、それらを行う人物をどうやって発見するのか、どうやって育成するのかなどについては言及できていない。」(P.149) (合成樹脂)

「(マーケティングと製品開発を一貫した)ストーリーの整合性・一貫性の保持のためには、コンセプト作成者(リーダー)の各段階への一貫したコミットメントが重要になると思われる。」(P.183) (化粧品)

そこでは、社内と社外のリソース、マーケティングと製品開発等の異なる職能、異なる技術分野など、異なる領域が統合されて論じられることになる。次の論点が含まれることになるだろう。

  1. 製品とサービスとを含めた、商品全体像の設計
  2. 水平分業化される産業構造の中での棲み分け方
  3. 複数製品をまたがる製品ライン全体の最適化
  4. 要素技術の深め方と、その製品開発への取り込み方
  5. 製品ライフサイクルを通した価値獲得

そして、製品開発を中心とする価値創造・獲得プロセスの全体像を示す一枚の絵を関係者が共有することで、次のような状態を実現できることが目指されることになるだろう。

  1. 製品とサービスとを含めた、商品全体の設計・実現プロセスを見ることができ、
  2. どの部分に誰が従事するか、という棲み分け方を考えることができ、
  3. 複数製品をまたがったリソースの配分を適確に行うことができ、
  4. 要素技術開発に携る人と、製品開発に携る人が同期をとることができ、
  5. 製品ライフサイクルを通した価値獲得のために行うべきことが見える。


本書の仮説設定・調査の骨格は次のようなものになっている。すなわち、業界別に、A)開発パフォーマンスと、B)開発パターンとの間にどのような因果関係が見られるか、それは、C)産業・製品の定性的特性によってどの程度説明がつくか、ということが調べられている。

A)開発パフォーマンス ⇒ 次の6つの指標によって評価
   顧客満足度・総合的品質
   開発コスト・工数
   開発期間
   製品の性能ならびに機能
   製造品質
   製造コスト

B)開発パターン(製品開発における実務慣行) ⇒ 次の7つの分野にグルーピング
   問題解決のメディア
   コンセプト定義
   要素技術開発
   製品開発
   量産工程開発
   コミュニケーション
   管理・調整の方法

C)産業・製品の定性的特性
   開発課題の特性しにくさ(多義性)
   起こりうる事態の予測の難しさ(不確実性)
   考慮された要素の多さ(多様性)
   考慮された要素間の複雑さ(相互依存性)

しかし、骨格に次の項目を追加して拡張がなされる必要があるだろう。

A)開発パフォーマンス
   製品ライフサイクル全体での利益
   顧客囲い込み/ブランドロイヤリティの形成
   製品改善・改良データの取得

B)開発パターン(製品開発における実務慣行)
   派生商品・オプション開発の自由度
   製品ライン一貫性の維持
   アフターサービス
   販売・使用データの取得
   マーケティングとの連動
   短期・中期・長期課題へのリソース配分

C)産業・製品の定性的特性
   製品ライフサイクルの長さ
   派生製品・サービスの多さ
   ユーザー使用状況のデータ取得可能性



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