人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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オフィス用品通販のパイオニアであるアスクルが、その仕組みをオフィス用品以外にも転用し、医療向けや飲食業向け通販に進出しているという。また、従来のオフィス用品においても、カタログ/商品/サービス内容ともにより満足度や利便性が高まるよう洗練させているという。

アスクルのビジネスにおいては、カタログという一点において商品やサービスが明確に定義されており、従って、顧客とのインターフェースも、メーカー(ベンダー)とのインターフェースも、配送業者とのインターフェースも、明確に定義されており、モジュール化しやすい。つまり、各機能の掘り下げや、アウトソーシングによるリソースの活用を行いやすい。

そして実際、アスクル本体は「カタログに載せる商品選定・開発とそのカタログ上でのプレゼンテーション」に集中し、その他の機能はアウトソースしながら高い業務品質を実現しているという。アスクルはカタログによる商品・サービスアーキテクチャの元で、モジュール化メリットをとことん生かしている、というように理解できる。


その中でも特に注目されるのは、「顧客訪問」の位置づけである。カタログ販売のアスクルも顧客訪問をしている。ただし、それは受注のためではない。新規開拓のためでもない。(新規開拓は業界に精通したエージェントにアウトソーシングしているという。)顧客訪問は商品開発のためであり、カタログやサービスの改善のためである。だから、たとえば、医療業界向け事業においては、時には看護師や医師に密着してニーズを探るという。

Web時代以前のビジネスでは、顧客との接点が営業マンとの面談に依存せざるをえない部分が大きかったことから(顧客との接点が希少な機会でありリソースであったことから)、営業マンに多くの機能が担わされていた。営業マンには、大きく、商品やサービスを伝達して販売する機能と、情報収集機能の両方が担わされていた。そして情報収集機能においては、特定顧客の情報収集のみならず、(顧客がマーケットを代表するという考え方から)マーケット情報も収集することが期待された。そして、「単に売るだけではなくマーケットニーズを商品開発にフィードバックできる」営業マンが良い営業マンとされてきたと思う。

本アスクル事例を読んで、そのような、従来からの営業マン中心の「顧客接点」像を変えなければならないことを再認識させられた。売ることを一切目的に含まずに顧客を訪問することにより、情報収集の量や質は飛躍的に高まるのではないだろうか。売る機能はカタログに任せきることで、顧客訪問活動は「売ることにつなげなければならない」桎梏から開放され、情報収集活動のパフォーマンスは格段に高くなるのではないだろうか。

・・・というのは、情報収集活動と販売活動は相反する活動だからである。もちろん、「情報収集することで販売につなげる」ということは建前としてはあるが、顧客の本音は「売り込まれたくない」のであるから、「情報を提供すればするほど売り込まれることにつながる可能性が高い」と思う以上は、顧客は情報提供に及び腰になる。この矛盾を抱えながら行う苦しい活動が「営業」であって、だから、大部分の人は営業活動をするのは好きではない。(その制約の中でかえって燃えることのできる少数派こそは真の営業マンであると言えようか。)

だから、そのような矛盾を最初から解消した上で、「情報収集」機能だけ取り出して、顧客との合意のもとに実施した時には、その活動のパフォーマンスは従来の営業活動における「情報収集」とは比較にならないほど高いものになる可能性が高いと思う。


さて、「顧客訪問」をする役割を何と呼ぶのか、本記事には書いていないが当然、「営業担当」ではなく、「マーケッター」であるべきであろう。その役割は、個別具体的な顧客ニーズではなく、統計値としてしか存在しないマーケットニーズを対象にすることになる。そのような割り切りから、マーケットニーズをつかむためのサンプリング数が決まり、訪問数も決まり、そこから、設置すべきマーケッターの数も決まってくるだろう。

そして、営業活動はカタログやWEBにさせるが、マーケティング機能はあくまでも人が担う、という点にアスクルの戦略があると考えられる。マーケットとは統計的な存在であるから、GoogleやAmazonの発想で、マーケッターもWEB上でロボット化してしまう(あるいはネットワーク/コミュニティ化してしまう)ことはできなくはないと思われるが、マーケッターをあくまでも自社の社員にするのは、「商品開発に付加価値の源泉があり、そこを深耕する」という意思の表れだろう。



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