人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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ここのところよく指摘されるように、この十年来数百万人単位で進んだ労働力の派遣・請負化は、(偽装請負等)労働法コンプライアンス上の問題のみならず、企業の競争力にも、「派遣・請負依存体質」「スキルの空洞化」・・・という問題を生じさせた。そのため再び、直接雇用化、正社員化を推進する動きも聞こえてくる。例えばキヤノン。

キヤノンは2007、08年度の2年間に、国内のグループ19社の製造部門で働く計3500人の派遣社員や請負労働者を、正社員などの直接雇用に切り替える計画を明らかにした。・・・同グループの製造部門では、従業員の75%にあたる約2万1400人が間接雇用(派遣社員約1万3000人、請負労働者約8400人)。http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070325i101.htm

「同一労働には同一賃金」、「同一の仕事には同一の処遇」・・・が原則であるべきことは当然であると思われる。「平等社会の精神」ということもさることながら、その原則がなければ職場の一体感が損なわれ、職場の士気が高まらず、生産性も品質も高まっていかないからである。

しかしながら、現在の労働の同質性に着目して、派遣社員や請負社員を「正社員」化していった時、雇用主がグローバル競争の中で戦えなくなることも確かであろう。最近キヤノンがよく問題になるが、キヤノンは「生産を日本に残す」というチヤレンジをしていることも考えなければならない。

「一人一人の限界生産性を測定してそれに応じた賃金を支払う」ことが難しい以上は、また、「効率賃金仮説=実質賃金は限界生産性よりも高くなるという仮説」の元では、安定した雇用と処遇を半ば保障する正社員グループの範囲は狭く画しておかざるをえない

解決へのアプローチとしては次の2つがある。このどちらが適切だろうか?

  1. 派遣・請負社員の正社員化への道をできるだけ開く。もちろん、それができる範囲には限りがあるため、能力や実績を公平に評価して優秀な者から正社員化するものとし、正社員になれる機会は平等に保障する。(垂直統合維持型)
  2. 請負化・アウトソーシングを進める。仕事をモジュール化して切り離し、派遣・請負会社がより独立して仕事を受け、ノウハウを蓄積して、自立できるようにする。そのために、発注企業側からも、人材をそれら派遣会社や請負会社に出向させたり転籍させたりする。(水平分離型)

私は後者(2)がむしろ適切であると考えている。

前者(1)の場合には、ノウハウや優秀人材が常に発注企業側に吸い上げられることになる。そして発注企業への従属の構造は変わらない。

後者(2)によって初めて、仕事を受ける側の自立が可能になる。競争力を維持できる雇用形態や報酬制度の導入がより容易になる。また、製造機能ならば製造機能として集約することで国内で製造業が成り立つのかどうかということも明確になる。成り立つことを証明して利益が生まれた場合には、しかるべきリターンを受けることも可能になる。

(なお、派遣・請負社員の直接雇用化が、雇用主、労働者、派遣・請負会社それぞれの立場からどのような意味を有するか、ということについて、次の「労務屋」さんのブログ「吐息の日々~労働日誌~」で詳しく考察されています。http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20070326 )


さて、本記事で取り上げられている業界は製造業だけではない。同じロジックを他の業界にも当てはめたら、それぞれあるべき方向性はどのようになるだろうか。性質の異なる機能を水平分離し、それぞれの層ごとに従業員の直接雇用を前提に、ただし独自の競争力ある処遇体系を整備していくとしたら・・・

  • 製造業 ――― 製造EMS化
  • 放送業界 ――― 放送と制作を切り離す。制作機能が放送機能から独立し、良いコンテンツを拡販して制作費用回収を目指せるように。ただしそのためには、コンテンツを自由に流通/調達できることが前提になる。
  • 情報システム業界 ――― プロマネ機能、業務改革支援機能、システム導入機能、SI機能を切り離す。それぞれのビジネスモデルに基づいて能力構築を行い、報酬体系を整備。
  • 通信業界 ――― インフラ構築・維持機能、サービスオペレーション機能、販売機能、通信ソリューション機能を分けて、それぞれに合った能力構築を行い、報酬体系を整備。
  • 小売業(衣料チェーンストア) ――― 店舗マネジメントと販売の職種としての違いを明確にし、カリスマ販売員には専門家としてのインセンティブを与えられる仕組みが必要。独自の資格制度など。
  • ・・・


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