人材マネジメントの枠組みに関するメモ
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事業再生プロフェッショナル―6カ月で収益力が飛躍的に改善する
清水 輝幸
ダイヤモンド社

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小説風の事業再生ケーススタディ。私も以前同じ仕事に従事していたので、その情景を思い出すために引っ張り出してメモをとる。

  • 事業が立ち行かなくなっている会社において、何をしたらいいのか、社員は実は知っている。
  • しかし実施を踏みとどまらせている障害がある。
  • 事業を立ち直らせ、自らが生き抜くためには、その障害を超えるしかない。

・・・本書はその障害を超えることの重要性に焦点を当てた物語である。

本書は、次のことをひたすら扱っている。

  • 実はうすうすわかっていることを、何故実行できないのか。
  • 実行しきるためには、どのようなきっかけと支援が必要か。

逆に、次のことは扱っていない。

  • どのように戦略を立案したらいいのか。
  • どのように目標を設定すべきなのか。
  • 目標を達成するためにどのような手法を用いたらいいのか。
  • 目標を達成するためにどのように組織構造を整えたらいいのか。

つまり、小説風の事業再生ケーススタディとして定評ある、『V字回復の経営』をはじめとする三枝匡の事業再生物語シリーズが、上記のことに7割の比重を割いているとしたら、つまり「戦略コンサルタント」によるものであるとしたら、本書は、上記のことには1割の比重しか割かず、残りのことに9割の比重を割いている。すなわち本書は、「戦略実行コンサルタント」によるものである。


物語の最初の段階で、初年度に達成すべき、これまでの延長線上では達成不可能な業績目標が明示されて、この物語は始まる。そう、本書のコンサルティングのアプローチでは、上記のような、実行に取りかかる前の戦略策定やら組織改変、ということは問題ではないのである。またコンサルタントは、その業界のビジネスのことやら技術のことやらを詳しく知る必要もないのである。

なぜなら、自分達が再生し生き抜くために何をやるべきかということは、ほとんどの場合、社員は実は知っているからである。やるべきことを、何のかんの理由をつけてやっていないことが問題の本質であることがほとんどだからである。そこに、戦略だの組織だのと言い始めたら、実行を先延ばしにする理由をもう一つ与えることになるだけなのだから。

本書のケースの場合であれば、やるべきことは、次のことである。

  • 営業部門: 新規売上とその粗利目標を達成するために、チャネル別/商品カテゴリ別/価格帯別のマーケットシェアのバラツキに着目して、店頭露出のヌケモレを埋める。
  • 調達部門: 対売上原材料費率、資材費率削減目標を達成するために、標準仕入単価を、部材毎の市場価格の実勢に緻密に合わせる。
  • 製造部門: 仕掛在庫削減、パート人件費削減目標を達成するために、標準時間の内部に踏み込み、人による作業時間のばらつきを炙り出し、平準化する。
  • 商品開発部門: 商品ライン削減、製品在庫削減目標を達成するために、店頭で消費者の声を聞き、まずテストマーケティングを行い、商品投入の精度を高める。

つまり、マネジメントレベルを高めることである。なぜそれらに長年手がついてこなかったかというと、次の理由があるからである。

  • 誰がやるのか不明確。
  • 他部門が制約条件を与えている。
  • どんぶり勘定をしていて細分化した中身に踏み込んでいない。何故踏み込まないかというと、管理会計の不足等々により必要なデータが手元にない。データを入手するためには、少しの知恵と、何よりも、沢山の汗とを流さなければならない。

だから、

  • 懸案の課題ごとに解決責任者を一人決め、
  • お互いに制約条件を与えていた責任者の顔を突き合わさせ、
  • 社長との間の契約として目標にコミットメントさせ、あらゆることを投げ打って取り組む覚悟で2週間~1ヶ月の期間を与えれば、これまで何年も手つかずだったことであっても、解決に向けてのブレークスルーが開かれる

のである。


こう見てみると、ゴーン改革にも似る。このプロセスを支援するためには、コンサルタント/チェンジエージェントは、自ら解決策を組み立てて提示してあげなくても、相手の言っていることが理解できればよい。相手が言っていることの論理を緻密に追跡できればよい。相手の理屈にあいまいなところや逃げがある限りは一歩も引かない姿勢があればよい。相手は正しい答をおぼろげながらでも知っているものである。粘り強く会話をしながら、最終的な答をずばり引き出し、目を見て、やろう、と言えればよい。正しい答については、正しい答を知っている者を社内から見い出せばよい。誰かいるものである。逆に、社内でまだ誰も脳裏に一瞬でも思い浮かべたことがないような解決策というのは、どのみち実行できないものであることが多い。

実行こそ9割がた重要であり、実行の前に立ちはだかる壁を打ち壊せばいい。・・・この考え方をどう評価するか。本質を突いているのではないだろうか。本書には、改革に付随する様々な感情の処理とか、ぎりぎりのところで部下を巻き込むきっかけとか、いろいろなことが盛り込まれており、最大のメッセージがそれらの中にまぎれて直裁に見えないきらいがあるため、本書の意味は読者になかなか理解されないかもしれない。戦略も練っていないじゃないか、組織もそのままじゃないか、特別な改革手法も使っていないじゃないか、人間ドラマとしては薄いじゃないか・・・と。しかし、重要なことはたしかに、「本当だったらこれをやるべき」ことを、厳然と、粛々と、淡々と、やる、ということである。


ところで逆に、戦略の策定と実行もさることながら、その後が重要である、という考え方もある。すなわち、実行の結果、成果が得られた時に成果をどのように配分し、どのように人材を処遇するか、ということが重要である、という考え方である。正しくインセンティブが与えられていれば戦略策定も、戦略実行も行われるので、むしろこの、処遇の問題が最も重要である、という考え方である。

そのような考え方も成り立ちうる。しかし、実行の過程で、その問題の答はおのずから明らかになってくる。変革を実行するプロセスに入れば、能力を発揮する者、発揮できない者が顕著に見えてくる。発揮できたものは登用し、ますます発揮できるようにする。発揮できない者は足を引っ張らないようなポジションに転身させる。戦国時代のようなものである。能力を発揮せざるをえない舞台が設けられれば、人材とそのあるべき処遇の方向性は、誰の目にも明らかな形で、おのずから見えてくる。



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