坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

シャルダン展ー静寂の巨匠

2012年08月02日 | 展覧会
ジャン=シメオン・シャルダン(1699-1779)は、華麗なロココ時代の18世紀に活躍したフランスの画家ですが、その画風は繊細華麗なタッチというよりは、落ち着いた深みのある色調の質実な写実感が特徴的です。
シャルダンは静物画、風俗画を主に描きましたが、17世紀オランダ風俗画を参考にしたと言われています。今最も人気のある画家の一人としてあげられるフェルメールや同時代のオランダには多くの優秀な風俗画家が活躍しました。
フェルメールと同じようにシャルダンも19世紀に入って再評価され、国際的に高い評価に位置づけられています。
30代に入った頃から、シャルダンは厨房に並べられた調理器具や食材をモチーフに描き始めます。風俗画も同時期から始めますが、掲載の「食前の祈り」1740年頃は、出世作で国王ルイ15世に献呈された作品で、その後各国の王侯貴族から注文を受け、同主題の作品を同じ構図で試み、4作が現存しています。
食卓の用意をする母親とテーブルの前に行儀よく座る姉、二人に見守られて小さな男の子(女の子のような服装ですが)がお祈りを捧げる一瞬の様子が描かれています。つつましく、温かい感情が流れます。
本展は日本で初の本格的なシャルダン展として、初公開「木いちごの籠」、「カーネーションの花瓶」を含む38点で構成されます。

◆シャルダン展ー静寂の巨匠/9月8日~23年1月6日/三菱一号館美術館(丸の内)